『Christmas Eve 1843』のメイキング Part1:サムネイル&リファレンス
英国の Andy Walsh氏が「クリスマス・キャロル」の1シーンを描いた作品『Christmas Eve 1843』のメイキングを紹介します(※全3パートの1)
Criterion Games のコンセプトアーティスト Andy Walsh氏 が、3ds Max、Photoshop、V-Ray、DAZ 3D を使用して、「クリスマス・キャロル」の肌寒い 1シーンを制作するためのモデリング、および ペイントのプロセスを説明します。この Part1 では、サムネイルの作成方法とリファレンスの研究方法を紹介します
>> Part2:ブロックイン&アセットライブラリ
>> Part3:ペイントオーバー&仕上げ
はじめに
私は ヴィクトリア時代 の大ファンです。「芸術」と「建築」を愛する者として、この時代は両者の完璧な融合だと感じています。また、暗く陰鬱な雰囲気の作品を好む私にとって、ディケンズの『クリスマス・キャロル』は芸術的な至高の境地そのものです。そのため、私は毎年、ヴィクトリア時代のクリスマスの雰囲気を捉えた絵を制作しています。今回、クリスマス チュートリアル用の絵を依頼されたとき、原典に立ち返り、『クリスマス・キャロル』の第一節に描かれたスクルージの情景を描くことにしました:
「一日中薄暗く、近隣の事務所の窓にはロウソクが灯り、褐色の空気の中に赤みがさしていた。霧はあらゆる隙間や鍵穴から入り込み、外は白く包まれている。狭い路地でも、向かいの建物がかすかに見えるだけだった」
私が好きな物語の中でも、特に心を捉えて離さない一節であるため、この情景に相応しい描写をしたいと思いました。以下に、そのプロセスを順に紹介します。
01 作りたいものを明確にする
絵を描くときは、ある程度しっかりした目標を持つとよいでしょう。そして、制作の各段階で、自分の目標に忠実に進んでいるか、迷っていないかを評価します。迷うのはかまいませんが、それが習慣になるのは避けましょう。アーティストとして、何を作りたいかを決め、実行に移せるようになってください。特に、クライアントのために仕事をしたいのであればなおさらです。『クリスマス・キャロル』のシーンを描くことを大まかに決めたら、参考になりそうなアーティストの作品を探してインスピレーションを受け取り、自分の現在のスキルを超える絵を目指します。
今回は、Raja Nandepu と Connor Sheehan の作品を参考にしました。世界的に有名というわけではありませんが、彼らの作品は私が求めているクリーンでシンプルなムードでした(今回の課題は、落ち着いたパレットでとてもシンプルに理解できる絵を作ることです)。私の作品は「少し複雑」と感じることがよくあるので、これが最大の目標でした。
明確な目標を持ち、やり遂げることが大切です
02 サムネイル 1
「この作品では 3Dを使う」と決めていたので、ソフト内で直接 構図を作成してもよかったのですが、まず、スケッチを試してみて、何か学べるのではないかと考えました。最初のサムネイルは荒削りですが、それは創作の最初の一歩であり、その後の修正と改善への道を開くものです。目標どおりに、まず、強い前景を示し、次に、霧のかかった背景を表現します。それ以外は何もいりません。このシンプルさを活かして、夕方から夜にかけての不気味な静寂を表現したかったので、前景にスクルージと大きな建物を配置。それ以外はすべて削ぎ落としました。
最初のサムネイルは、最も難しいものになることが多いです
03 サムネイル 2
最初のサムネイルは少し対称的になっていたので、前景にもっと大きな形を入れることにしました。大きな屋台を試しましたが、この構図には満足できませんでした。なぜなら、この絵には「生気」を感じさせたくなかったからです。スクルージが会計事務所から帰る道中、「完全に孤独」であるように見せたいと思いました。
形のコントラストを試す
04 サムネイル 3
このサムネイルでは、事務所「スクルージ&マーレイ」を前景で際立たせ、通りを直線的に霧の中へ遠ざかるように描きました。シーンには、スクルージと鑑賞者、そして、荒涼とした夜だけが存在しています。この段階で、ようやく目標に近づいてきました。
目標に近づいてきました
05 サムネイル 4
