【インタビュー】黄金期の英国SFアートにインスパイアされ:コンセプトアーティスト Wayne Haag 氏

映画業界でコンセプトアーティストとして活動しながら 講師もしている オーストラリアの Wayne Haag氏 が その制作やインスピレーションについて語ります


Wayne Haag
コンセプトアーティスト / 油絵画家 / 講師|オーストラリア


オーストラリアのメルボルン出身の Wayne Haag氏 は、1994年に RMIT 大学 で写真の美術学士号を優秀な成績で取得。1996年に Digital Domain で 映画『フィフス・エレメント』『北京のふたり』のマットペイントを担当し、プロとしてのキャリアをスタート。最近では、『ウルヴァリン:SAMURAI』『メイズ・ランナー』『不屈の男 アンブロークン』『キング・オブ・エジプト』『エイリアン:コヴェナント』のコンセプトアートを手掛けています。

Q. 自己紹介をお願いします

オーストラリアのメルボルン出身で、シドニー在住の Wayne Haag です。映画業界でコンセプトアーティストとして働いていますが、色と光を教えることもあります。かつて、国防総省で産業用電子機器に携わり(最高機密のセキュリティ クリアランスも含む)、その後、写真を専攻し、1994年に美術学士を取得しました。

その講座は、ピン留めできるボードに リスフィルムでマスクして、写真の要素を合成する実験をしていたので、マットペインターになるための勉強になりました。デジタル合成が始まる前、『スター・ウォーズ』ジョージ・ルーカス監督、1977年)のような映画のSFX担当者は、このように光学的に合成していたのですが、Photoshop(当時 V1.5)を知ると、暗室は使わなくなりました。

映画業界で初めて仕事をしたのは、1996年に Digital Domain で携わった『フィフス・エレメント』リュック・ベッソン監督、1997年)です。最近は、時間があれば、大きなサイズのSF油絵も描いています。こうした時間を楽しんでいます。

Sky Burial #1 :船舶解体サーガの最初の油絵

Q. 子供の頃、最も影響を受けた人は誰ですか? 現在、最も影響を受けている人は誰ですか?

70年代後半から80年代前半に幼少期を過ごした私にとって、『Terran Trade Authority』(TTA)シリーズがすべての始まりでした。ジム・バーンズクリス・ムーアジョン・ハリスティム・ホワイトクリス・フォスピーター・エルソンなどのアーティストと TTA の本がとにかく好きで、今でも持っています。あの黄金時代の英国のSFアートは、私の心を揺さぶりました。一番好きなのは当然『Spacewrecks』で、これには誰も異論はないでしょう。

Rendezvous - Detail:油絵を拡大したもの

また、ユーロ・コミックスにも夢中になり、当然その筆頭は メビウス(ジャン・ジロー)でした。歳をとるにつれて、30年代、40年代、50年代の無名のイラストレーター、主にアメリカを拠点とする素晴らしいアーティストをたくさん発見しました。

鉛筆スケッチ1:船舶解体サーガの小さな鉛筆画

Q. 大作映画の制作に携われていますが、その経験はあなたにとって どのようなものでしたか?

初めての映画の仕事が『フィフス・エレメント』で、今でも最高の経験となっています。『ロード・オブ・ザ・リング』ピーター・ジャクソン監督、2001年)の制作をきっかけに、私はVFXという分野に向いていないとわかり、そして、芸術としてのマットペイントが消えていくことを知りました。最近は、多くの映画が委員会方式でデザインされ、ポストプロセスのVFXでは、『フィフス・エレメント』で経験したような職人気質が失われています。

★『フィフス・エレメント』トレーラー(1分47秒)

そのため、プリプロダクション段階のコンセプトアートに進むことにしました。ここでは、魅力的なイメージを描いている限り、描き方や使用ツールを気にする人はいません。私にとっては、その方がずっと面白く感じるのです。『ウルヴァリン:SAMURAI』ジェームズ・マンゴールド監督、2013年)も『エイリアン:コヴェナント』リドリー・スコット監督、2017年)も、優秀なデザイナー、AD、アーティスト、みんなが励まし合って、素晴らしい作品に仕上がりました。

★映画「ウルヴァリン:SAMURAI」予告編(2分3秒)
★映画『エイリアン:コヴェナント』予告A(2分13秒)

