コンセプトアート入門:スタジオの求める技術
コンセプトアーティスト Donglu Yu が、スタジオに求められる技術について説明します

はじめに
仕事の職務内容とは別に、多くのスタジオがコンセプトアーティスト職の応募者に求める一定の技術があります。ここでは「スタジオが採用で求める主な技術」「フィードバックの重要性」、そして「スタジオのニーズに応えるために技術を磨く方法」を紹介します。
01 技術的要件
スタジオに自分の作品を見せるとき、伝えるべき重要なメッセージが2つあります。1つめは「芸術的に素晴らしい作品を提供できること」、2つめは「作品が十分な情報に基づいた思考プロセスで制作されていること」です。
1つめのメッセージを伝えるために、ポートフォリオを通じて 芸術的な才能を示します。そこでは、アートの原則(パース・構図・明度・色彩・ライティング・描画スキルなど)を理解していると実証しなければいけません。これらの要素を効率的に証明するため、ポートフォリオをさまざまなセクションにわかりやすく分割しましょう。「線画」はパースのセクションに分類し、「構図」「明度」は白黒スケッチのセクションを通じて示し、色付きのスピードペインティングは「色彩とライティング」のセクションに集めます。「描画スキル」は、すべての完成作品を見せることによって披露します。
2つめのメッセージを伝えるために、あなたがきちんと考えられる人であること、そして、完成作品が単なる偶然の産物ではないことを示します。つまり、作品が与えられたテーマに関連する入念なリサーチの結果であると実証する必要があります。これらを踏まえて、ポートフォリオには洗練された作品だけでなく、進行中の作品(WIP)や開発中のイメージを含めることも重要です。
制作途中のイメージによって、あなたのアイデアを生み出す速さと、潜在的な各課題に対するアート表現の柔軟性をアートディレクターに示すことができます。たとえば、ポートフォリオの中でプロップのコンセプトを提示する場合、きれいに描写されたオブジェクトのみではいけません。さまざまなアングルから見たオブジェクトの線画や断面図、そして全体的な形状を示すシルエットも含めましょう。
3Dアーティストがあなたのデザインを制作する段階になると、説明図が非常に役立ちます。こうしたことから、アートディレクターは、他の部署の助けとなるプロダクションアセットやデザインが含まれているポートフォリオを常に高く評価します。
Medieval Lord | © Donglu Yu
02 カギとなるスキルを磨く
重要なアートスキルを磨くのに最適な方法は「写生」です。屋外で絵を描くことは、基礎を強化するのにうってつけです。これによりコンピュータの作業も中断できるため、私は機会さえあればよく行なっています。昨今、高度な技術や学ぶべきソフトウェアが無限に出てくるため、駆け出しのアーティストはアートの基礎をおろそかにしがちです。しかし、「スケッチブック」と「鉛筆」というたった2つのシンプルな道具だけでも、多くのアイデアが生まれ、観察スキルも向上することに驚かされるでしょう。とにかく外に出て、現実世界を観察することを心がけてください。
建築家が建物をどのように設計し、光と影が通りのプロップの固有色にどんな影響を与え、オブジェクトがどのように鋳造・製造されているかに注目してください。また、自然によってデザインされた植物や花の様子、色温度によってさまざまな時間帯が表現されている様子にも目を向けしょう。
「旅」をすれば、さまざまな文化や建築と触れ合い、自分の画像ライブラリを豊かにする写真を撮影できます。旅の予算は人それぞれですが、経済的な制約があるなら、地元の博物館・モーターショー・近所の工業地帯などに行って、素晴らしい写真リファレンスを集めることができます。十分な貯金があるなら、外国へ旅行して新しい体験をしましょう。異国文化の豊かさはあなたの想像力を一層かき立て、魅力的なアートワークを制作するためのインスピレーションとなります。
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03 フィードバックをもらう
応募や面接で具体的に求めない限り、応募者は積極的なフィードバックをもらえません。特にジュニア コンセプトアーティストに応募するときは、面接で作品に対する意見をお願いしてみましょう。そうすれば、プロからの貴重な情報を得られると同時に、あなたが批判を受け入れて学ぶ熱意のあることを表明できます。
