コンセプトアート入門:スタジオに応募する
コンセプトアーティスト Donglu Yu が、制作スタジオで職を得るためのヒントを紹介します
はじめに
スタジオが新しいコンセプトアーティストを探すときに用いる主な手法について学び、通常の採用プロセスの流れについて理解しましょう。採用プロセスは国によって( あるいは会社によっても)異なりますが、ここではその流れの概要を紹介し、スタジオにアプローチする方法とスタジオが応募者を検討する際に探し求めているものを学びます。
01 スタジオが新しいコンセプトアーティストを探す方法
スタジオが新しい才能を発掘するときは、社内の紹介が大きな影響力を持ちます。「既存の従業員が、自分の尊敬する知り合いのアーティストを推薦する」というパターンです。この方法には2つの明確な利点があります。第1に、社内の紹介であるため、スタジオは候補者の考え方や性格がスタジオの文化に合うことを確信できます。第2に、スタジオと地元の優秀な人材をつなげやすいため、ビザの手続きにかかる膨大な時間の節約になります。たとえば アメリカのスタジオは、外国籍の才能ある人材よりも、地元の有能なアーティストを有利に検討することが多いでしょう。
スタジオが新しいアーティストを採用するもう1つの方法は「オンライン ポートフォリオやフォーラムを通じて」です。まず、アートディレクターは仕事内容にふさわしいコンセプトアーティストをリサーチし、ギャラリーを見てそれらの作品がプロジェクトのニーズに合致するかを確認します。次に、アートディレクターから名前のリストを受け取ったスタジオの人事部は、候補者のアーティストに連絡を取ります。
この他にも、スタジオが新しいコンセプトアーティストを探す方法として、人事部で収集された履歴書にアートディレクターが目を通すことが挙げられます。これらの履歴書は、たいていオンラインでスタジオに提出されたものです。
Chase Time | © Donglu Yu
02 採用プロセス
一般的に採用プロセスの 3ステップは、「最初の電話連絡」「対面の面接」、そして「報酬の交渉」です。まずスタジオの採用担当者は、候補者に最初の電話をかけてスタジオについて話し、タイトルが公表されている場合はプロジェクトについても説明します。公表されていない場合は、NDA(秘密保持契約書)を締結するまで詳細な説明はありません。
採用候補者であるあなたは、スタジオの価値観やチームの文化面で期待していることについて、電話で話せます。それがうまくいけば、採用担当者はチームの主要メンバーに直接会わせるために、面接の予定を決めます。面接の種類は、候補者全員と同時に行う40分の面接から、一人ひとりと個別面談する4時間の面接まで、時間や方式が大きく異なります。実際には、スタジオやプロジェクトの要件次第でしょう。面接で最も会う可能性の高い人物は「プロデューサー」と「アートディレクター」です。
プロデューサーは、プロジェクトのスケジュールと予算の責任を負っている人で、主にあなたのプロとしての経験とペインティング速度に関心があります。アートディレクターは、プロジェクトの視覚的な最終結果の責任を負っている人なので、あなたのアートスタイル、課題への取り組み方、そしてアートの技術に興味を持つでしょう。
あなたをリードアーティスト、プロダクションディレクター、またはクリエイティブディレクターに引き合わせるスタジオもあるでしょう。これは多くの場合、あなたとチームのやり取りを見て、相性の良さを確認するためのものです。面接の最後に、人事部の代表者があなたの金銭面での要望を聞くかもしれません。
通常、スタジオは数日かけてあなたと面談したすべての人からコメントを集め、あなたの期待する報酬と予算が合致していることを確認します。もしチームがあなたのことをもっと知りたがったり、質問が残っていたりする場合は、契約書の草案が提示される前に、もう1度面接への参加依頼があるかもしれません。適性に関して最終結論が出たら、スタジオはあなたに連絡を取り、契約書の草案を再検討して仕事を依頼します。
03 スタジオに応募するときの流れ
