コンセプトアート入門:コンセプトアートって何?

エンタメ業界のコンセプトアーティスト Jan Urschel が、コンセプトアートの本質や役割について、わかりやすく説明します


Jan Urschel
コンセプトデザイナー/イラストレーター

エンターテインメント業界のコンセプトデザイナー/イラストレーター。長編映画やビデオゲーム制作に参加。主な クライアントは、Paramount Pictures、Warner Bros.、Lucasfilm、Microsoft、Framestore、MPC など
エンターテインメント業界のコンセプトデザイナー/イラストレーター。長編映画やビデオゲーム制作に参加。主な クライアントは、Paramount Pictures、Warner Bros.、Lucasfilm、Microsoft、Framestore、MPC など

はじめに

プロのコンセプトアーティストとして働くことの人気が高まっていますが、きちんと理解されていないこともしばしばです。正しく先を見据え、適切な準備とともにキャリアをスタートさせれば、最初から成功のお膳立てができるでしょう。本チュートリアルは あなたのキャリアの助けとなるでしょうが、まず「コンセプトアートの本質」「コンセプトアーティストの役割」について理解する必要があります。

01 コンセプトアート概要

コンセプトアート(別名:コンセプトデザイン)は「それまで誰かの頭の中に "言葉" や "考え" として存在していたアイデアを可視化すること」と考えられています。たとえば、映画監督が環境の一部に「不吉で荒涼としたSFの風景」を取り入れたいとしましょう。そのとき、1人または複数のコンセプトアーティストが、背景の指示書(brief)から「印象的な絵」を作成します。これは、あとで実際に その背景を制作するプロダクションアーティスト向けの「視覚ガイド」として使用されます(※ここで言うプロダクションアーティストとは、3D の背景が必要な場合は3Dモデラー、実物の背景を制作する場合はセットデザイナーになります)。

あなたはこれらのアイデアをひと目で認識できるイメージに変換するため、プロセスの異なるフェーズで使えるさまざまなスキルを磨く必要があります。とはいえ、全般的なプロセス自体は、他のデザイン領域とそれほど変わりません。コンセプトアートのプロセスは、下のフローチャートのように進行する傾向があります。

一般的なコンセプトアートのプロセス

02 専門分野

コンセプトアーティストが働く4つの主な業界は「ゲーム」「映画」「TV」「アニメーション」です。コンセプトアーティストはこれらの業界の中でもしばしば特定のカテゴリー(キャラクター・背景・メカニックデザイン)に専念します。ただし、従っているクリエイティブなビジョンによっては、いくつかのカテゴリーが重複することもあるため、ある程度の「柔軟性」が期待されています。コンセプトアートは比較的新しい仕事なので、この分野で働いている人々の多くは、仕事に取り組む前に講座を受け、さまざまな大学で学び、そして他の分野を経験しているとわかります。

こうした経験の多様性こそが、今日のコンセプトアートの仕事を形作っているのです。そこでは、美術・イラスト・グラフィックデザイン・車両デザイン・プロダクトデザインなどの経験を持つ人々が働いています。さらに、アートやデザインの正規の教育を受けていない新世代のアーティストたちが、それぞれの業界で一流になっています。

ここでコンセプトアーティストに期待される「柔軟性」は、その分野の専門家でなくとも、ほぼあらゆるテーマを視覚化できるスキルです(工学に詳しくなくても飛行機を描けるなど)。つまりコンセプトアートは、絶え間ない学習を必要とする要求の高い分野と言えるでしょう。

Purple ©Jan Urschel

03 チャンス

多くのクリエイティブな職業と同様に、コンセプトアーティストはスタジオで社員として働くか、フリーランスとして自営業になるか、あるいはその両方の場合があります。このガイドを読み進めていくと、スタジオが期待することや、スタジオで働くことがどういうものかわかるでしょう。

人によってフィットするライフスタイルは異なりますが、一般的にスタジオからキャリアをスタートさせると「経験やコネ」を作りやすいでしょう。本書に登場するアーティストの多くは、それぞれのキャリアの中でその両方の働き方を実践してきました。スタジオ内でのキャリアアップには、いろいろな方向性があります。多くのコンセプトアーティストは、「リード コンセプトアーティスト」「アートディレクター」の道に進みます。アートディレクターの役割は、コンセプトのビジョンに一貫性を保ち、プロジェクトに携わるすべてのコンセプトアーティストがこれを支持するように努めることです。本書にはプロダクションディレクターも登場しますが、これはどちらかというとスケジュールや予算の面で、コンセプトアーティストを監督する役割です。

Structure ©Jan Urschel

04 コンセプトアーティストの仕事とは?

