特徴のないアメリカの路地「Dark Alley」のメイキング

イタリアの 3Dアーティスト Andrea Bertaccini 氏 が、特徴のないアメリカの路地「Dark Alley (暗い路地)」のメイキングを紹介します


Andrea Bertaccini
3Dアーティスト|イタリア


01 コンセプト

映画『ブリット』 で初めてフォード・マスタング を目にしました。子どものときからずっと、この車が大好きです。主人公を演じていた スティーヴ・マックイーン とともに、彼が運転していたマスタングにあこがれを抱いていたのだと思います。

この「Dark Alley (暗い路地)」では、単に車を再現するのではなく、私の中にあるマスタングのイメージと一致するような外観にしたいと考えました。また時間をかけて、この車に暗くて「悪い」雰囲気を加える環境を探しました(この「乱暴な車」はそういう車だと想像したのです)。

私が考えたのは、これといって特徴のないアメリカの路地です。ここでは日中の一番明るい時間帯にも光が地面にまでは届かないので、照明は暗く、ソフトです。路地は、汚く、ゴミがたくさん散らかっていなければなりません。道端には紙くず、地面にはタバコの吸い殻('60年代や '70年代にはつきもののゴミ)、古新聞、ゴミバケツ。排水溝からは煙が立ち上る、といった具合です。鉛筆スケッチを描くと、頭にあるイメージを視覚的に表現するうえで役に立ちました(図01)。

図01

02 モデリング

自動車のモデリングは、インターネットで見つけた設計図のイメージと、フォード・マスタングの専門サイトで入手したイメージ数枚を元に開始しました。モデルのすべてを 3ds Max で平面から作成し、[ポリゴンを編集]でポリゴンの数を最適化しました(図02)。

図02

この作品では、ポリゴンのディテールをうまく扱えるように、ローポリでモデリングし、自動車の半分だけ作成しています。その後で[シンメトリ]モディファイヤと[メッシュ スムーズ]モディファイヤを使用して、滑らかな仕上がりを実現できました。

自動車のシルエットができたら、ディテールを処理してフォード・マスタング・ファストバック'65 年型の標準バージョンを作り上げました。さらに微調整を加え、最終的には「チューンナップ済み」のバージョンに仕上げました。オーバーフェンダーを施し、さらにダックテール、段のついたボンネットカウル、サイドのテールパイプを加えました(図03)。

図03

微調整が終わったら、ロゴ、カウリングケーブル(本来はシェルビー・マスタングのディテール)といった最終的なディテールを加えました。そのあとでホイールの加工に取りかかっています(図04-06)。このパーツは、完成イメージではクローズアップでディテールを見せることになるので、かなり精密に仕上げました。

図04

図05

図06

場面は高いビルに挟まれた細い路地。路地に面したビルの1階部分には裏口と倉庫の警備用の出口が必要です。また電気ケーブル、空調用のパイプ、道路標識、非常用階段といった、これはアメリカの路地裏によくあるディテールもいくらか加えてあります。モデリングの最終段階は地面のディテールで、ゴミ、道端の紙くず、地面に落ちたタバコの吸い殻、段ボール箱といった、リアルな暗い路地の雰囲気を高めるあらゆる要素を作りました(図07-09)。

図07

図08

図09

03 テクスチャリング&シェーディング

テクスチャは、アメリカで撮影した写真を使って、Photoshop で作成しました。一番手間のかかる作業は、地面と建物のテクスチャの制作でした。実は、地面は高精細の大きなテクスチャ(3000×1048ピクセル)1枚だけです(図10)。

図10

ここから、ディフューズ(拡散反射)、スペキュラ(鏡面反射)など、さまざまなマスクを作成しました。建物については、本物の窓の写真を使い、レンガをペーストして汚れた壁面部分をを作り上げました。さらに 3ds Max で平坦なサーフェスにテクスチャを適用して、カットと押し出しによって立体的な印象を与えました。

特に慎重に作業したのは自動車のシェーダです。舞台は汚い路地なので、自動車の表面も汚す必要がありました。きれいな車であるはずがないのです。自動車のシェーダの定義は HDRマップをベースにしています。本物のレイトレーシング反射と HDRマップをミックスして使用し、フォールオフのマスクによってサイドを強調し、現実と同じように、視点から垂直の角度にあるサーフェスにさらに反射を加えています。汚れた表面では輝きと反射が鈍るように、カラー、反射、光沢、鏡面反射の各レベルで適用したマスクのマッピングによって汚れの効果を表現しました(図11-13)。

図11

図12

図13

04 ライティング

照明はとてもシンプルです。グローバルイルミネーションレンダリングエンジンを使い、シーン全体に影が目立たない、ソフトな照明を施しました。さらに HDRマップ(反射と同じもの)を環境マップとして加え、太陽をシミュレートするために指向性ライトも使いました。太陽光は地面には届かず、建物の最上部にしか当たりません。作業の終わりごろには、エリアシャドウ付きのオムニライトをいくつか加えて、鏡面反射光を増やしました。

05 レンダリング&ポストプロセス

レンダリングを始める前に、あとで合成で使えるように、シーンオブジェクトのIDを別のオブジェクトIDに変更しました。イメージ全体をいくつかのセクションに分けてレンダリングし(1つのファイルは 2500ピクセルより大きい)、その後で、それらのファイルを1つにまとめました。

ポストプロセッシングでエフェクトを加えるために、ファイルはすべて、RPF 出力形式でレンダリングしました。RPFファイルは、Z深度、アルファチャンネル、レンダーIDといった多くの情報が含まれています。

まず、RPFファイルとファイル内のZバッファ情報を使って、グローとフォグのエフェクトを作りました。排水溝からの煙については、パーティクルシステムを使ってリアルな煙のエフェクトを作成しています。仕上げに、カラーコレクションで最後のタッチを加え、目標としていた暗い雰囲気を作り出しています。

図14

おわりに

完成した作品は、自動車の「正常」なイメージと比べるとどこか違うところがあります。しかし何が正常なのかは見る人が自分で決めることです。わかっていることは、この作品は心から楽しんで作成できたこと。このようなわけで、バッグス・バニーの言葉を借りて締めくくりたいと思います。「That's all Folks...(これでおしまい...)」

 

完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。

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編集:3dtotal.jp