「愛情」というテーマから発想を得て:『誰かを愛する』のメイキング

ベルギー出身のアーティスト Eliza Ivanova氏 が「愛情」というテーマから発想を得て『誰かを愛する』のメイキングを紹介します


Eliza Ivanova
アーティスト/アニメーター/映像制作者|米国

はじめに

ここでは「愛情」というテーマから発想を得て、誰かを愛するというコンセプトに取り組んでいきます。その誰かとは、目の前からいなくなってしまったけれども、今でも自分と深く結びつき、昨日のことのように思い出せる人物です。そうした寂しい気持ちを表現すると同時に、緻密なディテールとデザインに富んだ、シンプルで印象深いイメージを作成したいと思います。

01 サムネイル

作品のレイアウトに関するアイデアがいくつかあり、どれが最も優れているのか確信が持てません。アイデアを選り分けるための最も簡単な方法は、すべてのアイデアをサムネイルに起こすことです。

図01 には面白い構図がいくつかありますが、描きたいムードを正確に捉えていません。そこでいくつかのサムネイルの要素を組み合わせて、完成イメージのレイアウトを考案します。

図01:1分で作成したサムネイル

02 ラフスケッチ

このステップの目標は、大きな形状の輪郭を描き、全体のデザインと要素の位置を決定することです。ディテールやドローイングの見た目は気にせず、キャラクターの位置や周辺のネガティブスペースだけに注意を払います。場合によっては、ファーストパスを何回か描き直すことになるでしょう。このイメージでもそれは例外ではありません!

図02:大まかな形状を素早くスケッチします

03 描き直し

大まかに描画した最初のシルエットは、男女が鏡に映っているように似過ぎています。加えて、背後にあるアイデアは「ファントム・キス」なので、たとえ別の人間を抱きしめているとしても、この2人がキスしているように見せる必要があります。そこで、女性の顔の位置を変更し、男性にキスしているように描き直します。

図03:女性の顔を描き直します

04 デザインの要素を早い段階で加える

デザインの要素を最初に加えて、早い段階で流れと面白い部分を作り出します。私にとって、これは楽しい作業です。抽象的に思考できるので、ディテールに入ったときにも柔軟に作業を進められます。図04 は 2つのシルエットを大まかにつなげ、腕の構造を分解したものです。

これらのデザイン要素は 2人の体をさらに分解するアイデアをもたらし、喪失感・別れ・心の傷などのコンセプトを強化してくれます。まだ、両手と顔がそれ以外の部分と比べて様式化されていないので、ディテールを加えましょう。こうしてコントラストを織りなし、面白いポイントを作ります。スケッチ全体が均一だと、レイアウトの単純さを最大限に活かすことができません。

図04:デザインの要素を追加して、流れを生み出します

05 1歩引いて再考する

これはとても概念的な作品です。すべての要素は、表現したいアイデアを伝えるために配置されています。制作中、鑑賞者の心に「愛や後悔」の感情を呼び起こす2人の「きずな」となる要素が欠けていると思いました。そこで、きずなの象徴としてロープを追加します。後で陰影と色を加え、実在する人物というよりも幽霊のようなルックに仕上げます。

図05:コンセプトを評価する

06 ディテールのレイヤー化

ロープを追加し、きつくて身動きが取れないような感覚をデザインします。また、男女の顔にディテールを加え、顔の造作を洗練していきます。線画にたくさんのレイヤーを加えることもありますが、後で陰影を視覚化するときに役に立ちます。

図06:ロープと顔にディテールを入れます