【インタビュー】ゲーム業界で働くということ:コンセプトアーティスト Sabin Boykinov 氏
Ubisoft のシニア コンセプトアーティスト Sabin Boykinov氏 が「アサシン クリード」シリーズや『ディビジョン2』での仕事、インスピレーション、そして、コンセプトアーティストになるために必要なことについて語ります

Q. 自己紹介をお願いします
私は、ブルガリアのドナウ川近くにある小さな街ルセで生まれました。芸術の道は、ピアノ奏者として音楽から始まり、伝統的な画家としての古典芸術へと続きました。これまで多くの展覧会に参加し、個人コレクターのために作品を描いてきました。
幼い頃から、コミックアートや映画、ビデオゲームに夢中でした。父に連れられて映画『スター・ウォーズ』を見たとき、その後の人生を左右するくらいの衝撃を受けました。当時は、多くのアーティストが作品内のクリーチャーや環境を描いていたことに気づきませんでした。
2006年、ブルガリアのソフィアにある Haemimont Games に入社し、ゲームのコンセプトアーティストとして働き始めました。そこでは、ビデオゲームのデザイン、クリエイティブなプロセス、ゲームプロジェクトの組織について多くを学ぶことができました。また、コンセプトアートの制作工程では、最初の構想から実際のゲームへの実装まで携わりました。私のチームは 『トロピコ』シリーズ、『Omerta city of Gangsters』『グランド・エイジズ・ローマ』『The First Templar』『ヴィクター・ヴラン』などを手がけました。数年後、Ubisoft Sofia のチームに移籍し、シニア コンセプトアーティストとして働いています。
Q. 何からインスピレーションを得ていますか?
インスピレーションの源は「旅行」です。新しい場所や文化を体験し、さまざまな風景やディテールを記憶することで、ビジュアルライブラリが豊かになり、想像力が刺激されます。また、「書籍」からも大きなインスピレーションを得ています。読書は、さまざまな状況や世界を視覚化する刺激となるため、専門分野の開発にとって重要だと考えています。3つ目のインスピレーションの源は「音楽」です。ずっと音楽を続けてきたので、さまざまな形態の音楽へ情熱を持ち続けています。私は想像の中で、音を絵に変換しています。もちろん、すべてのアーティストがそうであるように、私にも好きな古典的な画家やモダンな画家、CGアーティストがたくさんいます。
Q. Ubisoft での仕事について教えてください。どんなプロジェクトに携わり、どのような経験をしましたか?
Ubisoft で働くことは、最初の『アサシン クリード』をプレイして以来の夢でした。このゲームは今でも私のお気に入りです。
Ubisoft では『アサシン クリード オリジンズ』と そのダウンロードコンテンツ、『スカル アンド ボーンズ』『ディビジョン2』の制作に携わりました。業界の才能豊かな人たちと一緒に仕事をすることは、本当に素晴らしい経験です。なぜなら、日々新しいことを学び、社内の多くの素晴らしいアーティストやアートディレクターからフィードバックと指導を受けることができるからです。
Q.『アサシン クリード』や『ディビジョン』のような巨大フランチャイズに携わる中で、最もエキサイティングだったことや驚いたことは何ですか?
大きなタイトルの制作に携わることは、コンセプトアーティストにとってエキサイティングな経験です。私にとっては、自分の好きなゲームにようやく貢献できるようになったことが一番でした!
Raphael Lacostel、Martin Deschambault、Gilles Beloeil など、尊敬するアーティストたちと同じチームで働けたことは、プロとして学び、成長する素晴らしい機会となりました。プロジェクトごとに異なるアートスタイルを切り替えるのは大変でしたが、自分のアートがゲームに登場したときはとても満足感がありましたね。
ゲーム業界で働くコンセプトアーティストとして、どのようなユニークな課題に直面していますか?
