コンセプトアート『砂漠の都市』のメイキング

タジキスタン出身、英国在住のコンセプトアーティスト Jama Jurabaev氏 が『砂漠の都市 (Desert City)』のメイキングを紹介します(Photoshop 使用)


Jama Jurabaev
コンセプトアーティスト / アートディレクター|英国

はじめに

このチュートリアルでは、未来の航空交通と高層ビル郡のシーンの作成方法について紹介します。当然のことですが、頭の中にある基本的なアイデアを形にしてから、描画やペイントを始めることにしました。街の中を飛行機や車が空を飛んでいる光景は『スター・ウォーズ』や『スタートレック』などの大作映画に登場しており、目新しいものではありません。こうしたシーンを再現するのは少しずるいような気がしたので、違ったものを描きたいとは思っていたのですが、この時点ではまだアイデアが固まっていませんでした。しかし、時には、このように描きたいイメージが固まっていない状態で始めるのもいいでしょう。思いのほか良い結果をもたらすこともあります。

また、このチュートリアルではペインティングプロセスや Photoshop のツールよりも、作成手順により重点を置きたいと考えています。ツールとして Photoshop を学ぶことは技術的な問題ですが、クリエイティブかつオリジナルの作品を作成する方法の習得には、想像力および想像の世界をカンバスに描き写す能力が関係してくると思うからです。皆さんの想像力を高めることができる手順についても詳しく述べるつもりです。それでは始めましょう。

スケッチ

スケッチに関しては、さまざまな方法を試み、探求に努めるようにしています。偉大なアーティストのチュートリアルを見ることもそうです。アーティストの Nick Rugh が作成したチュートリアルは、私の想像力を大きく広げてくれました。Nick は抽象画や予測不可能なデザインなどの制作方法を教えるために、さまざまなスケッチのテクニックを紹介しています。シェイプやフォームを描くため、彼は左手でスケッチすることもあるのです。これらのチュートリアルを見終えて、私はこの抽象的思考を自分のワークフローとスケッチに組み込もうとしました。

この作品を含め、私は通常、Photoshopでペイントしています。この作品では、まず[なげなわツール]([L])と[グラデーションツール]([G])でペイントを開始しました。これらのツールはどちらも、基本のシェイプとフォームを作成するのに適しています。[なげなわツール]を使用すると、エッジをシャープに保つことができます。一方の[グラデーションツール]では、カラーの遷移と変化をきれいなグラデーションにすることができます。

この段階では、パース、カラー、ライトなどについては考えず、気楽な気持ちでペイントしました。まず、[なげなわツール]で領域を選択し、グラデーションで塗りつぶします。ここは、宇宙船や超高層ビル、地面や空になる領域です。最終的な構図に向かうための抽象的なフォームを作成しました。いろいろとペイントしてみた結果、最終的にこれらのスケッチができあがりました(図01-03)。

図01

図02

図03

スケッチはどれも気に入ってはいましたが、完成させたいというほどではありませんでした。そこで、すべての画像を1 つのファイルにコピーして、Photoshop の描画モードでレイヤーを調整しました。画像をさまざまな方法で重ね合わせることで、まったく予想していなかった結果を得ることがあります。今回はその方法でうまくいったようです(図04)。

図04

私には、これが地上に浮かんでいる巨大な船に見えてきて、素晴らしいショットになる予感がしました。ディテールを少し描き込み、このイメージになりました(図05)。

図05

目指している雰囲気と少し違う気がしましたが、その他においてはうまくいっています。思い通りの雰囲気や感じを出すには、さまざまなリファレンス、参考資料を調べることが重要です。写真でも、絵画でも、スケッチでも、窓から見える天気でもかまいません。私は少し前に自分で作成した資料の1つを利用することにしました(図06)。

図06

雰囲気が定まったら、イメージを微調整していきました。その後、構図の問題もいくつか修正しました(図07)。

図07

この段階で重要なのは、視点をリフレッシュさせるために定期的にカンバスを反転してみることです。これは構図とパースを修正するうえで多いに役立ちます。驚くことに、Photoshop にはカンバスを反転させるためのショートカットがありません。面倒がらずに、この操作にショートカットを設定してください。作業がずっと楽になります。ここでは、前景を少し調整しました。砂漠のような雰囲気にしたら、未来的な建物と良いコントラストになると思いました。また、人間が美しい地球を大切にするようになり、一切の破壊をやめて都市を構築している様子を表現しても面白いだろうと考えていました。

カラー

私にとって、カラーについて学ぶ最良の方法は、イサーク・レヴィタン(Isaac Levitan)やアイヴァゾフスキー(Aivazovsky)といった伝統的絵画における歴史的な巨匠の名作を研究することです。彼らの絵画から、色の作用や使い方を観察したり、学ぶことができます。私自身、カラー、色に精通しているわけではありません。今も学習を続けており、学ぶことは数多く残っています。

私が断言できるのは、色に変化を付けると作品がリアルになるということです。自然界に単色はありません。どれも何らかの色合いや色相を含んでいます。私はこうしたバリエーションを自分の作品にも取り入れるようにしています。芝生をペイントするのであれば、緑だけでなくさまざまなカラーを取り入れた方がよりリアルに見えます。私はカラーについて学ぶ最良の方法は、自然界にあるものをペイントすることだと考えています。面倒がらずに、外へ出てペイントしましょう。大いに役立つはずです!

ディテール

さらに微調整を加えていき、このイメージにたどり着きました(図08)。主な超高層ビルを大まかに描いた後は、完成に向けてディテールを描き込んでいきます。ディテールは、いくつかの方法で作成することができます。すべてペイントしてもよいですし、写真やテクスチャを使用してディテールを作成してもかまいません。好きな方法を用いてください。

図08

私は以前に描いたものをいくつか使用して、ディテールを作成しました(図09-11)。

図09

図10

図11

活用できるものがあれば、どんどん利用しましょう。以前の作品の一部を切り取って新しい作品にペーストできるのなら、躊躇なく私はそうします。かなり効果的な作業が求められるコンセプトアートならなおさらです。これは、ディテールをすばやく作成するための優れた方法です。少し時間をかけてイメージ全体を微調整し、空に未来の航空機体を追加しました。こちらが完成イメージです(図12)。気に入っていただけると嬉しいです。

図12

おわりに

冒頭で述べたように、ここでの目的は私の制作過程を紹介することでした。私は独学で絵を描いてきたので、描きはじめた当初から、さまざまな問題に遭遇してきました。Photoshop の教本やチュートリアルをたくさん見てきましたが、役立つツールをいくら覚えても、それだけでは全く不十分であることに気づいたのです。私にとってより重要なのは、これらのツールを使って自分の想像力に命を吹き込むことです。これが、想像力を後押しするための方法を紹介しようと思った理由です。

 

※このチュートリアルは、書籍『Digital Painting Techniques 3 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。


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