水中環境のペイント:異世界のマンタレイ

ノルウェーの コンセプトアーティスト Oscar Gregeborn氏 が数々のヒントやテクニックを披露します


Oscar Gregeborn
フリーランス コンセプトアーティスト|ノルウェー

はじめに

私の作品は「奇妙な色と型破りな風景の融合」と呼ばれることがあります。このチュートリアルでは、水中環境のペインティングを取り上げます。アイデアを生み出し、世界に生命を吹き込んで、素晴らしいイラストを完成させましょう。光・色・明度など、さまざまなテーマを取り上げ、デジタルアートの世界で私が培った数々のヒントやテクニックを披露します。

私もついこの間まで皆さんと同じように、ユニークで美しいデジタルアート作品を制作するため、チュートリアルを読み、関連書籍を購入し、名匠の技を勉強していました。ここでは、目的を達成するための考え方、そして、重要なペインティングプロセスを段階的に進めていく理由もご紹介したいと思います。

アーティストは学習を決して止めません。私は今でも、自分より優れたスキルを持つたくさんのアーティストの作品を敬意をもって鑑賞しています。そして、日々何か新しいものを見つけて、ペイントのたびに自分の限界を押し広げようと努力しています。これがアーティストとして成長する最も効果的な方法なので、ぜひチャレンジしてください。このチュートリアルが有意義なものとなり、新しいものを学べる機会となることを願っています。

01. ペインティングの開始

ペインティングではよく「空白のカンバスを見つめることほど怖いものはない」と言われますが、そのとおりだと思います。しかし幸運なことに、この恐怖を乗り越える術がいくつか存在します。たとえば私の場合、リファレンス画像を見てそこからインスピレーションを受け取ると、気持ちが落ち着きます。リラックスした状態でアイデアを生み出せば、ペインティングをずっと簡単に開始できるでしょう。

しかし、インスピレーションを探し求めるのは大変なので、私は普段から多角的にアプローチしています。たとえば、インターネットにはアート作品が溢れかえっていますが、一般のポートフォリオサイトでは得られないようなインスピレーションを発見できることがあります。お気に入りは、さまざまな刺激を得られるアート書籍で、2週間ごとに熱心に目を通しています。

まず、水中の生き物に関するリファレンス写真をいくつか収集し、その色に基づいて色のグラデーションを作成しましょう。これには、[グラデーションツール]と[スポイトツール]を使います。[スポイトツール]は、カンバス上のあらゆる色を選択できる便利なツールです。

図01:リファレンスを収集し、色のグラデーションを作ります

02. 慣れる

経験豊かなプロには無縁の話かもしれませんが、初心者にとって最も困難なハードルの1つは、デジタルメディアの扱いに慣れることです。ブラシ設定をいろいろ試して、面白いものや意外性に富んだものを見つけましょう(図02 は私のブラシ設定です)。Photoshop を使い込めば、便利なショートカットも発見できるでしょう。

私にとって欠かすことのできないショートカットは 2つあります。まず、[ブラシツール]を選択した状態で[Alt]キーを押すと、[スポイトツール]に切り替わります。これによって、たった1つのキーでカンバスの色を素早く選択し、その色でペイントできます。

もう1つは、[Alt]キーを押しながら右クリックして、ペンをタブレット上でドラッグする/スクリーン上でマウスを動かすと、ブラシサイズを変更できます(Window版)。これらのショートカットをマスターするには時間を要しますが、制作ワークフローは確実に高速化するでしょう。

図02:ブラシの設定をいろいろ試して、意外性のある面白いものを見つけましょう

03. 乱雑に塗る

初心者にペイントの始め方を尋ねられたとき、カンバスに絵の具をたくさん塗るように勧めています。ステップ01で述べたとおり、空白のカンバスが恐ろしく見えても、これを絵の具で塗りつぶせばその恐怖を和らげることができます。このとき、ふだん使わない奇妙な色やブラシを使ってみましょう。デジタルメディアはどんな形でも作成できるので、フォトバッシングやフィルターを試すのも良いでしょう。これは制作のウォームアップや、創造力を生み出す方法にもなります。

このプロジェクトでは 3つの風景を簡単に作成し、気に入らなかった 2つのバージョンは切り捨てました。作業に10分ほど掛けましたが、締め切りに追われてなければ、好きなだけ時間を掛けてかまいません。色やムードを試すことのできる良い機会なので、積極的に「乱雑」なペインティングを作成しましょう。

カンバスを塗りつぶすときは、好きなブラシを使ってかまいません。ただし、このプロジェクトでは雲ブラシ・水彩ブラシ・カリグラフィブラシが特に適しているので、そういったテクスチャを少し含むブラシの使用をお勧めします。

図03:乱雑にペイントして、バリエーションに富んだ風景をいくつか作成します

04. フォームを見つける

カンバスを乱雑に塗りつぶした後は、その中から形状を探ります。これは雲の中から特定の形状を見つけるプロセスに似ています。ここでは、山の尾根・尖塔・アーチなど、ファンタジーの風景を形成するための要素を探しましょう。通常、乱雑な絵の具
の塊の上からペイントしていきますが、やりやすければ線を描いてもかまいません。暗いトーンで構造的な形状をいくつかペイントして、これを最終的に中景とします。

このプロジェクトでは、パースグリッド(パース線)を使いません。グリッドがある方がやりやすいのであれば使ってください。初心者の中にはパースグリッドが制作や創造の妨げになるという人もいるので、このような種類のペインティングでは、パースを大まかに思い描くだけで十分かもしれません。パースグリッドが確実に役立つのは、インテリアや大きな外装のある建物などです。

図04:暗いトーンで中景の構造を大まかにペイントします

05. 明度の範囲

明度をチェックしていきます。ペインティングには、雪のような白から闇のような黒まで、すべての明度の範囲を含めるようにしましょう。大まかなルールとして、明度は後景の奥に遠ざかるにつれて薄くなっていきます。このイメージの前景は明るい明度と暗い明度の両方が必要ですが、スペクトルの暗い方が強い傾向にあります。後景は主にグレーのトーンです、中景はそれらが混ざり合った明度になります。

また、オブジェクトは後景へ遠ざかるにつれ明るくなっていきます。これは太陽光をペイントするとき特に顕著です。このシーンは水中ですが、明度の範囲は外のシーンと比較的似ています。明度を表現するのが難かしいなら、まずはグレースケールでペイントしてみましょう。

図05:イメージにさまざまな明るい明度と暗い明度を含めましょう

プロのヒント:明度の重要性

色は非常に重要ですが、そのベースとなる明度も同じぐらい重要です。ペインティングをグレースケールでざっと確認するため、[色相・彩度]調整レイヤーを作成し、[彩度]スライダを -100 に設定します。作業中に調整レイヤーのオン/オフを切り替えれば、明度が上手く描けているか簡単に確認できます。制作ではこのテクニックをこまめに使いましょう。