マットペイント:『Castle on the cliffs -崖上の城』

ドイツの マットペインター/コンセプトアーティスト Marvin Funke氏 が『Castle on the cliffs -崖上の城』のメイキングを紹介します


Marvin Funke
マットペインター/コンセプトアーティスト|ドイツ


はじめに

皆さん、こんにちは。ドイツ出身のマットペインター/コンセプトアーティスト Marvin Funke です。私は在学中に Pixomondo でマットペインター/コンセプトアーティストとして VFX業界に携わり、現在はフリーランスです。これから mattepaint.com のマットペイントチャレンジで描いた『Castle on the cliffs -崖上の城』の制作手順を解説します。

私は、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の大ファンなので、シリーズに登場するような城を舞台にした、雰囲気のある エスタブリッシング ショット を作りたいと思いました。また、これまで手がけたマットペイントは SFが多かったので、個人的な挑戦にもなりました。就業後の夕方から作業し、完成させるのに5日ほどかかりました。

★海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ 第一~二章 早わかりダイジェスト』(10分12秒)

01 制作の準備

作業を始めるときは、さまざまなリファレンスやインスピレーションを探します。この最初の手順を、ぜひ皆さんにもお勧めしたいです。その過程で、「色の明度」「ライティング」「奥行き」「全体の雰囲気」などをイメージしていきます。今回は、城の建築や舞台、そしてマットペイントの全体的な雰囲気に焦点を当てています。

▼プロのヒント:
リファレンスイメージの概要を把握するときは、PureRef を見るだけでよいでしょう。これは無料で利用できるイメージビューアで、たくさんのリファレンスをまとめて配置したり、大きなムードボードを作成したりする際の強力なツールです。

使用したリファレンスイメージ

02 大まかなアイデア

まず、Photoshop で「三分割法」のグリッドを使い、いろいろな構図でラフなアイデアを作ります。そして、最終的な比率を 21:9 に設定し、映画のようなルックにしました。今回は図のように「サムネイルコンセプト」を作成して、構図・パース・奥行きをみつけましたが、「3Dソフト」を使ってアイデアをブロックアウトし、ライティングを完全にコントロールすることもあります。

ラフなコンセプトスケッチ

03 ベースの作成

このマットペイントでは、まず空と地面のベースを見つけるところから始めます。mattepaint.com にあったこの「壮大な空」が、今回のアイデアに最もふさわしいものだったので採用しました。空によって全体の雰囲気が決まるので、私の場合は空から始めるのがベストです。

空と地面のベース

04 崖の追加

リファレンスやサムネイルコンセプトを基に、大まかに崖を作成。簡単に登ったり、攻撃したりできないような難攻不落の断崖絶壁を、印象的に表現することが目標でした。マスクで山の形を崩すことで、よりシャープで面白いものになりました。

断崖絶壁を加える

05 奥行き

後景に崖の要素をさらに増やします。崖の明度を下げ、薄い霧をかけると、シーンに奥行きが生まれました。さらに頂上の崖を、異なる石のテクスチャでペイントオーバーして、構造的な土台と植生が見えるように修正しました。

明度を調整して奥行きを出す

▼プロのヒント:
時折、イメージの上に[白黒]調整レイヤーを配置すると、深度やライティングがうまくいっているかどうかを確認できます。

06 城と前景を描く

環境のベースができたので、mattepaint.com のイメージをたくさん使って、城を作りましょう。城の各要素の色やライティングをシーンに合わせるため、[レベル補正]で調整。仕上げに、鳥や崖に打ち寄せる小さな波、手前の岩やボートのディテールを加えました。また崖の上に、[ソフトライト]や[オーバーレイ]描画モードのブラシで影とハイライトのディテールを加え、ライティングとの相互作用をより明確に表現しています(この描画モードにより、レイヤーに暗い明度で描けば影が付き、明るい明度で描けばハイライトが付きます)。

崖上に城にハイライトを追加、前景に岩とボートを作成

海のリファレンス を確認すると、低いところに霧がかかっていることが多いので、インターネットでフォグや雲のブラシを入手し、明るい色(青みがかった白)で薄くペイントしました。

鳥と霧などのディテールを追加

07 カラーコレクションで仕上げる

重要な要素に焦点を当て、イメージに光の方向性を与えるため、仕上げのカラーコレクションを行いましょう。暖かみのある「ゴールデンアワー」を表現するため、新規レイヤーを暖色系で塗りつぶし、[ソフトライト]モードにします。さらにドラマチックなライティングにするため、[オーバーレイ]モードのグラデーションマップをマスクして、光の方向をコントロールします。最後に、グレインやビネットを加え、全体をフィルムのような質感に仕上げます。

 

完成イメージ:Marvin Funke - Castle on the Cliffs

制作プロセス

最後に

あらゆるプロジェクトで最も大事なのは、適切なリファレンスを見つけることです。そこから、「構図」「ライティング」「スケール感」など、多くのことを学べます。私はよく映画を観て、その中で印象的なショットを保存し、上記の特性を観察しています。

今回は 2Dのテクニックのみで進めましたが、3Dソフトも試してみてください。アイデアを簡単な3Dジオメトリに素早く変換し、必要に応じてペイントオーバーやカメラプロジェクションに利用することができます。

★3Dを使ったマットペイントの作例:「Matte Painting Breakdown // Salvation」(12秒)
★3Dソフトを使った卒業制作ムービー:「Everything you can dream of (not authorized spot)」(1分30秒)
★ブレイクダウン:Breakdown // Everything you can dream of(1分9秒)

 


編集部からのおすすめ: フォトバッシュやブラシのテクニックで 素早く絵を仕上げる技法、スピードペインティングを学ぶには 書籍『スピードペインティングの極意』を、Photoshop を使ってペイントする方法を学ぶには 書籍『Photoshop デジタルペイントの秘訣』をおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp