「静穏」というテーマで:『Tranquility』のメイキング

英国のコンセプトアーティスト&イラストレーター Andy Walsh 氏 が「静穏」というテーマの作品メイキングを紹介します


Andy Walsh
コンセプトアーティスト&イラストレーター|英国

はじめに

「静穏」のイメージについて考えたとき、自然の葉・風景・夕暮れ・穏やかな水の流れなどを漠然と思い描きましたが、すぐにそういった構図はありがちだと気づきました。そこで、静穏な感情に脚光を当て、それを何か別のものに照らし合わせ、ある種の近い表現として、ナラティブなイラストを考えていきます。

正直に言うと、私はこの考えに至るまでにかなりの時間を要し、すぐにひらめきは得られませんでした! そこで、インスピレーションを得るため、アート関連のすべてのフォルダに目を通し、静穏のテーマに合ったものと、適切なスタイルを持ったものを選り分けました。そして「亀がキッチンで冷蔵庫を開けている作品」を見つけたとき、次のように考えました。「これが冷蔵庫で涼もうとしているペンギンだとしたらどうだろう?」「冷蔵庫の光を太陽光のような明かりに見立て、ペンギンが "日光浴" のように涼んでいるとしたら?」外が暖かく晴れていたら、このメッセージが より強調されて、先ほど述べた「静穏」に近い表現を実現できるでしょう。

こうして、アート関連のフォルダをチェックすることで、アイデアが湧き、既存の作品とかぶらないようにできたのです。私はいつもアイデア用のフォルダを「描画・形状・ライティング・特定のキャラクター関連」など、さまざまな分野に分類します。このイメージでは、映画『マダガスカル』『森のリトル・ギャング』などアニメ映画のスタイルを参考にしています。

01 アイデアとサムネイル

私は最近、しっかりとした絵画のようなサムネイルよりも、ラフな線画をよく描きます。シーンによっては、形状の塊よりも線を使ったほうがはるかに簡単です。「埋める」のではなく、4つのセルを作って「なぐり書き」して終了です!

ここでは、先ほど述べたペンギンのアイデアをさらに発展させます。晴れた日の暖かい野外を見せる代わりに、ペンギンのそばに猫を描いて、静穏と対比させたものもあります。この段階で美しさは必要ありません。アイデアをざっと描画するだけにします。

▶最初のサムネイルは、アート作品のように見えなくても大丈夫です

02 線画の仕上げ

このサムネイルを選んだのは、ペンギンがより際立って見えるからです。描きながら 思わず笑ってしまったのですが、それも良いサインとして捉えました。気に入ったのは「自分の浸かっている冷たいミルクを飲む」というアイデアです。

最終ドローイングとして、ラフな線の透明度を下げ、その上に新しいレイヤーを作成、ディテールの入ったバージョンを描画します。手描きの場合は、最初のスケッチを軽く描き、その上で作業を進めるか、清書用の紙にトレースすると良いでしょう。

最終ドローイングには、依然として少しラフな要素が1~2つ含まれていますが、これらはペイント段階でクリーンアップします。

▶適切なサムネイルを選択して、かわいくします

03 基本形状の作成

基本形状を作成し、明度の構造を見ていきます。ここで線画に生命を吹き込むので、描画したときのビジュアルを想像しやすくなります。私はデジタルで作業しているので、すべてを独自のレイヤーに配置。後でさまざまな要素をクリッピングマスクとして使うため、レイヤーフォルダに分けて整理します。

手描きで作業している場合、レイヤーとクリッピングマスクは使えませんが、早い段階で主な要素のシルエットを描きます。ラフな線画の後、必ずこの手順に進む必要はありません。はじめにカラーパレットを試すのであれば、カラーサムネイルを作成しても良いでしょう。

▶形状と明度をざっと把握します

04 最初のトーンを決める

単純な線と形状から始めたので、今度は光源や最初のトーンを構築しましょう。これはシーンの他の部分で、光や描画のスタイルを決めるときのリファレンスとして使用できます。まず、1つの領域を見極め、それから 1歩引いて、その領域が他の部分にも適用されたところを想像します。ここでは、イラストの外側から注がれる 2次的な環境光を設定。これがシーンの他の部分へ影響を及ぼしていきます。

▶次は光のトーンを構築します

05 最初のトーンの適用

1つめの光源の明かりが部屋のオブジェクトに与える影響を、後景から前景に向かって表現しましょう。一般的なルールとして、後景は目立たせず、ペンギンに焦点を当て続けます。

本物のカメラで撮影したように見せたいので、早い段階で、強い被写界深度エフェクトをかけました。カメラと被写体の距離が近いため焦点は狭くなり、その結果、被写体の前後にあるオブジェクトはすべてぼけています。これは手軽でPhotoshop らしい」エフェクトですが、オブジェクトをリアルに見せたいときに、とても効果的です。

▶他の周辺領域を描画します

06 リサーチ

私は最初に、すべての資料をインターネットで集め、フォルダに保存します。しかし、今回のような冷蔵庫の内側から撮影した写真はないので、いつもとは事情が異なります! そこで、今回は自宅の冷蔵庫を内側から何枚か撮影しました(冷蔵庫を持っていない人はいませんね)。

このシーンではインターネットを頼らずに、家庭にあるものを 1~2つ使います。その一例がボウルです。これを手に持って、反射光やハイライトの具合を実際に確かめています。

▶このショットを撮影するため、冷蔵庫の中にカメラを置きました