コンセプトアート『ジャングルのモンスター』のメイキング

モノクロ

次は、モノクロで陰影をつけていきます。彩色の前に明暗を決めておくと、コントラストの調整が効果的にできるだけでなく、フォームや光の基本的な作用をより単純化して考えられるという利点があります。新規レイヤーの上に[乗算]モードに設定したスケッチレイヤーを置き、下のレイヤーで陰影を描いていきます(図06)。

図06

まず、大きな領域に平坦な明暗をつけることから取りかかります。この段階では、明暗の基本的な配置ができればいいわけですから、大まかでかまいません(図07)。

図07

次に、この基本に、もう少しバリエーションを持たせます。明暗の境界はコントラストを強調し、重要なディテールもはっきりさせます。この段階では、まだ立体感を出す必要はありません。一番暗くする部分と一番明るくする部分を決めます。この2つが収まっている辺りが一番コントラストが明確になるので、必然的に、その辺りに視線が集まります(図08)。

図08

立体感の演出にも手をつけ、最終的なディテールも乗せていきます。この段階では、特にエッジを意識してください。ふわふわしたものはエッジもふんわりと、堅いものはエッジもくっきりさせます。この後ペイント作業に移るので、ラインはすべて消します。

明暗はとてもシンプルです。デザインの段階で、体毛は背景とのコントラストを考えて明るい色にすることに決めたので、明るい色が映えるよう枝葉の陰が背景になるような配置にしました。一番明るい部分と一番暗い部分は、視線を集中させるために意識的に頭部に集めています。

カラー

モノクロスケッチが仕上がったら、新しいレイヤーにコピーし、今回もまた[乗算]モードに設定します。それから下のレイヤーに基本色を乗せていきます。何でもそうですが、まず簡単なところから手をつけるのがいいでしょう。最初の段階では、基本色を3?4 色乗せるくらいにしておきます。既に配色が決まっているモンスターの基本色から乗せましょう。それから、背景に使う補色を決めます。ここでは、ソフトブラシを使い、カラーをミックスしていくと、最終ペインティングにまで残せるような面白い結果が期待できます。色ごとに別レイヤーを作っておくと、必要に応じた調整がしやすくなります(図09)。

図09

モノクロスケッチのレイヤーの不透明度は、少し低めに設定します(暗部が濃い場合は特に)。そのほうが下の色がよく見えます。明暗の関係性が見て取れれば、問題ありません。不透明度を落とすと、一番暗い部分と一番明るい部分の主張がほどよく緩和されるという副作用があります。必要であれば、描画の段階で調整すれば良いでしょう。

この時点で最終イメージに近いものになっています。重要な要素をすべて所定の位置におさめ、「あとはブラッシュアップするだけ」という状態です。最終ペインティングを始める前に、ここでよく吟味しておくのです。ペインティングの段階で、問題になる可能性のある領域や狙いどおりの効果が出ていない領域を見定め、今のうちに調整しておきます。同様に、特によくできている領域もチェックし、そこを台無しにしてしまわないよう気をつけましょう!

基本のカラーパレットが決まりました。モンスターの色相がソフトなので、補色効果を出すために背景は濃い緑にし、色彩に変化を出すためにシャドウの部分に青を入れました。シャドウの青と枝葉の濃緑が混ざると、明るい青緑になります。この色の組み合わせが気に入ったので、最終ペインティングまでこのままにしておこうと思います。

描画

さあ、いよいよお楽しみの時間です! レイヤーを統合し、色付きの明暗スケッチの上に詳細を描いていきます。細部にとらわれることなく、いつも全体を視野に入れて描き進めてください。ブラシは一番大きいサイズで、使いやすいものを数本使います。大きいブラシを使うと、嫌でも筆跡が大胆になるので、一筆一筆をよく意識するようになるからです(図10)。

図10

描画の各段階では、その前に手を加えた部分を利用しながら進めていきます。カラーピッカーを使って、既に色を乗せたセクションから色を抜き出し、その色を使って、イメージの精度を上げていくのです。新しい色を加えたい衝動に駆られるかもしれませんが、この段階では我慢してください。描き込みが甘かったり整理されていなかったりした領域を整えます。特に、エッジやテクスチャは意識して調整してください(図11)。