スクルージと事務所を前景に近づけて、もう少し親密さを出したいと思いました。まるで丘の上から見下ろすように、通りが遠くへ続くシーンとして描き、屋根が視線の高さに並ぶような構図を目指しました。ただ、この構図には、そびえ立つ孤独な建物の感覚が完全に欠けていたため、あまり気に入っていません。しかし、これがスケッチのプロセスなのです。この段階で何が効果的かを探求し、見つけ出さなければなりません。
最後のアイデア
06 次はどこへ向かうべきか
この段階で「3D制作を試したい」と思いました。時間がかかることはわかっていますが、これはスピードを重視する作品ではありません。この進め方はクライアントには受け入れられないでしょう(どのクライアントも、制作に1週間もかかるなんて聞きたくありません!)。しかし、3Dで少し余分な時間をかけると、そこで制作した素材を将来の作品に再利用できるということを示したいと思います(詳しくは Part2 で)。
3D制作初期に、妻に作品の途中経過を見せてフィードバックをもらったことは、とてもよい経験になりました。アーティストでない人に作品を見せるのは効果的です。なぜなら、アートの専門家ではないため、技術的な部分には注目せず、消費者として純粋に見てくれるからです。専門家は作品の技術的な側面に目を向けがちですが、一般の人は作品の持つ感情的な力により敏感です。
妻は、まだ初期段階とはいえ「スケッチの方が3Dバージョンよりもずっと魅力的に見える」と正直に教えてくれました。正直、これは悩ましい指摘でした。もしかしたら、制作の方向性を間違えたのではないかと不安になったからです。しかし、当初から目指している「シンプルな表現」を思い出すと、スケッチのスタイルは私が思い描いているものからかけ離れているように感じられました。クリーンで、厳かとも言えるような表現を求めていました。そして、3D(+ペイントオーバー)であれば、その雰囲気を実現できると感じ、制作を続けることにしました。
07 リサーチとリファレンス収集
3Dで制作すべきものの見当をつけたら、それらに合わせて リサーチ対象を絞り込みます。これまでにいくつかのヴィクトリア時代の作品を制作してきたので、すでに画像コレクションがあり、新たに写真を探す必要はほとんどありませんでした。ここに掲載する画像は、Googleストリートビュー のものと、生まれ育った近くの町、チェスターで撮った写真です。Googleストリートビュー は非常に便利です。ヴィクトリア様式の町を知っていれば(適切な場所を知っていれば、たいていの町で見つかります)、カメラアングルに多少の難はあるものの、かなり良いリファレンスを得られるでしょう。
シュルーズベリー、リバプール、リンカーン、エディンバラなど、いろいろな場所のストリートビューのスクリーンショットだけでなく、ヴィクトリア時代のロンドンの様子を知りたかったので、当時の写真もリサーチしました。
また、3Dモデリングのワークフローと、フォトバッシュのワークフローでは、リファレンス画像の使い方が異なります。前者はあくまでモデリングに役立つ情報を得るだけなので、画像の出所やサイズはほとんど問題になりません。後者は、画像の質、ライティング、カメラレンズ、アングルが、制作するシーンのライティングやパースとおおよそ一致している必要があります。
リファレンス写真
08 さらなるリサーチとリファレンス収集
このステップは3Dに進む直前か、3Dブロックインのごく初期段階、あるいは その後に行います。というのも、どこかの段階でディテールが明確になり、さらにリサーチを詰めることになるからです。最初は、ヴィクトリア時代のイングランドのリファレンス画像が必要でした。そして、通りのレイアウトがわかったら、具体的な建築要素を研究する必要が出てきます。そこで思い出したのは、以前プレイしたゲーム『アサシン クリード シンジケート』です。
ゲームを研究するのは、現実を研究することに遠く及びません。しかし、現在のビクトリア様式の建物は、特に低階層で改修/更新されていることが多く、真のビクトリア様式を見つけるのは難しいでしょう。私はゲーム内で建物の特徴を間近で見て、その特徴からアイデアを得ることができました。必要なリファレンスがすべて揃っているゲームというのはそうそうありませんが、ある時代を作っていて、それをディテールまで再現したゲームがあるのなら、チェックする価値は十分にあります!
リファレンス(『アサシン クリード シンジケート』より)
>> Part2:ブロックイン&アセットライブラリ
>> Part3:ペイントオーバー&仕上げ
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