スタジオが新しいコンセプトアーティストを必要としていない時期に、一方的に応募しても、返答は得られないかもしれません。通常、提出されたすべての履歴書は人事部のシステムに集められ、スタジオの仕事に正式な空きが出たときにだけ分析されます。
しかし、スタジオに差し迫ったプロダクションのニーズがある場合は、採用プロセスが急に進むこともあります。最初の電話連絡から地元のアーティストと契約書が締結されるまで、たった1週間で進むこともあるでしょう。ただし、外国人アーティストを採用するために就労ビザが必要な場合、このプロセスはもっと長くなります。こうした理由から、一般的に会社はシニア アーティストの職種にしかビザを取得するプロセスを踏みません。採用にビザが関わると、プロセス全体を完了させるのに何か月もかかります。
別の可能性として、アートディレクターがあなたのポートフォリオに多くの可能性を感じるものの、プロダクションのニーズに合致しないと考えることもあります。このようなケースでは、アートディレクターが追加の作品を見るため、あなたに連絡を取るかもしれません。たとえば、環境のコンセプトアーティストが必要なのに、あなたのポートフォリオの大部分がプロップのデザインだったら、環境のデザインも作成できることを示すため、追加の作品の提出を求められるでしょう。
このような採用プロセスの遅延を避けるためにも、ポートフォリオを提出する前に、空きの職種についてよくリサーチしてください。こうして、現在プロダクションで必要とされているコンセプトアートの種類(環境・キャラクター・プロップ)とプロジェクトのスタイル(リアル・様式的・カートゥン調)を把握し、それに合わせてポートフォリオを調整しておきましょう。
Citadel in Clouds | © Donglu Yu
ヒント:CGカンファレンスに参加する
CG関連のカンファレンスに参加し、コンセプトアーティストとして最初の仕事を見つけてもよいでしょう。就職フェア専用のブースが設けられているケースもあり、そこでは将来の雇い主やスタジオの代表者に面会できます。カンファレンスの準備として、自分の選りすぐりの作品をプリントし、ポートフォリオの中に丁寧に収めましょう。そうすれば、就職フェア中にさまざまな採用担当者やアートディレクターから作品に関するフィードバックを受けられるでしょう。それがプロとの濃厚な議論につながれば、将来の雇い主にあなたの能力やプロ意識を強く印象付けることができるかもしれません。
ヒント:インターンシップを検討する
コンセプトアーティストとしてスタジオの仕事を得るための良い方法は、どんなレベルでもかまわないのでスタジオで働き始めることです。インターンシップを獲得するか、初心者レベルの仕事に申し込みましょう。そこで、スタジオの従業員と知り合いになり、同僚と良い関係を築いたら、自分の作品を見せます。多くの人は、こうしてインターンからアーティストへと出世しています。インターンシップは無報酬の場合が多いですが、貴重な経験となるでしょう。無報酬の仕事がインターンシップの範囲内にとどまっている限り問題ありませんが、決して無料でアートを制作してはいけません。スタジオの誰かがあなたの作品に興味を持ち、プロジェクトに関わって欲しいと思ったら、レートを交渉するチャンスです。
ヒント:自分を売り込む方法を学ぶ
自分の作品の売り込み方とビジネスメールの書き方を学びましょう。意外にも、ほとんどの人はこれが苦手です。まず、自分のウェブサイトでは作品を前面に押し出します(それは、訪問した人が最初に目にするものでなければいけません)。そして、仕事に応募するときはメールを短めに書きます。最初に挨拶文を書き、自己紹介と仕事をしたい理由を1~2文で説明し、あなたのポートフォリオのリンクを貼ります。サンプルイメージを数枚(3~5枚が最適)添付したら、時間を割いてくれたことにお礼を述べます。
※本チュートリアルは、書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』からの抜粋です。
編集部からのおすすめ: 色、構図、遠近法.. アートのセオリーを学ぶ/再発見するには、書籍『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 改訂版』をおすすめします。