コンセプトアート入門:コンセプトアートの 4つの主な業界

コンセプトアーティスト Jan Urschel が、コンセプトアートの仕事の大半を占める 4つの主な業界について 解説します


Jan Urschel
コンセプトデザイナー/イラストレーター

エンターテインメント業界のコンセプトデザイナー/イラストレーター。長編映画やビデオゲーム制作に参加。主な クライアントは、Paramount Pictures、Warner Bros.、Lucasfilm、Microsoft、Framestore、MPC など
エンターテインメント業界のコンセプトデザイナー/イラストレーター。長編映画やビデオゲーム制作に参加。主な クライアントは、Paramount Pictures、Warner Bros.、Lucasfilm、Microsoft、Framestore、MPC など

はじめに

コンセプトアートの仕事の大半を占める 4つの主な分野は、ゲーム・映画・テレビ・アニメーションです。ここでは、コンセプトアーティストの役割や職場環境の面で、それぞれどのような違いがあるのかを学んでいきます。

01 ゲーム業界

ゲーム業界(ビデオゲーム業界)は今日、エンターテインメントで映画を上回る最も売り上げの多い分野です。つまり、コンセプトアーティストにとって最も仕事の多い業界であり、大部分の人はスタジオの社内で働いています。

多種多様なゲームスタイルやアートスタイルが存在するということは、アーティスティックな自由度が最も高いということです。ゲームのコンセプトアートは、現実世界の制約に縛られないことも多いため、独創的なアイデアを模索して素晴らしいゲームの制作に貢献できるでしょう。VR(バーチャル リアリティ)ヘッドセットなどのハードウェアも、この業界が拡大し得る面白い領域を増やしています。

しかし、より新しい強力なハードウェアに伴い、AAAゲーム(生産価値や予算が最も高いゲーム)に携わるときは、アートの視覚的忠実度や精巧さを向上させる必要が出てきます。その結果、環境アーティストやアセットアーティストを支援するため、3Dモデリングの知識が必要になることも多々あります。さらに、プロダクションサイクルはどんどん長くなっており、現在ではコンセプトアーティストが自分の作品を公開する場合、NDA(秘密保持契約)が切れるまで最大5年待つことも珍しくありません

02 映画業界

映画業界は、数十年にもわたってコンセプトアーティストやイラストレーターを雇用しています。そして、世界的な大ヒット映画に携わることは、しばしば最高の成果と考えられています。これにはいくつかの理由がありますが、最も大きなものとして、「他の業界に比べ仕事の数が少ないこと」と、これらの仕事にはたいてい「技術面およびデザイン面で高度なスキルが要求されること」が挙げられます。

さらに映画業界には、他の業界にはあまり見られない課題が数多くあります。多くの場合、映画用に描かれたコンセプトは、独自の特徴を持つ素材を使った実物のセットになります。これ以外にも「映画に携わる他の人々の仕事」を理解しておけば、この業界におけるあなたの価値を高めるのに大いに役立つでしょう。たとえば衣装部門のキャラクターアーティストは、コンセプトに基づいて本物の衣服を縫わなければいけません。そこで、素材の機能性、相対的なコスト、そして入手のしやすさなどを把握しておくと役立ちます。

一方で、セットを担当するコンセプトアーティストは、実際のセットの作り方、ベースとなるロケーション、そしてカメラやライトの設置方法を知っておくと、プロダクションに建設的に貢献できるでしょう。

03 テレビ業界

テレビ業界は、コンセプトアーティストにさまざまなチャンスを提供しています。たとえば、映画業界の就職先と同様に、VFX(ビジュアルエフェクト:視覚効果)が多用されるファンタジーや SF のプロダクションで、プリプロダクションポストプロダクションに携わることができます。その他にも、テレビCM やミュージックビデオ制作で雇用が増えつつあります。

このメディアは、スケール・予算・視覚的な可能性が限定的なので、コンセプトを地味に抑えてプロダクションの技術的制約に対応する必要が出てきます。また、納期が非常に短く、リードタイム(プロセスを完了するのに要する時間)はほとんどないため、CM などに取り組むと非常にストレスがたまることもあるでしょう。

しかし、プロダクションサイクルが短いということは、プロジェクトの直後に作品を公開できるということです。テレビの予算は増え続けていて、NetflixAmazonHBO などの民間のコンテンツプロバイダはハリウッド映画に匹敵する豪華な番組を制作しています。これは、テレビ業界がコンセプトアーティストにとって有望な分野であり、たくさんの雇用が見込めることを意味します。

04 アニメーション業界

アニメーション業界では、テレビと映画の両方のプロジェクトが制作されるため、これまで述べてきた業界と似ています。アニメーションには、視覚的な可能性を模索する「様式的な自由」がありますが、参入するのが難しい分野として有名です。PixarDisney といった会社のビジュアル ディベロップメント部門に就職が決まったと言うだけで、通常は周囲から嫉妬のまなざしを向けられるでしょう。

この業界は、コンセプトアーティストに対する技術面での期待度が高いです。有名なプロジェクトのアートブックには、開発段階で用いられる幅広いスタイルが載っています。しかしこれらの絵は、必ずしもチームワークで生み出されるアニメーションの最終ルックを反映していません。アニメーション業界で働くアーティストは、さまざまなスタイル・色・キャラクタリゼーションを通じて、感情・ムード・雰囲気をうまく表現しなければいけません。

Jan Urschel | Castle | © Jan Urschel

アドバイス:まずは社内から

コンセプトアートのキャリアをスタートするときは、最初からフリーランスになるのではなく、企業に勤務することから始めるとよいでしょう。どんな会社であれ、プロジェクトのプロダクションパイプラインの仕組みと自分の役割を学ぶことが大事です。あなたの仕事を頼りにしているチーム、上司、クライアントとの関わり方も学べるでしょう。そして何よりも大事な「会社の要の人物との関係」を構築できるため、いずれフリーランスになったときに、その人間関係があなたのキャリアの手助けとなるでしょう。

※本チュートリアルは、書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』からの抜粋です


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編集:3dtotal.jp