『Christmas Eve 1843』のメイキング Part3:ペイントオーバー&仕上げ
英国の Andy Walsh氏が「クリスマス・キャロル」の1シーンを描いた作品『Christmas Eve 1843』のメイキングを紹介します(※全3パートの3)
![](https://3dtotal.jp/wp-content/uploads/2024/12/awalsh.jpg)
Criterion Games のコンセプトアーティスト Andy Walsh氏 が、3ds Max、Photoshop、V-Ray、DAZ 3D を使用して、「クリスマス・キャロル」の肌寒い 1シーンを制作するためのモデリング、および ペイントのプロセスを説明します。この Part3 では、3Dでキャラクターを作成、Photoshop で それをペイントオーバーします
>> Part1:サムネイル&リファレンス
>> Part2:ブロックイン&アセットライブラリ
はじめに
プロジェクトの最終段階に入りました。ここからが作品が生き生きとしてくる部分です。もう一度、最初の目標に立ち返り、軌道修正する必要があります。キャラクターのディテールを明確にすることを除けば、主なハードルは ほぼ乗り越えたので、リラックスして作品を仕上げていきましょう。
01 レンダリング要素
最終イメージは 4,500ピクセル でレンダリングしました。当初は 6K を予定していたのですが、ディスプレイスメントマップのせいで、PC がクラッシュしてしまいました(シーンが効率的にレンダリングできるように、適切に設定されていなかったのです)。さらに、霧もレンダリング時間を長くしてしまうため、スケールを縮小する必要がありました。
ディスプレイスメントをオフにして、約15時間レンダリングし、その後、ディスプレイスメントを再びオンにし、雪をバラバラにレンダリングしました。雪は実際にはペイントするだけで十分なのですが、すでにシーンにあり、気に入っていたので、3Dにすべてを任せることにしました。2Dと3D のどちらを選ぶかを判断しなければならない場面は数多くあります。通常は、作業可能な時間によって決まります。
Photoshop で簡単に選択できるように、オブジェクトIDパス と マテリアルIDパス もレンダリングしました。マテリアルIDは、ガラスなどで役立ちます。窓ガラスを選択する必要がある場合、シーン内のすべてのガラスに同じ ID を付けておけば、あとで各ガラスを個別に選択する手間が省けるでしょう。その後、すべてのレンダリングパスを Photoshop に取り込み、レイヤーを整理します。今回、反射パスやZ深度パスはレンダリングせず、シーンそのものにペイントしていきます。
2Dワークフローの準備(最終3DイメージとIDパス)
02 簡単な調整
上の図の IDレンダリングパスの画像を見てください。IDを使用して前景の建物のすべてを選択していることがわかります。次に、建物全体をマスクするために、選択範囲を塗りつぶします。続けて、選択範囲を反転させ、レイヤーの描画モードを[スクリーン]に設定し、背後の大気をペイントしました。
下の図を見てください。前景を際立たせたかったので、この手順は大いに役立ちました。また、イメージ全体でエッジの一部を消したり、ぼかしたり、にじませたりしました。このようにして可能な限り、3Dっぽい部分(つまり、偽物に見えるエッジ)を取り除く必要があります。
前景をさらに際立たせます
03 雪を降らせる!
おそらく、ペイントの中で最も楽しい部分です。雪に関しては描きまちがいがなく、好きな場所に塗り重ねるだけです。今回は、角の丸い正方形のような不透明ブラシを使っています。選択範囲を作成して平らな下地を作り、その上に雪を降らせました。この段階で絵に生命が吹き込まれ、純粋な 3D の領域から抜け出しています。
青みがかった雪を描いたら、その上に別レイヤーを重ねてクリップし、乗算モードにします。そこに、ミディアムブルーのソフトブラシで雪の影をつけます。これは、私が雪を描くときによくやる手順です。昼間のシーンなら、ハイライト用にクリップされた2番目のレイヤーを追加します。特にブラシにノイズがある場合、素晴らしい立体感のある雪を作成できます。では、お楽しみはこれくらいにして、作業に戻りましょう。
この段階は楽しむだけです!
