『Christmas Eve 1843』のメイキング Part2:ブロックイン&アセットライブラリ

英国の Andy Walsh氏が「クリスマス・キャロル」の1シーンを描いた作品『Christmas Eve 1843』のメイキングを紹介します(※全3パートの2)


Andy Walsh
コンセプトアーティスト|英国


Criterion Games のコンセプトアーティスト Andy Walsh氏 が、3ds MaxPhotoshopV-RayDAZ 3D を使用して、「クリスマス・キャロル」の肌寒い 1シーンを制作するためのモデリング、および ペイントのプロセスを説明します。この Part2 では、シーンのブロックインと、アセットライブラリの構築方法を紹介します

>> Part1:サムネイル&リファレンス
>> Part3:ペイントオーバー&仕上げ

はじめに

3Dを使った制作段階に入ります。この Part 2 はソフトやテクニックについて、できるだけ一般的な内容にしているので、好みのソフトで実践できることでしょう。また、時間をかけて 3Dでアセットを構築することで得られる利点、つまり将来的に再利用できるメリットを繰り返し強調します。十分にアセットを保有すれば、その後、何年も使えることでしょう。このステップではそれを実践します。

また、詳細レベル(LOD)のアプローチで進めます。これは、前景にたくさんのディテールを適用し、カメラから遠ざかるにつれてディテールを減らしていくという手法です。

01 ブロック イン

スクルージの会計事務所を前景に配置し、そこに通じる階段を作りました。どうしても階段を正面に配置したかったのです。彼が長年働いてきた事務所は、高い場所にある由緒ある建物であり、単なる街角の一施設にしたくありませんでした。また、スクルージと建物を際立たせてうまく読み取れるように、隣の建物は奥に引っ込め、大気や霧によって空間的に分離させる必要があると考えました(霧はまだ追加されていないので、現時点でその効果はわかりません)。

窓は 3dtotal でダウンロードしたフリー素材です。アセットライブラリを充実させるため、できるだけ多くの無料(または手頃な価格)のアセットを入手しておきましょう。そうすれば、時間の節約になります。ちなみに、この雪は去年制作したクリスマスシーンから流用しました!雪は、単にノイズディスプレイスメントを施したプレーンです。

最初のアングルとブロックイン

02 大気

環境フォグをオンにした途端、前景が中景から浮き上がって見えたので、これまでの計画が報われた気がしました。吊り看板がうまく収まるようにカメラアングルを微調整したら、アセットを再利用し「柵、馬車、ビクトリア時代のランプ、奥のドーム型の建物」を追加します。後景の建物のディテールは不十分ですが、誰が気にするでしょうか? 私は気になりません! たとえ、後景の建物を作る必要があったとしても、霧の濃さを考えれば、簡単な形状で十分でしょう。

霧を追加した時点で、正しい方向へ進んでいると確信しました

03 スクルージの事務所の正面を洗練させる

アサシンクリードのリファレンスは、建物の表面にディテールを入れるときに役立ちました。ここでは、画面外からのほのかな光源を加え、注目を集めることなく、形を明確に浮かび上がらせています。

前景のディテールを加える

ドアは、こういうシーンで何度か使ったことのあるテクニックで作成します。まず、Textures.com から古いドアの画像を取得し、事務所の玄関ドアの縦横比のスクリーンショットを取ります。それに合うように引き伸ばしたら、Photoshop でディテール(ノッカーと取っ手)を追加し、ドア(ただの平面)にテクスチャとして配置します。

その後、ドアに切り込みを入れ、おおよその立体感に合わせてパーツを押し出します(100%正確である必要はありません)。ノッカーの部分はテッセレーションを施したポリゴンを膨らませているので、丸みを帯びています。スカルプトは不要です。少し離れたところから見れば、十分な説得力があります。時間がないときは、平面のままでよいでしょう。

ドアの作成

04 二次的な建物

再びアサシンクリードのリファレンスを参考に、銀行や美術館のように見える奥の大きな建物を制作しましょう。とてもシンプルですが、実際には、もっとシンプルでも良かったくらいです。今回は、見えないほど装飾されたハイポリの柱をダウンロードし、やや装飾的な柱の土台も作りました。しかし、繰り返しになりますが、これらはいつか再利用できると確信しています!

