コンセプトアート入門:スタイルを確立する

大作映画やAAAゲーム制作に多数参加。コンセプトアーティスト Juan Pable Rolden 氏が「スタイル」についての洞察を共有します


Juan Pablo Roldan
コンセプトアーティスト|コロンビア

コロンビア出身のコンセプトアーティスト。映画のビジュアル ディベロップメント・次世代ゲーム・MMO(大規模多人数型オンライン)ゲーム制作など、エンターテインメント業界で長年の経験がある。コンセプトアートの普及のために国際会議にも参加している
コロンビア出身のコンセプトアーティスト。映画のビジュアル ディベロップメント・次世代ゲーム・MMO(大規模多人数型オンライン)ゲーム制作など、エンターテインメント業界で長年の経験がある。コンセプトアートの普及のために国際会議にも参加している

はじめに

独特のスタイルを持つことは、とりわけキャリアを築こうとしているコンセプトアーティストにとって、非常に有益です。しかし「独自のスタイルを学ぶ」にしても掴みどころがなく、漠然としています。ここでは「スタイルの本質」「それが重要な理由」「独自のスタイルを確立するためにできること」を学びます。

01 スタイルの本質とは?

「スタイル」とは、アーティストの作品を特徴づける一連の要素やテクニック、そして視覚的な側面です。これらの特徴はすべてそのアーティストの所属する文化・時代・出身校、そして学習方法の影響を受けています。使用するツールに左右されることもあるでしょう。たとえば、ソフトウェアは常に進化し続け、新しいやり方を実現していますが、これはアーティストのスタイルに影響を与える場合があります。

スタイルで最も重要な特徴は、「人それぞれの世界に対する独自の見方」と言えるでしょう。もし、アーティストのグループを集めて同じシーンを描かせたら、その結果は大きく異なります。使用するツールやテクニックもさまざまで、シーンに描写されるライティング・ストロークの強さ・ムード・感情が、それぞれのイメージに表れます。あなたのスタイルはあなた独自のものであり、自然と湧き上がってくるものです。

02 なぜスタイルが重要なのか?

スタイルは、あなたが制作している作品のルックと雰囲気を特徴づけます。個性的なスタイルを持っていると、大勢のポートフォリオの中でひときわ目立ち、将来の雇い主の関心を引きます。もし自分のスタイルがわかれば、選んだキャリアパスで潜在能力を最大限に引き出すことができるでしょう。たとえばあなたには、「環境デザインを習慣的に行なっている」「宇宙船よりもロボットのデザインを好んでいる」 あるいは「1つのジャンルだけにのめり込んでいる」といった特徴があるかもしれません。こういったすべての好みは個人のスタイルを特徴づけ、コンセプトアート パイプラインで自分の居場所を理解する手助けとなります。

03 独自のスタイルを確立する

スタイルは、経験を基に自然と形成されます。したがって、スタイルの発展を続けるにはアートやデザインの基礎を学び、試行錯誤しながら新しい情報を追い求めることが重要です。こうした毎日の習慣によって、あなたはいずれ自分のスタイルを特徴づける大事な要素を生み出し、先鋭化していけるでしょう。経験を重ね、技術を磨いていけば、あなたのポートフォリオで際立っている特定の成分を識別できるようになります。

アートの進歩に役立ちそうな新しい知識を受け入れることも大事です。お気に入りのアーティストがスタイルを確立するために行なった方法や、構図・ライティング・ストロークといったアートの重要な要素の表現を学ぶときに、その人のテクニックを試したり、同じスタイルを模索したりしましょう。これは何ら悪いことではありません。こうした練習によって、自分の作品を引き立たせ、強化するための情報が得られるのです。

尊敬するアーティストの作品を観察したら、次は特定のエフェクトをどうやって作り出したかを分析します。それがわかったら独自のアイデアを生み出すか、映画や書籍からインスピレーションを得て、発展させたいイメージを作成します。こうして、分析から学んだすべてのことを、最終結果に反映させてみましょう。

インターネットがリファレンスを検索するのに役立つ無制限のツールであることは、周知の事実です。まず主要なソースの1つとして、伝統的なアートの巨匠を調査してみましょう。彼らは現代アートに大きな影響を与えているので、そのスタイルを理解することは、現在のアートスタイルの理解につながります。ただし、このリサーチと学習の目的は、自分のスタイルを確立することです。誰かのスタイルを単に複製することではありません。他のアーティストから学んだことは、自分好みのテーマ・ムード・テクニックに代わるものとしてでなく、それらを引き立てるものとして利用すべきです。

作品例01:Troops

現実的でありながら絵画調のスタイルです。写真テクスチャは使っていませんが、代わりにテクスチャを埋め込んだブラシで、リアルなストロークとマテリアルをシミュレートしています。

「Troops」© Juan Pablo Roldan

作品例02:Death Valley

映画『ロード・オブ・ザ・リング』『ジュラシック・パーク』『キング・コング』などの壮大な映画で見られるさまざまなスタイルを織り交ぜています。これらすべての映画に共通するテーマは「難解な雰囲気」「孤独感」、場合によってはスケールを伝える「巨大動物の骨」が壮大な環境に描かれていることです。これらの視覚要素をすべてミックスすると、美しさと暗闇が融合する環境になります。ここではテクスチャから色を抽出し、偶発的な形状を加えています。リアルかつ芸術的なスタイルの作品を生み出すため、ブラシストロークにも特別な注意が払われています。

「Death Valley」© Juan Pablo Roldan

作品例03:Angry Gorillas

戦争に対する個人的なビジョンです。ここでは第1次および第2次世界大戦の要素が、愚かなゴリラや怒っている野性のブタと混ざり合っています。「誰もが理由もなく銃を撃つ」というばかげた印象を作り出しています。

「Angry Gorillas」© Juan Pablo Roldan

プロのヒント:多様性を考慮する

特定のスタイルで知られるようになると、依頼される仕事内容も共通のテーマになるでしょう。たとえば、あなたのユニークなアートスタイルの特徴が、SFイメージのリアルでシネマティックなアプローチである場合、クライアントはあなたに似たような路線のものを作って欲しいと考えます。つまり、あなたがコンセプトアートでさまざまな経験をしたいなら、多様性をポートフォリオに反映する必要があります。

※本チュートリアルは、書籍『コンセプトアーティストになるために知っておきたいこと』からの抜粋です


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編集:3dtotal.jp