【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード16:エイリアン vs プレデター vs アバター!?

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード16:エイリアン vs プレデター vs アバター!?

その断った映画の題名は『アバター』。
人生一度だけ後悔した仕事の選択ミスであった...

映画『AVP2 エイリアンズVS.プレデター(Aliens vs. Predator: Requiem)』(以下AVP2)は、題名どおり、エイリアンとプレデターが戦う映画です。この映画は ADI という工房(※エピソード2:DRAGONBALL EVOLUTION その1 参照)での初仕事でした。

映画『AVP2 エイリアンズVS.プレデター(Aliens vs. Predator: Requiem)』(2007年公開)

この前まで、業界最大手の Stan Winston Studio(スタン・ウィンストン・スタジオ)というところでずっと仕事をしていたのだが、非常に仕事がスローになってきて、映画の仕事は全くなく、コマーシャルでデカいハンバーガーとか、柔らかいクエスチョンマークとか、巨大アヒルの足とか、もうわけのわからないものばかり造らされてクリエイティブな気持ちが萎えてきてしまい、刺激を求めて、そこを出て、新しい工房の仕事を取ることにしました。

『AVP2』の仕事を始めた時は、すでに、エイリアンとプレデターのハイブリッドであるプレデリアンと、顔半分が焼けただれているウルフ・プレデターのデザインはできており、私の仕事は、実際に着るスーツを造形することでした。

プレデターの造形は、Stan Winston Studio の仲間であった Joey Orosco(ジョーイ・オレスコ)と一緒にやることになりました。なかなか順調な仕事で、大きな変更もなく、ジョーイはとてつもなくすごいアーティストなので、すべていい感じに進みました。そして、ジョーイがプレデターの頭を、私がそのマスクを造形することになり、彼が頭を造形している間(※頭ができないとマスクを作れないので)、プレデリアンの造形のヘルプをすることになりました。

プレデリアンを担当しているのは業界の伝説 Steve Wang(スティーブ・ワン)。日本にも多くのファンがいる素晴らしいアーティストです。ちなみに、80年代の最初のプレデターは若かりし頃の彼の手によるものです。

スティーブとは、これまで何度も一緒に仕事をしているため、彼は私のスキルを知っていて、なんと、このプレデリアンの片側しか造形しない。腕でも足でも、片方をちゃちゃちゃっとデザインして反対側をやらない。私を「喋る自動シンメトリ(線対称)ツール」と思ってるのか、おかげで、彼のやったのを見て、計って、反転して、反対側の造形をやらなきゃならない。「鬼じゃ! ここに鬼がおる!」とつぶやきながらも、そこはプロ。工藤静香と松田聖子の話で時折盛り上がりつつ(※スティーブはなぜか日本のアイドルオタク)何とか完成することができました。スティーブ・ワン・デザインの勉強にはなったが、こういう事は2度としたくないと思ったのである。

しかし、本当の地獄はその後にやってきた。
プレデターのマスクである。

まず、デザインは「新人アーティストにご褒美ををあげよう」ということで、どういうわけか、監督が気に入ってしまった、おまけで新人に作らせたプレデターマスクのマケット(※デザイン検討用の小さい造形)を、その雑であやふやな形のヘルメットを真似なければいけないという事態に陥ったのである。

どんなものでも造る! それがプロというもの。

だけど「あえて下手に作らなければいけない」という技術は、今まで自分が経験したことが無かった事! なかなかの地獄を見る事になるのである。

私が教えている 彫刻セミナー でよく言っているのだが「雰囲気を読み取る」という事を、当時、まだ青二才だった自分にわかるはずもなく、頑張っても頑張っても、監督が「マケットと違う」と言い出して、何度もそれにあわせて、形を崩さねばならなくなり、それでもなかなか OK がおりない。周りの人たちの私を見る同情の目が痛い...。さらに、彼ら(※監督は兄弟)は、既に撮影でバンクーバーにいるので、彫刻の写真を撮ってメールで送らねばならず、そうすると、写真を見て「左右対称じゃない」と言ってくる。

カメラの微妙な角度やポジションで、見え方がかわってしまったりもするのだが(映画で動いていれば絶対にわからないのだが)、この世の中でどうしても許せない物は、新しいスネ夫の声と左右対称と言うくらい自分の中では左右対称は苦手で、しかも、写真で直すところが見えても、それをもって実物と比べてもそれが見えない。肉眼で完璧に見えても、写真で撮るとなかなかそうはいかない。

ZBrush がまだ普及していなかった時代。「シンメトリ(線対称)ツールは、まさに "神のツール" と呼んでも過言ではない!」と思う今日この頃であるが、

社長や周りの人たちすべてから同情の目で見られ、何度、ヘルメットの額の文字を自分の名前と恨み言に変えてやろうと思ったか。

この苦労のいきさつは、長年経った今でも、そこの工房の伝説となっております

さて、そんな、いろいろな苦労をしながら出来上がった映画で、果して、自分の苦労の成果はどう映ったのか...? 期待に胸を膨らませ試写会に足を運ぶ。暗すぎて見えん!

いやぁ。映画ってホンットに恐ろしい物なんですね。

ちなみに、この『AVP2』の仕事を始めて間もなくして、Stan Winston Studio から連絡が。「ようやく新しいプロジクトが始まったから戻ってきてほしい」と。しかし、もう、こちらで始めてしまったため、抜けるわけにもいかず、そちらのオファーを断る事に。

その断った映画の題名は『アバター』
人生一度だけ後悔した仕事の選択ミスであった...

 

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■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
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映画『ゲヘナ 死の生ける場所 (Gehenna Where Death Lives)』予告編 (2分8秒/ 監督:片桐裕司 / 日本語字幕)