Q. 仕事や個人プロジェクトでは、どのようなツールを使っていますか?

商業制作(主に映画)では、デジタルツール(Photoshop、Maya)を使用しています。最近は Procreate をワークフローに導入するようになりました。個人制作は、すでに述べたように油彩です。仕上がりが明らかに伝統的な絵でも、必要に応じてデジタルツールを使用します。作品を完成させるためなら、どんなツールでも採用しています。

Kunzum La - Gouache study:油絵風のガッシュの習作

Q. 「クリエイティブゾーン 」に入るにはどうすればいいですか? 作業に集中できる特定の場所や時間帯がありますか?

映画業界では、どんな状況でもゾーンに入ることを学びます! コンセプトアートの場合、脚本がシーン/環境/時間帯/感情などを知らせてくれるので、インスピレーションを得るのにそれほど時間はかかりません。

私のアプローチは、「どんなショットでも写真のようなリアリズムを追求すること」で、それが映画のルックとなります。そのため、私のインスピレーションは、写真の光学的なルックを求めるという意味で、技術的とも言えるでしょう。「正しい構図とライティングを見つけること」が、内容以上の原動力となっています。

Desert Wreck - Detail:油絵のディテールを拡大したもの

Q. 最も誇りに思う作品はありますか? その理由も教えてください

油絵作品「Sky Burial #2」です。これは 私にとって分岐点となり、この一連の作品で個人的な方向性が定まりました。完璧ではありませんが、私の中の芸術的なコンパスの針が、初めて真北を指したのです。今はただ、このまま進もうと思っています。この作品は、2016年にニューヨークの Society of Illustrators による Spectrum Show で展示、グレゴリー・マンチェス に選ばれたので、とても嬉しかったです

Sky Burial #2:船舶解体サーガの 2番めの油絵

Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあればおしえてください

私のポートフォリオは、最近あまり調整されていません。秘訣は、「やりたくないことはポートフォリオに入れない」「少ないほうが良い」ということです。20枚の中で10枚が素晴らしければ、すべてを詰め込まずに 10枚だけ入れて、残りは捨ててください。そして、冷酷に徹しましょう。その時点で管理しているベストなものだけを使います。

鉛筆スケッチ2:船舶解体サーガの小さな鉛筆画

Q. プロとして活動する上で、正規の教育はどの程度重要だと思いますか?

多くの美術学校は学費が高く、その価値があるかどうかを判断するのは難しいでしょう。私が教えている学校は(まだ)認定校ではありませんが、官僚的な干渉に邪魔されないので、優れた生徒を輩出できています。私たちは、ソフトウェアやコツではなく、現場の基本スキルを教えています。普遍的な技術や知識は、この先、きっと役立つ機会があるでしょう。

学生たちは、知っておくべきことを知らないまま入学してきます。そして、「構造」「残りの芸術人生で力となるツール」「自分の強みと弱みを診断する能力」を手に入れて卒業します。

政府公認のカリキュラムに従った高価な学校や、質の悪い学校は避けたほうがよいでしょう。20年間、筆をとっていないような、埃をかぶった講師ではなく、現役のアーティストから学びたいものです。もちろん、授業料を払う余裕がない人には、オンラインで多くのリソースも提供されています。

Sky Burial #31:船舶解体サーガの3番めの油絵

Q. 芸術的な目標はありますか?

金銭や住む場所の心配をせずに、フルタイムで絵を描くことができるようになることです。

Outpost:油絵・紙、習作

Q. 近年の作品についてお聞かせください

時間が許せば、もっと油絵を描きたいですね。私は大判の「アートブック」を出版したいので、こうしたペインティングはそのための手段です。その本はもちろん SFで、短編や小説で構成される予定です(豪華な大型本で、たくさんの絵があるもの)。

ストーリーは、特定の場所で特定の時代を生き、その社会を形成する出来事に立ち会った「あるアーティストの視点」に沿ったものです。300年後、読者はそのアーティストの歴史と作品を振り返ることになるという仕掛けです。また、その世界が何らかのゲームになることも視野に入れていますが、皆さんを期待させるようなものではないかもしれません。

もちろん、映画の仕事も続けていきたいと思っています。また、色と光のチュートリアルビデオの制作も始めています。

 

Spaceman:油絵・紙、「Interzone magazine」 250号の表紙絵

 


編集部からのおすすめ: 色、光、構図.. アートのセオリーを学ぶ/再発見するには、書籍『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 改訂版』そして、『続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則』をおすすめします。

 


▶ オリジナルURL(英語):https://3dtotal.com/news/interviews/wayne-haag
編集:3dtotal.jp