コンセプトアート『ヴァンパイア』のメイキング

コンセプトの段階から仕上げまで、英国のコンセプトアーティスト/イラストレーター Richard Tilbury氏が『ヴァンパイア』のメイキングをお見せします(Photoshop使用)

新しいプロジェクトに取りかかるときにはいつも、対象について少し研究し、参考資料を集めることから始めます。今回は、ヴァインパイアに関連する画像と、これまで世に出たさまざまなヴァンパイアの化身を Google で探してみました。詳しく調べてみると、ヴァンパイアの解釈には、実にさまざまなバリエーションがあることが分かります。古典的なイメージとしては、映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』のオルロック伯爵から、すっかり定着した感のあるクリストファー・リー演じるドラキュラ伯爵あたりがよく知られているようです。一方、その対極にある新しい解釈としては、『ブレイド』「アンダーワールド」シリーズなどが代表的でしょう。一口にヴァンパイアと言っても、特定のコンセプトなどないわけです。

「どんな姿形にすべきか、どんなオーラを醸し出せばいいのか」といったことから決めなくてはならず、出だしからつまづいてしまいました。人目を避けて暮らす臆病で病的なタイプ、あるいは教養も社会的な地位もあるエネルギーに満ち溢れた魅力ある人物像にすべきでしょうか? ここで下す決定が、衣装のデザインや姿勢にまで影響してきます。次々にわき出る疑問点に答えを出すために、サムネイルスケッチを描いて、疑問を解決するところから始める必要がありました。

サムネイルスケッチ

本番の絵を描き始める前に、簡単な小さいスケッチをいくつか描くようにすることをお勧めします。いろいろなことが明確になることに加え、それまで思いもしなかった方向性が浮かび上がってきたりもするのです。今回の例では、ポーズを検討するためにシルエットをいくつか描いてみました(図01)。

図01:ポーズを検討するためにシルエットをいくつか描いてみました

シンプルなシルエットだけでも、人物像が表現できることがお分かりでしょう(1~3)。全身のプロポーションや衣装などが伝わってきます。それから、頭部を何種類か描いてみることにしました。特徴や外観をいろいろと変えて試し、そこから漂う雰囲気を決めるためです(図02)。人のような外観にするか、それとも、大袈裟に誇張した特徴を持たせ、人というよりもモンスターに近い感じにするのか。

図02:頭部を何種類か描いてみることにしました

左上のスケッチ(1)は、ノスフェラトゥに似ていて、右中央のスケッチ(4)とは大きく雰囲気が違うのがわかると思います。左下のスケッチ(5)は、さらにモンスター寄りで、右上のスケッチは(2)より近現代的なシーンに似合うルックです。このように、それぞれ特徴の異なるスケッチを何枚か描いてみると、徐々にアイデアが形を現してきて、漠然とした概念を具体的なイメージに変えることができます。

どれか1枚が、飛び抜けて目を引き、他より群を抜いて出来が良いということはほとんどなく、むしろ各スケッチから使えそうなアイデアを少しずつ寄せ集めるといった感じです。ここの例で言えば、左列の3点と比べてカリスマ性のある(4)が気に入りましたが(2)の長髪も捨てがたいところです。強靭な肉体に女性的な要素を加えると、そのコントラストによってダイナミックさが出ると思ったのです。また、スケッチ(6)のマントかガウンのようなアイテムもクラシックなルックを加えてくれます。ゆったりとした、そのアイテムのひだが雰囲気を醸し出しています。

このクイックスケッチを描いているうちに、デザインに盛り込むコンポーネントをいくつか決められたので、ここで、ポーズの検討に戻ります。図01のポーズの中で「これは」と思えたのは(1)です。(2)や(3)ほど威圧感は感じられませんが、伸びた腕からは、謎めいた不気味さがさりげなく伝わってきます。好きなポーズが見つかったので、いくつかバリエーションを描いてみました(図03)。

図03:好きなポーズが見つかったので、いくつかバリエーションを描いてみました

まず、長いガウンを着せて髪は長髪にしようと決めました。しかし、全身をガウンで覆ってしまうとディテールの入り込む余地がありません。コンセプトの大半がガウンで占められてしまったら、面白みがありません。そこで、ガウンの前をはだけさせ、濃い色のガウンと好対照を成す肉体を覗かせることにしました(1)。(2)は、少し驚いたような様子にしてみました。何かに心を乱されてこちらに顔を向けたように見えます。猫背と相まって不気味な性質が滲み出ています。悪くはありませんが、力強い存在感は失われてしまいました。

そこで、左腕の位置を変えたバージョン(3)と(4)を描いてみました。一番良さそうなのは(3)です。(4)はジェスチャーが大袈裟で、主張が強すぎます。