ポートフォリオに関するフィードバックをもらえたら、アートディレクターと興味深い会話をし、具体的な質問をしてください。そして、アドバイスに耳を傾け、あなたの現在の技能で貢献できることを伝えます。こうすると、面接官に好印象を与えられるでしょう。まだ特定のスキルに未熟な部分があり、その職種に適格ではないと感じても気にしないでください。少なくとも上達のために、時間とエネルギーを費やすべき対象や方法が明確になります。
結果的に面接を通過できなかったとしても、スタジオとの間に良好な関係を構築できるでしょう。そして、新たに空きが生じたら、新作のアートを堂々と提示し、もらったフィードバックが貴重であったこと、引き続きアートスキルを磨いていることを伝えてください。アートディレクターはあなたの努力を評価し、熱心な候補としてチャンスを与えたいと思うはずです。
Jaswant Thada temple | © Donglu Yu
04 個人に求められる要件
スタジオ勤務のあらゆる人材に求められる2つの不可欠なスキルが「優れたコミュニケーション能力」と「チームワークで仕事をすること」です。アートディレクターとさまざまなアート部門の懸け橋になるコンセプトアーティストにとって、これらは特に重要な特性と言えます。あなたは、モデリング・テクスチャリング・レベルアート・ライティング、そして VFX 部門のアーティストとうまく連携することを期待されるでしょう。
作成したコンセプトがアートディレクターに承認されたら、次はプロジェクトに携わる他のアーティストに自分の選択を説明します。彼らがあなたのデザイン選択に賛成しないときは、作品を裏付けるためにリファレンスやリサーチを見せる必要があるかもしれません。そこで優れたコミュニケーション能力を発揮すれば、あなたのデザインは最終プロジェクトに移行されるでしょう。
大勢の経験豊かな人々を必要とする AAAゲームや大作映画のようなプロジェクトでは、チームワークで仕事をすることが極めて重要です。プロジェクトを成功させるには、クリエイティブディレクション・ゲームデザイン・アートディレクション、そしてマーケティングなど、あらゆる面で互いに協力しなければいけません。チームメンバーは各々の分野を通じて、プロジェクトで重要な役割を果たしますが、高い自尊心はゲーム開発の妨げとなる場合もあります。どれほど自己評価が高くても、大規模なプロダクションではチームワークで働くことが不可欠なので、他のアーティストと関わるときは、自分の作品に対して謙虚になり、プロ意識を持って対応することを忘れないでください。しっかりとしたチームワークなしに成功はありえません。
他の重要なスキルに、「計画性」と「時間管理」があります。たくさんの仕事と締め切りに追われるチームメンバーにとって、計画的であることは必須条件です。精密で信憑性を求められるコンセプト開発では、リファレンスや追加情報を収集しなければいけないので、「リサーチ」も貴重なスキルと言えます。最後に「仕事への熱意」は創作物に現れ、やる気も起こさせるため、これも大事な要素と言えるでしょう。
Searching | © Donglu Yu
プロのヒント:ポートフォリオには具体性を取り入れる
応募するスタジオごとに、異なるポートフォリオを準備するのが賢明です。もし特定のプロジェクトで働きたいのなら、準備はもっと簡単になるでしょう。たとえば『Halo』に応募してSFの環境を制作したければ、同シリーズのアートディレクター Sparth(Nicolas Bouvier)氏の作品をチェックし、彼がこのプロジェクトで構築した独特の視覚言語を研究してください。
『アサシン クリード』シリーズで仕事をしたければ、ポートフォリオに歴史的な設定を入れ、もの悲しいライティングの細い裏通りを描きましょう。『ファークライ』シリーズに携わりたければ、青々とした植物の背景をフォトリアリスティックなアプローチでペイントし、その能力を実証してください。
※本チュートリアルは、書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』からの抜粋です
編集部からのおすすめ: 色、構図、遠近法.. アートのセオリーを学ぶ/再発見するには、書籍『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 改訂版』をおすすめします。