コンセプトアート『ヴァンパイア』のメイキング

ブロッキング(下塗り)

まず、ニュートラルカラーで背景を塗っていきます。描き込みです。私はたいてい、キャンバス全体を薄いグレーで塗りつぶし、それからテクスチャブラシでランダムにストロークを入れて表情を付けます。次に、別のレイヤーに、キャラクターを太いストロークでざっくり描いていきますが、このときは、全体のボリュームと色を乗せる領域を特に意識しながら描きます(図04)。

図04:全体のボリュームと色を乗せる領域を特に意識しながら描きます

カスタムブラシを用いてテクスチャを追加しました。このカスタムブラシは、砕けたガラスの写真を加工して作りましたが、素材は何でも構いません(図04参照)。その他の部分にはほとんど、デフォルトのハード円ブラシとチョークブラシを使います。

私はいつも、背景を別のレイヤーに分けておきます。後で詳しく述べますが、そうしておいた方がカラースキームやライティングの変更が簡単にできます。実のところ、絵の下の方をやや暗めにし、キャラクターが闇の中から浮き出るようにしたら面白そうだと考えているのです。 これを実現するために、色は、やや緑がかったグレーを選び(図05)、新規レイヤーに[グラデーション(描画色から透明へ)]を設定し、そのレイヤーの描画モードを[乗算]に設定します。

図05:これを実現するために、色は、やや緑がかったグレーを選び

同時に、顔から上半身にかけて広がる影の部分にも、下塗りを始めています。頭部も、もう少しはっきりさせましょう。

この時点で、キャラクターの顔は若干左を向いています。サムネイルの時点では、正面を向き、見る人を見据えるような感じでした。ここを修正しながら、少し広がり過ぎた髪も調整しておきます(図06)。また、ガウンがはだけ過ぎて少しきわどい感じになっていたので、この部分も若干手直ししながら、ガウンのひだのペイントをはじめました。

図06:修正しながら、少し広がり過ぎた髪も調整しておきます

ここまでの作業で、ファイルには背景、グラデーション、キャラクター描画用の3つのレイヤーができています。このまま、キャラクターのレイヤーで、グレースケールのパレットを使って皮膚の描写に取りかかります。パレットをグレーに限定することで、明暗に集中できます。しかし同時に、このヴァンパイアの肉体を生気のない青ざめた感じにし、幽霊のような非人間的な外観を与え、アンデッドであることを表現したいと思っています(図07)。まったくの偶然の産物ですが、このサムネイルの表情はとても気に入っています。哀しみ、あるいは、叶うはずのない儚い望みがにじみ出ているように見えます。このような感情を表現したいのです。

図07:幽霊のような非人間的な外観を与え、アンデッドであることを表現したいと思っています

肌を白と黒でペイントする理由の1つは、上に色を重ねられるからです。いつでも好きなときに、明暗は変えずに色相だけ変えることができます。図08 の左のイラストでは、くすんだ黄土色を乗せています。これは[通常]モードですが、[オーバーレイ]モードにすると(右のイラスト)、幽霊のような感じはそのまま、ある種の輝きが出てきます。

図08:左のイラストでは、くすんだ黄土色を乗せています

図03の3番目のサムネイルに従って左腕を描きました(図09)。右側のパレットでレイヤーの構成が確認できます。肌用のオーバーレイが別レイヤーになっているのが分かります。

図09:図03の3番目のサムネイルに従って左腕を描きました

ここで、足元が少しふらついているように見えることに気づいたので、身体を心持ち回転させ、しっかり安定するよう修正しました(図10)。また、ガウンの袖口と前立てに、洒落た金飾りでアクセントをつけ、ガウンのひだのフォームにも手をつけました。このあたりの処理はすべて、キャラクター用のレイヤー上で行います。

図10:身体を心持ち回転させ、しっかり安定するよう修正しました