コンセプトアート入門:コンセプトアーティストの役割 – プロダクションの3つの段階
コンセプトアーティスト Donglu Yu が、プロダクションの3つの段階における コンセプトアートの役割について、わかりやすく説明します

はじめに
ここではプロジェクトパイプラインの一般的な流れを知り、プロのコンセプトアーティストとして期待される仕事に向けて、心の準備をしましょう。プロダクション(制作)の3つの主要な段階について学び、各ステージにおけるコンセプトアーティストの仕事について、理解を深めておきましょう。
プロダクションの3つの段階
01 プリプロダクション
この段階は、コンセプトアーティストが最もアーティスティックな自由を楽しめる時期です。プリプロダクションで制作されたアートワークは多くの場合、プロジェクトをプロダクション段階に進めるため、重役へのプレゼン資料として使用されます。
コンセプトアーティストはたいてい 3つのカテゴリー(背景・キャラクター、そして乗り物・プロップ・武器などメカニックなハードサーフェス関連)に分類されます。プリプロダクションでは、すべてのコンセプトアーティストがアートディレクターの定めた高度な方向性を理解し、そのガイドラインの仕様をアートワークに適用しなければいけません。満足のいく結果を出すには、アートディレクターと密なコミュニケーションが必須です。この段階では、コンセプトアーティスト同士が協力して、アイデアを生み出すことが求められます。
02 プロダクション
プロジェクトがいったんプロダクションに入ったら、コンセプトアーティストはアートディレクターだけでなく、さまざまな部署のアーティストと仕事をすることが求められます。たとえば、ビデオゲームの 環境(背景)のコンセプトアーティスト はレベルアーティスト(*プレイ可能なゲームレベルを作成、デザイン要素を確実に組み込む人)と密接に連携し、完成したコンセプトアート・リサーチの資料・写真リファレンスなどを提供します。
プロダクションのピーク時に多忙を極めたアートディレクターが、コンセプトアーティストに意見を求めることもよくあります(たとえば、他部署のアーティストが制作中のデザイン要素を改善する方法など)。また、環境のコンセプトアーティストはライティングや VFX の部署と協力することも多く、承認されたコンセプトアートで確立したムードや雰囲気を実現できるように努めます。
キャラクター コンセプトアーティストは、デザインの見映えと機能性を両立させるために、キャラクターモデラーやアニメーター、そしてリガー(*キャラクターに動かす仕組みをセットアップする人)と密接に連携します。たとえば、アニメートに適したリギングシステムを持つ3Dキャラクターの場合、プロジェクトの技術的制約とデザインを両立させる方法を頭に入れておかなければいけません。なぜなら、ヘルメット・肩当て・マント・長い布地などのアクセサリー類は、リギングの過程で問題を引き起こすことがよくあるからです。このように、モデルを正常に動かすには、プロダクションを通じて、コンセプトアート チームがすべてのキャラクターデザインを継続的に修正する必要があります。
乗り物・プロップ・武器類を制作するコンセプトアーティストは、主にモデラーやテクニカルアーティストとの共同作業を求められます。たとえば、モデラーがデザインを十分理解できるように、各オブジェクトのそれぞれのアングルを含むモデルシートを作成します。また、コンセプトアーティストがモデルシートを作成するとき、上に重ねてペイントできるように、モデラーから正確な寸法の基本的な3Dブロッキングが提出されることもあります。
大量のプロップが必要になる場合、テクニカルアーティストがそれぞれのハードサーフェス オブジェクトにポリゴンとテクスチャの予算制限を設けることもあります。プロジェクトの技術的制約を理解し、それに応じてデザインシートを作成するのがコンセプトアーティストの責務です。主役用の特別なプロップなど例外があるときは、妥協点を見い出すため、テクニカルアーティストに遠慮なく相談してください。
03 ポストプロダクション
この段階で、プロジェクトに残っているコンセプトアーティストはごくわずかでしょう。通常、ポストプロダクションにおけるコンセプトアーティストの役割は、マーケティング資料の作成や、他部署が最終修正で使う簡単なペイントオーバーを提供することです。こういったタスクにアサインされないコンセプトアーティストは、新規プロジェクトに異動になります。
Through Deep Forest | © Donglu Yu
04 コンセプトアーティスト Q&A
Q. 最初のコンセプトアートの仕事は何でしたか?
A. Eidos-Montreal で担当した『デウスエクス ヒューマン レボリューション』のプロップと環境のデザインが、コンセプトアーティストとしての初仕事です。
Q. キャリアの中で、最も勉強になったことは何ですか?
A. 『アサシンクリードIV ブラックフラッグ』に携われる機会が巡ってきたときです。アートディレクター Raphael Lacoste氏と、優秀な同僚の Martin Deschambault氏 から多くを学びました。
Q. 新規の仕事の指示書には、どう対応していますか?
A. まず課題の対象となる観客を分析し、その結果に応じてアートのさまざまな側面に専念します。アートディレクターが上層部へのプレゼンテーションに使用するためのアートワークなら、雰囲気を強調します。一方、ライティング部門向けのアートワークであれば、さまざまなライティング効果や、光と影の相互作用を表現することに注力します。モデラー向けのアートワークの場合は、フォームを描き、さまざまなアングルからプロップを示すデザインシートを作成します。
プロセスの何割がスタジオ主導で、何割がご自身の素養の結果ですか?それは「プロジェクト」と「プロダクションの段階」によって異なります。たとえば、プロジェクトがプリプロダクション段階なら、アート面の自由度が高くなるため、私自身の素養の結果と言えるかもしれません。
一方、プロジェクトが本格的なプロダクション段階であれば、プロセスはスタジオ主導になります。そして、厳しい締め切りの下で複数のアートを制作するため、標準のプロセスに重点を置きます。これにより、プロジェクトのプロダクションニーズを満たすことができます。
Q. 目や頭を休めるために、仕事の合間に行うことは何ですか?
A. お茶やコーヒーを飲んだり、アートワークへの貴重なフィードバックをくれる同僚のアーティストとおしゃべりをしたりします。同僚が最近手に入れた新しいツールやテクニックについて、学ぶこともあります。
※本チュートリアルは、書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』からの抜粋です
編集部からのおすすめ: 色、構図、遠近法.. アートのセオリーを学ぶ/再発見するには、書籍『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 改訂版』をおすすめします。