説得力あるキャラクターの描き方:髪の毛のペイント
ベルギー出身のビジュアルデベロップメントアーティスト Bram Sels氏 が説得力のあるキャラクター作成のヒントを紹介します。今回は「髪の毛のペイント」です
※本チュートリアルは、書籍『Photoshop で描くキャラクター』からの抜粋です
>>>「顔のデザイン&ペイント」は こちら
はじめに
髪の毛のペイントは、顔のペイントとまったく異なるように見えますが、想像以上に似ています。
ただし、大きな違いの1つに、髪は静的ではないため、行き先や動きを予想するのが困難である点が挙げられます。また、身体構造とも関係がないので、何かと比較計測することができません。唯一分かっているのは、髪が重力の法則に従い、特定の垂れ方をする可能性が高いことです。
以前、私は髪のペイントをまったく理解できずに、とても苦労していました。しかし、あるとき、彫刻について学び始め、転機を迎えました。彫刻は「目からうろこ」の体験で、古代の彫刻家たちが大理石から髪を彫り、本物のような髪型を表現していたことを知りました。こうして、髪のペイントに対する私のアプローチは劇的に変化したのです。
私は、髪型を個々の髪の毛が集まったものではなく「互いに絡み合った固体」として捉えるようになりました。これにより、髪の理解が深まり、さらに、髪のライティング法も突如として分かるようになったのです。
ここでは、これら固体のライティング法に加え、色や向きの違う髪の毛を少し足して、髪型が数千本もの髪の毛でできているように見せる方法、時間を大幅に節約するシンプルなブラシの作成方法を学びます。
01 ウォームアップ:スタイリッシュ
このウォームアップでは、視野を広げるために前のセクションの線画をコピーして、その上に新しい髪型を試しました。最終カットまで残ったものはありませんが、いずれにせよ、いろいろ試すことは悪くないでしょう。
この演習のため、図01 の髪型に簡単にマスクをかけました。髪の形状によってキャラクターの雰囲気が左右されることがすぐに分かります。2番めの髪型では鋭くとがった部分が「邪悪な黒幕」の雰囲気を出していますが、最後の肖像画はボリュームのある髪とペタッとした口ひげによって「カサノバ」のように見えます。髪型だけでも、キャラクターの背景にあるストーリーを特徴づける大きな助けとなります。
図01:5つの異なる髪型は、それぞれの異なる背景を物語ります
02 髪の形状
初心者のアーティストは、「髪を 1本1本の毛として捉える」という間違いを犯しがちです。このように髪を捉えると、説得力のある髪型を目指して髪の毛を1本ずつきちんと描きたくなってしまいます。これは事実とまったく異なります。
髪は毛束ごとにまとまる傾向があります。そして、これらは他のすべてと同じように、光に反応する大きな形状です。
どうやって大理石から髪を彫刻するかを想像し、それをペイントで模倣してみましょう。後から、その上に1本1本の髪の毛を足していき、固体が何千本もの髪の毛からできているように見せれば良いのです。
図02:髪の毛 1本1本として捉えるのではなく、髪の形状全体を見て、光に対する反応を考えます(左)/ 明度が正確であれば、髪のカラーリング/色付けはそれほど難しくありません(右)
03 髪の色
色よりも明度の方がはるかに重要という意味で、髪のペイントは他のペイントと変わりません。髪型が白黒でリアルに見えれば、カラーでもリアルに見えるでしょう。明度が正しければ、髪を紫色に塗っても、デザインの一環として主張できますが、不正確な明度では上手くいきません。
このスケッチではきつね色の髪型に決めました。いくつかのリファレンス写真をチェックした後、参考になるように、下の隅にカラースウォッチを定義しました(図02 右)。
簡単なコツとして、影の領域に真っ黒を、ハイライトの領域に真っ白を使用しないようにしましょう。黒やグレー、白髪にも、何かしらの色が混ざっています。
