自身をコンセントにつなごうとする電球「Self Illumination 2」のメイキング

ドイツの 3Dアーティスト Andre Kutscherauer 氏 が、自身をコンセントにつなごうとする電球「Self Illumination 2」のメイキングを紹介します


Andre Kutscherauer
3Dアーティスト|ドイツ

★3D アニメーション:Self illumination(5分30秒)

01 コンセプト

この作品は「Self illumination (セルフイルミネーション)」と題した私の作品の続編です。この「Self illumination 2: The Dark Side of Success (セルフイルミネーション2:成功の暗黒面)」では、前の作品にあった美的なメッセージを受け継ぐだけでなく「物語の続きも描きたい」と思いました。このシリーズの最初の作品に登場したのは、自分自身をコンセントにつなごうとする電球です(図01)。

ここでは「誰もが自分自身の力を最大に発揮できるように努力すべきだ」というメッセージを伝えようとしました。このメッセージを、最小限の要素と無味乾燥でクールなイメージを使って伝えることを目指しました。続編では、この電球が自分自身を「光らせる」という目標を達成した後に待ち受けている可能性を描いてみようと思いました。電球は目前の課題を克服することには成功しますが、今度は別の問題に直面します。光を発しはじめたとたんに、自分の光に群がってくる蛾に悩まされるようになり、どうやら気が変になりそうな雰囲気です。

このアイデアが浮かんだのは、雑誌『3D World Magazine』の編集者 Jim Thacker と Shaun Weston からの依頼がきっかけでした。「セルフイルミネーションの世界を使って、この雑誌の表紙にぴったりの作品を作れないだろうか」という依頼を受けたのです。こんなすばらしいチャンスを与えてくれた Jim と Shaun には感謝しています。雑誌の表紙に自分の作品が使われるのは、私にとって大変な名誉でした。「ふさわしい続編を作ろう」と思いましたし、ひょっとすると、これはいつの日か三部作になるかも知れません。

図01:「Self Illumination 2」

02 モデリング

この作品の構成要素のほとんどは、ボックスモデリングで作成しました。プラグ、ジャック、ねじは別の方法で作成しています。こうした工業製品らしい形状のモデリングは、Nurbsモデラーを使った方がずっと効果的に進むと思います。残念ながら、3ds Max には使い勝手の良い Nurbsモデラーが組み込まれていません。この欠点を補うためには、Rhino のような外部プログラムか、Power Nurbs のようなプラグインを使うとよいでしょう。今回の作品では、Rhino を使いました。忘れてはいけないのは、モデリングで本物らしく見えるオブジェクトを作るにはフィレットが非常に大切だということです(図02-03)。

図02

図03

シェーダが完璧にセットアップされていても、現実にはあり得ない、鋭いエッジがあるとリアルには見えません。「質感」の多くはオブジェクトのエッジから生まれてきます。この作品に登場するモデルの場合、レンダリングではっきりと見えるように、またライトが適切に役目を果たすように、エッジのほとんどに最低でも 2mm 程度のフィレットを付けています。この表紙イメージでは、前の作品「セルフイルミネーション」のモデルを再利用し、新しいポーズに合わせて変更しました。最初の電球には、完全にアニメート可能な Biped の構造が含まれていたので、美的な側面のみに留意しながら、直感的にポーズを変更することができました(図04)。

図04

03 シェーディング

この作品には、はっきりと「電球にピントが合った無味乾燥でクールな環境を作り出す」という意図がありました。また「フォトリアルな画像にする」という目的もありました。金属やガラスといった無機的なマテリアル(図05)は、肌や髪の毛よりも 3Dで再現しやすいとはいえ、これをフォトリアルに完璧に仕上げるにはコツがいります。

3D の初心者の多くは、レンダリング時間を最適化し、ライトを簡単に修正できるようにすることを目的として、シャドウの不透明度などを微調整するという間違いを犯すことが多々あります。理由はうまく説明できませんが、この方法ではなかなかフォトリアルな仕上がりにはなりません。こうしたテクニックは使わないようにしましょう。自分の作品が思いどおりに仕上がらない場合は、ライティングやマテリアルについて考えるようにしましょう。微調整ではなく、セットアップして時間をかけることです。

図05

04 ライティング

金属やガラスのようなマテリアルをシーン内でたくさん使う場合には、そうしたマテリアルがシーンの中の物体を反射し、間接的に見えることに気を付けましょう。ライトボックスは反射を表現するうえでよい出発点となります(図06)。

ここで使ったライトボックスは、5つのシンプルな平面で構成されており、互いに少し距離が開いています。右と左の平面は自己発光し、他の平面は拡散する白のマテリアルを受けます。光は、左右にある巨大なエリアライト2つから入ってきます。エリアライトによってこの画像にはたちまちコントラストがなくなりますが、それを調整するには Photoshop のレベル補正ツールが最適です。これをブレンドモードを「輝度」に設定して補正レイヤーとして使うと、彩度を上げることなく完璧にコントラストを補正できるようになります。このツールで、ALTキーを押したまま「高」または「低」のスライダーをドラッグすると、白と黒のポイントがすぐに分かります。

図06

おわりに

これがすべてです(図07)。この解説は、自分のアイデアを完全に具体化できるようにするための作業手順の一例にすぎません。作品を作り上げる方法は他にも無数にあります。自分が必要としている効果を即座に実行してくれるボタンがソフトウェアについていないからといって、それが不可能だということにはならないことに注意しましょう。また創作活動を続けていく中では、作品のデザインと同時に、技術的な面でも独創性を発揮しなければなりません。ソフトウェア製品は、彫刻家にとってのハンマーのようなもので、使い手の腕次第で良くも悪くもなります。技術は、真にユニークなものを作る可能性を人に与えてくれます。それを使わない手はありません。

図07

 

完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。

 


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編集:3dtotal.jp