コンセプトアーティストの仕事を理解するために、まず、プロジェクトのプロダクション パイプラインにおける役割を分析しましょう。ここでは簡単な概要について説明します。コンセプトアーティストになる利点の1つとして、作業のやり方を微調整すれば、さまざまな段階でそのスキルを活用できることが挙げられます。

たとえば、ゲーム業界のプロジェクトの場合、新しいアイデアをテストし、パブリッシャーに提示する「ピッチ」フェーズから始まります。これは、とんでもなく大それたアイデアやクリエイティブなアイデアをテストおよび検討する段階です。

ここでコンセプトアーティストは与えられた指示書に基づいてプロジェクトの可能性を評価し、そのアイデアをコンセプトの発展に利用できる視覚的なイメージに変換します。ただし、このプロセスにもチームワークが必要なので、同僚のアイデアに対してもオープンでなければいけません。

コンセプトアーティストにとって最も忙しい時期は、アイデアが「プリプロダクション」の承認を得た直後です。プリプロダクションでは、全体的なルック・背景・キャラクター・乗り物、そしてプロップを含むすべての世界をデザインします。これは実にワクワクする段階です。ここでより詳細なコンセプトを開発し、それを基にプロダクションチームが 2D や 3D で実際に制作します。たとえば、ファンタジーゲームでコンセプトアーティストがメインキャラクターの衣装をデザインし、次に 3Dアーティストがモデリングします。

もし、あなたの働くスタジオが開発段階の異なるプロジェクトを複数手掛けていれば、プロジェクトがプロダクションに進んだあと、別のプロジェクトに異動されることもあります。しかし多くの場合、引き続き、コンセプト面でプロダクションチームの力になるために元のプロジェクトに留まるでしょう。また、ライティングやマテリアルなどを表現するために、ペイントオーバーを依頼されるかもしれません。プロジェクトがインタラクティブな体験に変化するにつれて、元のアイデアには多くの変更が加わるため、これらをうまくコンセプトに組み入れて全体をまとめる必要があるでしょう。

プロジェクトの終盤では、さらに VFX(視覚効果)やマーケティング用のアート(パブアート)の制作を求められることもあります。

Downtown Tokyo ©Jan Urschel

05 コンセプトアーティスト Q&A

Q. 仕事のどういった面を気に入っていますか?

A.(1人またはチームで)世界を作ってアイデアを視覚的に表現し、さらにその報酬までもらえるところです。

Q. コンセプトアーティストとして仕事を探すときに、重要な要素は何ですか?

A. 良い仕事を見つけられるかどうかは、すべて「タイミングと運」次第です。チャンスが巡ってきたときに必ず準備ができているように、ポートフォリオを最新の状態に保ちましょう。

Q. 駆け出しのアーティストが避けるべきことはありますか?

A. 勉強中のアーティストは憧れの人を真似するだけでなく、クリエイティブであるよう努力するべきです。コンセプトアーティストの仕事は「新しいものを創造すること」です。他の人から学ぶのもよいですが、あなたが最終的に生み出すものは「オリジナル」でなければいけません。

Q. コンセプトアートのキャリアの中で驚いたことは何ですか?

A. テクニックよりも、知識とアイデアが重要なことです。

Q. コンセプトアートを始めたい人に、何かアドバイスはありますか?

A. オンラインで目にするイメージにだまされないように。美しい完成イメージを作ることは、この仕事のほんの一部に過ぎません。

 

※本チュートリアルは、書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』からの抜粋です


編集部からのおすすめ: 色、構図、遠近法.. アートのセオリーを学ぶ/再発見するには、書籍『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 改訂版』をおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp