全地形型の四輪駆動車「Landrover」のメイキング
3D & コンセプトアーティスト Neil Maccormack 氏 が、全地形型の四輪駆動車「Landrover」のメイキングを紹介します
はじめに
「Landrover (ランドオーバー)」のコンセプトは、以前に作成したオフロード車の初期モデルから発想を得ています。ただし、それよりもっと頑丈でリアルな車にしようと思ったのです。雪と氷に覆われたツンドラを専用に開発された、全地形型のオフローダーにすることにしました。また、ありがちな軍用車両のようにはしたくないと最初から思っていたので、銃やその手の装備は一切ありません。純粋に探検や援助で使われる四輪駆動車です。
やや未来的ですが、一目見れば明らかに現代のデザインだということが分かります。車のデザインのアイデアはその車が使われる風景から浮かんでくるのが常なので、まずこの類の風景、気候、イメージの全体的な雰囲気に合った画像をインターネットからいくつかダウンロードすることから開始しました。
01 モデリング
車輪の大きさがメインボディの形状と構造を決めるということを念頭に置いてモデリング作業を始めました。それで、大きなオフロード車輪のサイズを元に、ボディの基本形状を作っていきました(図01、02)。
図01
図02
このモデルと最終的なレンダリングを本物らしくするつもりなら、本物の重量感を車に与えなければならないと考えていました。これは現在よく見かける自動車のレンダリングの多くに欠けている要素だと思います。重量があると車のリアルな感じが高まるので、しっかりしたサスペンションを追加し、メインボディを完成させていきました(図03)。
図03
車のメインボディが完成したら、ディテールを加え始めます。たとえば、タイヤのスノーチェーン、車体の外側についているさまざまな装置(正面のウィンチも含む)、ラジエータ、グリル、ドアの取っ手、フロントガラスのワイパー、排気管、ステップ、ラジオのアンテナなどです。基本的に、こうした車に必要になると思うものすべてです。こうした要素がどれも機能的で、現実的であることに注意してください。レーザーガンや武器といった、描く対象から現実感を失わせるようなものは入れるべきではありません(図04-06)。
図04
図05
図06
02 テクスチャリング
モデリングが完成したら、テクスチャリングの段階に入ります。モデリングはかなり手がかかりましたが、こちらはそれほどでもないことが分かっていました。ねじの1つに至るまで細部にわたって、すべてをテクスチャリングするよりも、基本マテリアルが適切に作用するようにする作業が中心です。車体はツンドラのような場所でカモフラージュになる白にして、車体はメタル製にしようとはじめから決めていました。こうした点を頭に入れて、擦り傷がたくさんついて摩滅した白い金属のテクスチャを作成し、基本マテリアルにしています(図07、08)。
図07
図08
メインの車体とタイヤに基本テクスチャを施したら、ドア、ライト、その他の目立たせたい部分にディテールを加えるため、個別の UVマップを使います(図09)。
図09
04 ライティング&レンダリング
このレンダリングの背景は 2D です。ダウンロードしたリファレンス画像を使い、残りは手書きで処理してツンドラ環境のマットペインティングを作成しました。この方法にしたのは、私の能力からすると、3D で生成した背景を使うよりも、ずっとリアルな背景にできるという単純な理由からです。さらに、向きを調整した地平面を追加しています。これはマットペインティングの前景を投影し、影を落とすために使います。これで環境の作成はほぼ完了しました(図10、11)。
図10
図11
地平面の向きを整えて、背景を配置したら、ライティングのリファレンスを用意しました。ここには直接光源がないことが分かっていたので、バウンスライトとラジオシティを使ってライティングしています。車の下の影は、ディスタントライトを回転配置して作りました。こうすると背景画像にあったきれいでソフトな影ができます。さらにエリアライトを1本加えて、金属表面のスペキュラ反射とフロントガラスの屈折を作り出しています。
ライティングが完成したら、あとは窓やフロントガラスの反射を微調整して、テクスチャをディフューズとスペキュラの設定に注意しながら完成させるだけです。また雪原に残されているはずのタイヤの跡で地面を少しディスプレイスして、車の重量感を出そうとしました。やはり、こうしたディテールを追加するとリアルな感じを出すうえで役立ちますし、作品がより本物らしくなります。図12 は、ポストプロダクション処理をする前の最終的なレンダリングです。
図12
05 ポストプロダクション
この作品をアニメーションにするつもりはなかったので、ポストプロダクションはいつもよりも自由にすることにしました。まず Photoshop を使って テクスチャの要素をさらにオーバーレイして色を微調整し、車の下の影をレタッチしました。さまざまな金属のテクスチャを使い、風雨にさらされた要素をレンダリングに加えています(特に車体の前面)。色を明るくし、さらにイメージ全体を少し青みがかった色にして、より寒々とした風景にしています。処理前と処理後のレンダリングの違いは「完成イメージ」と比較してご覧ください。
おわりに
この作品の制作は楽しめましたし、出来映えにはとても満足しています。さらに、学習という観点からも良い経験でした。あといくらか調整すれば、作品をもう1段階上の仕上がりにできたのだろうと思っています。変更するとすれば、真っ先に後輪にスノーチェーンを足します。スノーチェーンを前輪にしかつけていない四輪駆動車というのはめったに見かけません。また、屋根やフロントガラスに雪を足したり、もう少し制作時間をかけて、ドライバーを加えてもよかったでしょう。おそらく車の向かいに立っている、天候を読んでいる、あるいはキャンプ設営をしているところでしょう。
完成イメージ
※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。
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