【特別寄稿】造形家/映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード19:GEHENNA ~その軌跡3 -資金集め-

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード19:GEHENNA ~その軌跡3 -資金集め-

今回は『GEHENNA ~死の生ける場所』の制作資金集めの話です。

>>エピソード13:GEHENNA ~その軌跡2 -脚本への道-のつづき

脚本のやり直しを決心した頃、前に書いた『AVP2 エイリアン VS.プレデター』(エピソード16参照)や『ドラゴンボール・エボリューション』(エピソード2参照)を手がけた工房 ADI の社長が「CGを使わないクリーチャー映画を作る!」という企画を Kickstarter(キックスターター)というクラウドファンディングを利用して資金集めをするお知らせが来ました(HARBINGER DOWN : A Practical Creature FX Film)。

■映画『HARBINGER DOWN』(2015年公開)

クラウドファンディングというシステムは「サイトで自分の企画を紹介して、いくら出してくれたら Tシャツやポスターや DVD がもらえるとかの特典をつけて、一般の人たちからお金を集める仕組み」です。そして、35万ドル(4000万円くらい)を目標にして、なんと38万ドル集めてしまったのです。これを目の当たりにした時、心の底から「これだ!」と思いました。

今までは「書いた脚本やアートワークを人に見せて、あとはやってくれるか返事を待つ」というやり方でしたが、どうしても、それが上手くいくという気持ちになることができませんでした。だけど、これなら自分の企画で自分で資金を集められる。仕事をしながらあれこれ考えていたら、色々なアイディアが湧き、周りにもそのことを話したら、皆、協力してくれる意思をもらえました。協力者は皆、業界でも有名な一流のアーティストたちです。「これはいける」と心底思うことができました。そして、タイミング良く、仕事のキリもついて、時間ができたので、早速行動を起こすことにしました。まずは、やることの振り分けです。


1. キックスターターのプレゼンテーションのビデオ制作
2. Gehenna のウェブサイトと facebookページの立ち上げ
3. オープニングシーンの撮影
4. 脚本の書き直し
5. アイコンとなるアートワークの制作


この5つを同時進行で進めました。

1. 最初のプレゼンテーションのビデオの準備

それは、この企画の紹介と同時に、何か目を引く特殊メイクを見せなければならない。この映画のキーキャラクターとして、ガリガリの老人が出てきます。そして、それを演じるうってつけの人物を知っていました。Doug Jones氏(ダグ・ジョーンズ)です。彼は業界では有名で、私自身も『The Time Machine』『X-File』『Doom』『Buffy the Vampire Slayer』などで、彼が演じるキャラクターを複数作っています。

Doug Jones氏が演じる数々のキャラクター

ちょうどその頃『パシフィック・リム』のスタッフの試写会があって、そこに彼がいたので、自分の企画の話をしたら、快く「協力するよ」と言ってくれました。なんていい人なんでしょう!!

Doug Jones氏と片桐氏

そして、彼が出演することを前提にして、ガリガリの老人の制作を始めました。そのプロセスをお楽しみください。

★Doug Jones puppet(2分8秒)

2.ホームページ と Facebook

メインの ホームページfacebook サイトは素材を全て揃えて、クラウドファンディング Kick starter(キックスターター)立ち上げの2週間前に公開を目標にしました。サイトを作れる人に声をかけ、自分はコンテンツ素材の提供をしました。

3. オープニングシーン

「映画はこんなテイストになる」というものを見せたくて、企画しました。謎めいたものにして「続きを見たければ投資しなさい!(笑)」という感じになるようにしました。

オープニングシーンのワンショット

4. 脚本

自分がセリフまで書いてしまうと、それを直すアメリカ人が「元の言葉に囚われすぎてセリフが硬くなってしまう」という欠点に気づきました。そこで今回、私は「いつどこで何が起こる」という設定だけをして、あとは書いてくれる人が自由にセリフを書けるようなやり方にしました。

5. アイコンとなるアートワーク

クラウドファンディングが始まったら、たくさんの企画が並ぶ中、この作品をクリックしてもらわなければならないため、何かとても目を引くポスターが必要でした。そこで以前見かけた『進撃の巨人』のファンアート。私はそれまで『進撃の巨人』を知らなかったのですが、そのポスターを見たときに「すごく見たい」と思いました。

田島光二氏による『進撃の巨人』のファンアート

そのクリエイターは 田島光二 くんという若き日本人アーティスト。今では、ハリー・ポッターシリーズの映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』『ブレードランナー 2049』などのコンセプトアートを手がけるなど大活躍をしています。そんな彼にコンタクトを取ったところ、彼は「私のファンである」と言ってくれ、実に快く引き受けてくれました。「できたポスターにサインして欲しい」とも言われました(笑)。

映画というのは決して一人の力ではできません。このように多くの人たちの協力によって成り立ちます。協力してくれた人たちには、もう感謝しかありません。こうして、映画『GEHENNA ~死の生ける場所』のプロジェクトは始まったのでした。2013年の夏のことでありました。
つづく

 

★バックナンバーはこちらから

■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/

映画『ゲヘナ 死の生ける場所 (Gehenna Where Death Lives)』予告編 (2分8秒/ 監督:片桐裕司 / 日本語字幕)