図11

常に全体を見ながら作業を進め、前景と背景とのバランスが壊れないよう気をつけましょう。

ここで、背景をどうしようか少し迷いました。枝葉が繁っている感じは出したいけれど、主役のモンスターがかすんでしまうようでは困ります。結局、抽象に近い感じにすることで解決しました。葉っぱや植物の大まかな形を描くにとどめ、ディテールは一切描き込んでいません。細かい部分はすべて省略し、背景にどのようなものがあるかだけはわかるようにすることが狙いです(図12)。

図12

さてこの辺りで、できたイメージを反転させたり、回転させたりしてみましょう。違った視点から眺められるので、修正が必要な領域が分かります。問題箇所はすべて調整します。引き続き、必要に応じてコントラストを上げたり、ディテールを描き込んだりして、微調整を加えていきます(図13)。

図13

描画が最終段階に入ったら、焦点となる領域と、その周辺の一番細かい詳細を壊さないようにしながら、残りのディテールを描きます。

仕上げ

さて、描画がおわりました。最終手順は仕上げです。ハイライトのある重要なディテールを拾い出し、明暗を強調してコントラストを際立たせ、サーフェスのテクスチャにも最終調整をかけていきます。この段階では画像調整ツールが強い味方になります。ただし、あまり細かいことに手をかけすぎないように十分注意してください。キャラクターデザインにしても、その表現にしても、ここまで手順を正しく踏み進んできたなら、意図的かつ前向きな決定を下してきたはずです。最終段階では大きな調整は必要ないはずです(図14)。

図14

全体評価とまとめ

作品の中に改善すべき点を見つけられるということは、作品を作ることが、スキルを伸ばす機会になっているということです。少し時間をとり、でき上がった作品を厳しい目で眺め、別のアプローチの方が良かったかもしれない箇所や勉強になった点などを探してみましょう。この見直し作業を行うのは、作品を仕上げてから少なくとも数日経ってからの方がいいでしょう。そのほうが客観的な視点で眺めることができます。今回のようなコンセプト画に関しては、特に、アイデアを膨らませていく発展段階に注目してください。最初のアイデアスケッチと完成イメージを比べてみるのです。「完成イメージには最初のコンセプトがきちんと生かされているか?」「デザインブリーフに従っているか?」「正しい手順を踏んでスムーズに進行できたか?」「気に入る作品ができたか?」

このジャングルモンスターには、ほぼ満足しています。インスピレーションの元になった最初の落書きを見直したとき、そこに完成イメージとのつながりがはっきりと見えると、気分が良いものです。このキャラクターデザインの核として決めた「可愛らしさと邪悪さの共存」というテーマが、モンスターの目に集約するという作戦でうまく表現されたと思います。デザイン自体は、もっと独自性の高いユニークなものにもすることもできたでしょう。しかし、馴染みのある動物(今回の場合はキツネザルやオマキザルのような霊長類)に似たところのあるクリーチャーにすると、見る人も受け入れやすいもなのです。完成作品は狙いどおりの仕上がりになりました。クリーチャーの身体の一部を枝葉や大枝の陰に隠すことで、ジャングルの中を密かに動き回って悪さをしている雰囲気が出ていて、よくできたと思っています。もう少し目立たせてもいいような要素もありますが(特にモンスターの手)、そうすると両目の強さが薄れてしまう恐れがあるので、全体的なバランスを考えると、これで良かったと思います。

モンスターのデザインは、何度やっても楽しいものです。今回紹介したテクニックをいろいろと試してみてください。皆さんが楽しんで取り組めて、将来役に立つものであることを願います。アイデアスケッチの段階で紹介した「オートマティックドローイング」は、これまでかっちりしたドローイングの訓練を積んできていると、最初はなかなか思い通りにいかないかもしれません。しかし、辛抱強くやってみる価値のあるアプローチです。これほどバラエティに富んだアイデアが次々に浮かんでくる可能性のある方法は、他にはまず存在しません。そして使わなかったアイデアは、将来のためにストックしておけば良いわけですから! 

今回紹介したプロセスが使えると思ったら、最初の落書きをもう一度眺めて、別のモンスターを作ってみてください!

完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Digital Painting Techniques 2 日本語版』にも収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。


編集:3dtotal.jp