煙突は、以前に手掛けた別のプロジェクトのモデルを再利用したものです。煙突のように、いくつかの平らに見えるパーツは、2Dペイントオーバーの段階で処理することもできます。最後にマテリアルの面で、シーンの多くの建物に異なるレベルのアンビエントオクルージョンを施し、隅々まで暗くなるようにしました。この処理は、その時代の古い建物の外観と雰囲気を作り出すのに必要不可欠です。

アサシンクリードのリファレンス

ディテールの多い部分、少ない部分でバランスを取ります

05 簡単なポストプロセスのテスト

3Dで作業しているときも、Photoshop で少し手を加えたルックを確認することがよくあります。3Dレンダリングは基本的な出発点にすぎません。ペイントをあまり行わないとしても、それは未加工な状態であり、最終イメージに近いものを見ていると誤解させる可能性があります。色合いは緑がかったものかティール色にしたかったので、色を調整し、雪とランプの輝きを加えてみました。

この段階になると、ゴールが見え始めます。それまでのうまくいくかわからない初期段階に比べ、少し安心感を得られるでしょう。これで、調整したPSDファイルができたので、新しいテストレンダリングを定期的に配置すると、レンダリング出力の上の調整レイヤーによって、すべての変更をすぐに確認できます。

作業の途中で簡単な Photoshop のテストを行い、正しい方向に進んでいるかどうかを確認します

06 左の建物

右側の通りが ほぼ完成したので、次は左側に取り掛かりましょう(この部分は比較的単純だとわかっていたので、あとに残しておきました)。ご想像のとおり、左の手前の建物は以前のプロジェクトで使用した古いアセットです。2番目の建物は、イングランドの非常に面白い場所であるブリスツ・ヒル(Blists Hill)で一度訪れた建物に基づいています。そのため、楽しみながら作成することができました。

ブリスツ・ヒルは、町全体がヴィクトリア時代の博物館のようなところです(驚きですね)。この写真はクリスマスシーズンに撮影されたので、今回のテーマにぴったりでした。建物の上部に関しては、古い窓のアセットを使い、(当時としては一般的な)小窓のパネルを増やすように更新し、複製しただけです。それほど難しくはありません。この方法を使えば、素早く建物の面を作成できます。

ブリスツ・ヒルのリファレンス

建築アセットの作成 その1

左の手前の建物は古いアセットを使いまわしています。左の中央の建物は、イングランドの街をベースに作成しました

07 最後の建物

再びアサシンクリードのリファレンスに戻ります。建物をあおりで見たときの立体感が気に入りました。柱や窓が多く、目を休めるスペースはあまりありません。賑やかでありながらも、煩わしくならない程度に均一です。今回は LOD のアプローチにより、完全な建物を作る必要はありませんが、やはり近くで見ると物足りません。ここでは、将来の作品で再利用できるものを作っていきましょう。

アサシンクリードのリファレンス

上の3Dモデルは少し過度にモデリングされていますが、大部分は複製されているため、それほど大変ではありませんでした。基本的に1本の柱、ボックスモデル、スクルージの事務所の窓の再利用、アーチ型窓の再利用(パネルを追加)、そして数個のロフト/押し出し/スウィープ(お使いのソフトで呼ばれている方法)で作成されています。下のスウィーププロファイルウィンドウを見てください。3ds Max のフリースクリプトで、事前に作成されたスイーププロファイルを線に適用し、詳細なビクトリア時代の装飾を獲得しています。

建築アセットの作成 その2

スウィーププロファイル ウィンドウ

これは、時代建築に緻密なディテールを手早く加えたいときに最適な方法です。繰り返しになりますが、建物は近くで見るとあまりリアルに見えないので、常にカメラで見る部分をモデリングしつつ、ある程度の柔軟性を持たせてください。アセットがさまざまなアングルに耐えられるなら、制作に投資した時間は将来のプロジェクトで大いに回収できるでしょう!

次回は、レンダリングイメージを Photoshop でペイントし、Daz Studio でキャラクターを作成していきます。

左の3番目の建物を加えた3Dイメージ

>> Part1:サムネイル&リファレンス
>> Part3:ペイントオーバー&仕上げ

関連チュートリアル

>> 「静穏」というテーマで:『Tranquility』のメイキング

 


編集部からのおすすめ: 「マジック:ザ・ギャザリング」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」などのイラストレーター グレッグ・ルトコフスキ をはじめ、著名アーティストたちが、アートの必須知識、「構図」や「ナラティブ」の理論と実践を徹底解剖します! 書籍『構図とナラティブ:絵にストーリーを語らせる秘訣』

 


編集:3dtotal.jp