コンセプトアート『未来の兵士』のメイキング

はじめに

はじめまして。今回、未来の兵士というテーマで、アイデア開発と制作におけるさまざまな段階を紹介する機会を持てたことを嬉しく思います。このチュートリアルがすべての人にとって参考になり、また、コンセプトアートの分野に進みたいと考えている人に、役立つアドバイスや知識を提供できることを願っています。コンセプトアートの目的は、主に映画やゲーム産業をサポートすることです。オリジナルな作品を生み出すには正確な視野を必要とします。したがって、コンセプトアーティストの仕事はプロジェクトの成功を左右する非常に重要な役割を果たします。最終結果は多くの人々による成果ですが、アーティストはいつも、プロジェクトにとって大きな役割を担い、極めて重要なのです。

このチュートリアルのテーマは「未来の兵士」です。私はテーマから、待ち伏せていた肉食ワームに兵士が襲撃されているシーンを思いつきました。

スケッチ

重大なプロジェクトでは、実際に制作プロセスが開始される前にさまざまな準備を必要とします。まず、あらゆる可能性をたくさんのサムネイルで概説します。配置がスケッチされ、多様なビジョンやデザインがテストされます。ただし、今回は、この手順に必要な時間がないのと、このチュートリアルの目的にも合致しないので省略します。

最初の作業は、コンセプトの構図を明確にすることです。私は、シルエットの構築や必要な要素の構成にはハードブラシを使用します(図01)。

図01:シルエットの構築や必要な要素の構成にはハードブラシを使用します

このマスクは混沌として表現力があります。当初、独特のシェイプやボリュームを追求するつもりはなかったのですが、ちょっと試してみたくなったのです(図02)。私は幼少期に、床のテクスチャなど自分の周りにあるものを観察して楽しんでいました。周囲にある石、木材などのパターンや構造を見ることは想像力を培うための優れた方法です。面白いシェイプとボリューム、顔と指、人間と動物の観察を始めてみましょう。最初の作業は、イメージの骨格や構造が明確なシェイプになるまで、無秩序にマスクや線をスケッチすることです。優れた結果は偶然から達成されるかもしれません。こうしたプロセスから得られる満足感は大きく、キャラクター開発はとても楽しいものとなります。

図02:独特のシェイプやボリュームを追求するつもりはなかったのですが、ちょっと試してみたくなったのです

基本色と光

ここでは、基本色を設定し、光を追加していきます。最終的なキャラクターをおおまかに表現したバージョンというわけです。グレースケールで構図を構築したら、新しいレイヤーでそのイラストに色の範囲を定義します(図03)。これには、写真、過去のドローイング、テクスチャを使用できます。スケッチの上に選択したイメージを配置して、[描画モード]のドロップダウンメニューから[カラー]を選択します。後で、[選択範囲]の使用、特定の領域を別の場所へ移動、ブラシでの塗りつぶしなどの操作で色の追加と削除を行えます。この段階では、コントラストや色の強度と共に光源を設定します。

図03:新しいレイヤーでそのイラストに色の範囲を定義します

コンセプトを完成させる

キャラクターと武器、アーマーのようなすべてのディテールを膨らませていきます。今回は色も同時に加えていきます。実際には、初期のアイデアには常に修正や追加があるものなので、このイメージが完成したときに、この作業は終わりとなります。この業界では締め切りがタイトであることが多いので、この段階で、キャラクターをさらに発展させるための方向性を決めておきます。

重ね塗りと描画

かなり高度なレベルまでキャラクターを洗練できたら、作品の仕上げについて全力て考える必要があります。十分な時間を掛けることができる場合は、主要なアイデアを仕上げたり、質感にディテールを追加してさらに制作を進めます。今、私たちはクリエイティブフリーダム(創造の自由)を手にしているのです(図04)。

図04:私たちはクリエイティブフリーダム(創造の自由)を手にしているのです

ディテールはキャラクターを完成させるための重要な要素です。キャラクターがユニークでオリジナルのものになるかはディテール次第です。コンセプトがオリジナルであるほど、最終プロダクトは他をしのぐ成功を収めるでしょう。これこそ、すべてのアーティストが目指していることです。その結果、スタジオの成功を約束する品質は一貫したレベルで維持され、アーティストは、より大きく面白いプロジェクトに参加できるのです。

光の効果

未来のアーマーをペイントするときに絶対に必要なことは、アーマーによってキャラクターの強度が守られていることを示す「何か」を加えることです。それは、与えられたフォース(力)や能力を視覚的な表現に変換した「何か」に違いありません。未来でキャラクターが行動すると、同時に未来の技術が現れるはずです。これは、アーマーにグロー(発光)要素を含めることで示すことができます。さあ、代表的なアーマーの要素を設定しましょう。新規レイヤーではグロー効果を強くしたい領域がはっきりするように調整します(図05)。このエフェクトの結果が明確になるように、該当箇所を赤で示します。[ぼかし(ガウス)]でライトを散乱させ、グロー効果を作成します。仕上げにレイヤーの描画モードを[覆い焼きリニア]に設定します。

図05:グロー効果を強くしたい領域がはっきりするように調整します

テクスチャ

アーマーの外観に未来的な要素を追加するには、そのようなエフェクトが現れるようなテクスチャを使用する必要があります。そのためには、数のマテリアルを試して、その構造を明確にしなければなりません。新規レイヤーを作成して、描画モードを[覆い焼きリニア]に変更します。ハードブラシでペイントしていきましょう(ブラシオプションの[テクスチャ]で用意したテクスチャを読み込むことができます)。図06 ではテクスチャが適用された領域を赤で示しています。満足のいくエフェクトになったら、レイヤーマスクを作成して、パターンを表示したい領域を定義します。

図06:テクスチャが適用された領域を赤で示しています

次の段階では、イメージ全体に図07 のようなテクスチャを適用し、レイヤーの描画モードで[ソフトライト]を追加します。

図07:レイヤーの描画モードで[ソフトライト]を追加します

色調補正

完成作品を賛美する前に、仕上げとして色調補正を行います。新しい調整レイヤーと[トーンカーブ]を作成して、望みどおりの補正を設定しましょう([Ctrl]+[M]キー)。コントラストを強化して明確にします(図08)。このプロセスをより的確にコントロールするため、レイヤー上にマスクをペイントします。

図08:コントラストを強化して明確にします

これでコンセプトの作業はほぼ完了しました。最後にアーティストのサインが入って完成です(図09)。さあ、自分を褒めちぎってください!キャラクターが完成しました。ようやく、これで、次の「仕事」に進むことができます。次の仕事ですか?もちろん、キンキンに冷えたビールを飲むことです。このチュートリアルによってインスピレーションを得たり、何か新しい発見をしてもらえれば幸いです。ドローイングを楽しんでください!

図09: アーティストのサインが入って完成です

※このチュートリアルは、書籍『Digital Painting Techniques 3 日本語版』にも収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。


翻訳:STUDIO LIZZ
編集:3dtotal.jp