コンセプトアーティストとして働くことは、日々挑戦です。プロジェクトごとに異なる課題やスタイルに直面するため、強力なビジュアルライブラリとデザイン思考アプローチの構築を求められます。
アーティストは制作プロセスのあらゆるレベルで問題に取り組まなければいけません。そして、そのすべての決定が、ゲームの最終的なビジュアルスタイルに影響します。そのため、強力なチームプレーヤーとなり、そしてチームメイトからのアドバイスや批判を受け入れることがとても重要です。優れた批評家たちは、時間を大幅に節約してくれるでしょう。
Q. 最も誇りに思っている作品と、その理由をおしえてください
すべての作品でもっと良くしようと努力しているので、選ぶのは本当に難しいですね。強いて言うなら、『アサシン クリード オリジンズ ファラオの呪い』の DLC がお気に入りです。なぜなら、ファンタジー要素と想像力豊かな外観が多く含まれていたからです。そのような題材に取り組むのが好きです。
Q. どのようにして「クリエイティブ・ゾーン」に入りますか? 特別な場所や好みの時間帯がありますか?
夜に一人で考えに耽ることができる 自宅の小さなスタジオ がお気に入りです。そこは、個人制作で有意義な時間を過ごせる完璧な場所です。私の1日はオフィスで始まり、その後、自宅へ続くため、クリエイティブな仕事で満たされています。クリエイティブモードに入るときは、音楽をかける ことが多いですね。
Q. アーティストとしてゲーム業界に入ろうとしている人にアドバイスはありますか?
「アートの基礎スキルを磨くための情熱と規律を持つこと」です。アートの基礎はとても重要で、遠近法、構図、さまざまなドローイングテクニックが含まれます(※記事の最後に「おすすめ書籍リスト」があります)。
また、「ゲームをプレイすること」で、コンセプトアートを効果的に制作する方法を学ぶことができます。アートフェスティバルやワークショップに参加し、人脈を作り、社交性を磨き、ポートフォリオを見せることを恐れないでください。誰が見ているかわかりません(将来のチームメイトやアートディレクターが目にするかもしれません)。
Q. ゲーム業界でプロのアーティストになるために、正式な教育は重要だと思いますか?
アート教育で基礎を学ぶことはできますが、教育自体は必須ではありません。なぜなら、「良いポートフォリオがあれば、学歴は問われない」からです。今日では、良質なチュートリアルや講義ビデオが豊富にあり、それらを活用して優れたコンセプトアーティストになることができます。「必要なのは学習意欲だけ」です。
Q. 個人制作をする時間はありますか?
私にとって、個人的なプロジェクトに取り組むことは非常に重要です。そのため、たとえ1時間でも2時間でもいいので、時間を作るようにしています。ここ数年は、空き時間に鉛筆画やイラストなどの伝統的なアートに情熱を注いでいます。世界中のおとぎ話からインスピレーションを得て、個人的な課題やテーマを探求するのが好きです。
Q. 時間やリソースに制限がないとしたら、理想的なプロジェクトはどのようなものですか
多くのことに興味があるので、答えるのが難しいです! 例えば、部族の伝説やおとぎ話にインスパイアされた大規模なオープンワールドのゲーム、あるいは、超現実的なドキュメンタリー映像探求を含む映画プロジェクトを手掛けたいですね。
Q. 近年の作品についてお聞かせください
『アサシン クリード ヴァルハラ』のようなゲームのプロジェクトと並行して、個人作品を集めた小さなスケッチブックにも取り組んでいます。プロジェクトは順調に進んでいるので、早めに完成させたいですね。
いくつかのイラスト付き小説はまだ初期段階で、ドローイングボードには多くの作品が待機しています(Sabin Boykinov 氏 の Instagram)。
■おすすめ書籍リスト
アサシン クリード シリーズのコンセプトアーティスト Gilles Beloeil 氏 も執筆
『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 改訂版』
「アートの原則」の実践編
『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則:ビフォー&アフター』
基礎を学んだら、それらを結びつけるテクニックを習得しよう
『構図とナラティブ:絵にストーリーを語らせる秘訣』
編集部からのおすすめ:世界のプロに学ぶ仕事術、上達法、セルフプロモーション、キャリアアップのヒント。書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』