04 髪のマスク
大きな塊を描き始めるときは、髪型を別レイヤーに配置するのが得策です。レイヤーパネルで[透明ピクセルをロック]を選択したら、側頭部に大きなソフトブラシを使用、手動でグラデーションを作成します。
このテクニックを使うと、髪型をたくさんの髪の毛の塊ではなく「固体」として捉えられるので、全体としてシェーディングしやすくなります。
図03:髪型をたくさんの髪の毛の塊ではなく「固体」として捉えられる
たとえば、鼻の下や耳の後ろの影を見てください。先にこれらを大まかにペイントしておけば、後でその部分に強いハイライトを入れないことを思い出せるでしょう。ただし、このような作業方法には落とし穴があります。私たちが作成しているのは、かつらではなく髪型なので、頭から髪への遷移部分でも忘れずに作業する必要があります。
狙った効果を得るには、ブラシパネルで独自のカスタムヘアブラシの設定を変更します。ここで最も大事なのは、[間隔]を1%に変更すること、筆圧の不透明度を得るために[シェイプ]をオンにすることです。ただし、髪の毛を真っすぐで均一に保つために[サイズのジッター]はオフにしておきましょう(図04)。
[散布]、[テクスチャ]、および[デュアルブラシ]モードを有効にすると、髪がボサボサで乱雑になってしまうので、使用しないでください。
図04:グラデーションを描くには髪をマスクすると良いでしょう(かつらを作成しているわけではありません!)
05 うねりや流れ
髪型は主に、頭部周辺の大きな毛束のカット方法や垂れ方によって定義されます。髪型をデザインするときは、髪の流れを意識すると良いでしょう。この場合は、頭頂部のペタッとした髪が、クシで丁寧に横にとかされ、雑然と絡み合っている顎ひげの方へ流れていきます(図05)。口ひげは例外で、丁寧にとかされて造形されることが多いでしょう。
ブラシストロークで毛束の方向を表していきます。髪の毛を 1本1本として捉えるミスを避けるため、大きめのブラシを使用してください。
図05:髪は、頭部周辺のさまざまな方向に巻き付いた毛束の集まりです
06 自己主張としての色
髪の色は、それ自体が主張になります。今回はキャラクターを賢く見せつつ、あまり年配には見せたくなかったので、白髪交じりの黒髪にすることに決めました。顎ひげを胡麻風に見せたいと思ったので、口元には暖色系のこげ茶色と、明るいグレーや彩度の高い茶色を組み合わせました。
[オーバーレイ]描画モードの新しいレイヤーを作成しなくても、現在のレイヤーでブラシ自体の描画モードを[オーバーレイ]に変更できます(図06)。
図06:ブラシモードを変更して、現在のレイヤーを[オーバーレイ]でペイントします
[覆い焼きツール]の代わりにこのテクニックを使用して、ハイライトを強めたり、新しい色をさりげなく入れたりしましょう。前述のように、白髪をペイントするときもニュートラルグレーは避けてください。暖色系のグレーにするか、寒色系のバリエーションにした方が無難です(図07)。さまざまな色を使用すると、ぼんやりして独創性に欠ける髪型を避けることができるので、特徴が加わり、少しずつ個性が出てきます。
図07:顎ひげを胡麻塩風に色付けします
プロのヒント:髪をぼかす
髪の毛が層となって互いに重なり合うことが想像できるので、Photoshop でもそのような扱い方をすると良いでしょう。まず、髪のベースレイヤーを作成して、その上に髪のレイヤーを足していきます。暗い部分から明るい部分へ順番に作業するのと同様に、不鮮明な部分から鮮明な部分へ順番に作業します。
[指先ツール]、または[フィルター]>[ぼかし]>[ぼかし(ガウス)]で、下の方の髪のレイヤーをぼかします。こうすると乱雑さが軽減し、髪型にボリュームが出ます。髪のレイヤーの上へ行くにつれてくっきりと鮮明さを出し、仕上げに数本のシャープな髪の毛を交差させましょう。