04 キャラクターのベースを追加
私にとって新しいプロセスでした。これまでキャラクターの描写には苦労しており、以前は「そこには人物が存在する」と自分に言い聞かせていました。まずわかっている部分、つまり全体の絵を描き、人物は最後に残していました。しかし、いざ人物を描いてみると、その配置が全体の構図を邪魔していることに気づくのです…。
それゆえに、メインの要素から早めに手を付け、それを中心に組み立てていくことをお勧めします。今回使用した Daz Studio は、無料で使える素晴らしいツールです。キャラクターのベース(元絵)には、純正モデルを使うとよいでしょう(※他の 3Dツール や キャラクターモデル を使用しても OK です)。
ここで必要なのはポーズです。実は、Photoshop でゼロから描こうともしましたが、うまくいきませんでした。この環境はとてもクリーンなので、メインの焦点を雑に扱うわけにはいきません。さらに、スクルージは階段を下りているので、それをリアルに描くのは至難の業です。別の方法として、自分で写真を撮ってポーズをとり、それを元に描くこともできます。下の図では、Daz Studio 内でポーズをとらせたモデルと、建物の前の階段の上でどう見えるかを示しています。
キャラクターの作成に苦労しているなら、3DCGツール は心強い味方になるでしょう
05 スクルージを描く
キャラクターの上に絵を描き始めます(※ペイントオーバー)。ここでは多くの調査を行いました。Google で「スクルージ」を検索中に幸運にも、トミー・スティールが主演する舞台で、私が思い描いていたイメージによく似た 写真 を見つけました。
スクルージの衣装を着たトミーの画像を Photoshop にドラッグし、マフラーの垂れ具合や手袋も含めて、外観を模倣しようと試みました。Dazモデルのピクセル情報はほとんど使用していませんが、少なくとも完璧なプロポーションとポーズ情報は得られました(それらを手作業で描くのは大変です)。
キャラクター制作には、可能な限りあらゆる手段を用います
06 スクルージのディテール
この手順の素晴らしいところは、キャラクターを作るためにさまざまな要素を「フランケンシュタイン」のように合成できることです。明確な出発点さえあれば、あとは自由に作り上げてよいのです。結局のところ、最終結果はすべて単なるピクセルにすぎません。
袖は、ヴィクトリア時代の衣装の画像や古い時代の写真を探し、袖や脚をコピー&ペーストしました。パペットワープで腕や脚を所定の位置に曲げ、ほとんど見えなくなるくらいまでフェードアウトさせて馴染ませます。
キャラクターにディテールが加わりました
07 ルールを破ることについて
先ほどの「できるだけ早くメインの要素に手を付け、焦点を当てる」という話を覚えていますか? 私はペイント作業のある段階で「通りの奥に何か目を引くものがあるといいのに」と思いました。もし、そこに幽霊がいたとしたら? それが、ジェイコブ・マーレイの幽霊だったなら? こうして、私はそのルックに悩み、ストレスを感じ始めました。
下の図がその試みですが、うまくいきませんでした。このイメージを見るたびに、言葉では言い表せない違和感がありました。確実なことは言えませんが、元々の「シンプルでわかりやすい構図にする」というルールを破っているからだと思います。メインとなる要素の空間に競合するものを置くと、鑑賞者を混乱させてしまいます。
ここで私が伝えたかったのは、この種の意思決定には、私が何年もかけて培ってきたものがあるということです。以前の私なら、マーレイの幽霊を入れて完成とし、何か引っかかる感覚を抱えたまま作品を公開していたでしょう。シンプルに保ち、できる限り1つのメインとなる要素以上のものを入れないでください。さもないと、それらが競合してしまいます!
当初の目標を忘れずに!
08 仕上げ
とても微妙な違いですが、馬車を戻し、かすかに光る時計の文字盤を加えることで、第2、第3の要素が生まれています。脳はこれらをメインの要素でなく、補助的な要素と認識するでしょう。これにより、「1-2-3」と整然と認識できるようになりました。
以前ならマーレイのアイデアによって、「1-2-1-2-1-2」と目まぐるしく視線が揺れ動き、混乱を招いていたでしょう。これは、私自身何度も経験したことなので注意してください。アンバランスな構図の悪夢に悩まされないように!
この絵の仕上がりには、とても満足しています。物事をシンプルに保ち、手に負えなくならないようにするという点で、一歩前進となりました。最初に設定した目標と構想を大切にしながら、本当に効果的な改善点がある場合にのみ柔軟に調整しましょう。最後に、私の大好きなストーリーの中でお気に入りの瞬間の描くことができて楽しかったです。
メリークリスマス!
目標を達成することができました! 古典的なクリスマスストーリーの瞬間をシンプルに描いた作品です
>> Part1:サムネイル&リファレンス
>> Part2:ブロックイン&アセットライブラリ
関連チュートリアル
>> 「静穏」というテーマで:『Tranquility』のメイキング
編集部からのおすすめ: 「マジック:ザ・ギャザリング」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」などのイラストレーター グレッグ・ルトコフスキ をはじめ、著名アーティストたちが、アートの必須知識、「構図」や「ナラティブ」の理論と実践を徹底解剖します! 書籍『構図とナラティブ:絵にストーリーを語らせる秘訣』