色と光:映画的なアプローチ

Mohsen Hashemi氏 が「色」と「光」の使い方、映画的なアプローチを詳しく解説。作品に適用する方法を紹介します


Mohsen Hashemi
建築ビジュアライザー/イラストレーター|米国


はじめに

先のチュートリアル(色と光:インテリアデザインや建築ビジュアライゼーションにおけるセオリー)で、「色」「光」について多くを学びました。インテリアデザインや建築ビジュアライゼーションにおける大きな役割を踏まえ、今回は この2つが映画的なアプローチにどう影響するかを見ていきたいと思います。正直なところ、1アーティストとして、映画のような個人プロジェクトを作成するのを楽しんでいます。

「色」「光」は、映画制作者のツールキットとして欠かせない 2大要素です。「特定のムードや感情を表す」「シーンの設定、示したい情報・メッセージを観客に伝える」「キャラクターのストーリーを知り、理解する」ための手段になるでしょう。他にも、小道具、慣習、設定で使うなど、さまざまなテクニックに活用したり、シーンのバランスをとるために最適な光を選んだり、編集段階で最適なカラーグレーディングを選択したりできます。

監督が映画で特定の色を使用する方法と理由については、実に多くの例があります。映画『ヴィレッジ』(M・ナイト・シャマラン監督、2004年)では、黄色が「勇気」の象徴であるのに対し、赤は「恐怖とパニック」の象徴になっています。一方、映画『サブマリン』(リチャード・アイオアディ監督、2010年)の赤は「情熱」の象徴です。

まず、「色」「光」「フレーミングのルール」「色の心理学」とさまざまな特徴について定義し、次に3Dソフトでいくつかの作例を紹介します。

 

★M・ナイト・シャマラン監督作 『ヴィレッジ』(1分)
★リチャード・アイオアディ監督作 『サブマリン』予告編(2分7秒)

01 ルールに従う

最初のうちは「推測」するよりも「ルールに従う」方がはるかに重要です。ルールを変えることには大賛成ですが、まず その前にルールについて正しい視点を持つべきです。では、基本ルールの1つを取り上げ、ワークフローをより深く理解することができるか見てみましょう。

コントラストと色における明度のルール(異なる明度が奥行きを理解するのに役立つ)。

映画のワンシーンやゲームの宣伝イメージなどを見ると、これらの要素が見えてきます。図のロングショットを見ると、3つの主要な部分には「前景(Zone 1)」「中景(Zone 2)」「後景(Zone 3)」があり、それぞれに異なる特徴があります。

ここで重要なのは「コントラスト、色、かすみの量などの要素が、ゾーンごとにどのように変化するか」です。つまり、手前から奥に行くほど、コントラストが変化し、少なくなっていきます。

また、この過程で色の明度が白っぽくなり、かすみの量が増えているのがわかります(後景に近づくほど、より多く発生するようです)。そのため、3Dソフトによる CG映像制作でも、ペイントツールによるデジタル絵画でも、紙と鉛筆で描く場合でも、このルールは同じです。また、目が全体を見渡せるようなガイドラインが必要です。「三分割法」「黄金比」「三点透視」などさまざまな技法がありますが、ここでは「一点透視」を使いました。

色の心理学に基づき、色とその特徴について説明しましょう。

赤:愛、情熱、暴力、危険、怒り、力、欲望の象徴であり、エネルギーを連想させる
ピンク:無邪気さ、甘さ、女性らしさ、遊び心、共感、美しさの象徴であり、主に女性キャラクターを中心に使用される(状況によって男性にも使用)
オレンジ:温かさ、社交性、親しみ、幸福、エキゾチック、若さの象徴であり、時には南国や太陽光の役割を果たすこともある
黄:狂気、病気、不安、強迫観念、牧歌的、素朴さの象徴。一方で太陽の色であるため、喜びと幸福の象徴でもある
青:冷たさ、孤立、受動性、冷静さ、忠誠心、知恵、自信の象徴
紫:ファンタジー、幽玄、エロティシズム、幻想的、神秘的、不吉、そして、力と王族の象徴
白:光・善・純潔・清潔の象徴
黒:力、気品、格式、死、悪、神秘の象徴

すべては「色をどう選び、シナリオにどう合わせるか」にかかっています。私たちは、主に静止画で作業しているため、観客にストーリーを理解してもらうには、色を より慎重に、正確に選ぶ必要があります。

02 光

「光」はストーリーの一部であり、イメージのムードと雰囲気を強調するのに大いに役立ちます。ストーリーを組み込むため、特定のオブジェクトやキャラクターを強調したり、さまざまな種類のライトで特定のムードや雰囲気を表し、さまざまな効果を生み出したりすることができます。

キーライト: オブジェクトやシーンを確実に照らす主光源で、通常は正面から射します
バックライト: キーライトを使わずに光源を被写体の背後に配置すると、シルエットが照らされ、被写体が暗闇に包まれて劇的な効果を得られます
フィルライト: ショットの他の部分を適切に照らします。通常、これはソフトライトで行います
ソースライト:窓やランプなど、ショット内に見える照明

また、光の学術的な定義とは別に、光を使ってストーリーを伝えるライティング テクニックがあります。

1. 空気遠近法を取り入れたライティング

通常、このアプローチにはあらゆる要素がそろいます。ワイドショットでは、すべての明度、ガイドライン、深度などを確認できます(※色と光の種類によってストーリーがどのように変わるか示すため、どの作例も同じシーンで考察します。時間の節約も兼ねています)。

たとえば、真っ白な環境光は、「善」または「純粋な愛」の象徴のように見えます。幸せなカップルが金色の光を浴びている様子は、2人の未来を示しています。また、その光景を見ている中年男性も、亡くなった妻との過去を思い出し、楽しんでいます。彼は今も1人で同じ公園に来ています。

2. バック ライティング

「力」「ムード」「単純化」「感情」などの強烈な効果を示せるライティング手法です。感情自体も、さまざまな部分に分けることができます。

図では、バックライティングで父と子の愛が描かれています。「希望」「喜び」「幸福」の象徴でもあり、夕焼けの赤く暖かい光の影響を受けています。ストーリーを進めるのに、赤い光がどれほど強力であるか、想像できるでしょう。

3. フラット ライティング

ある種の「憂鬱」をもたらします。つまり、悲しく、陰気で、奇妙なムードです。簡単に言うと、それは「曇りの日」のようなものです。最も重要な特徴は、シーン内のオブジェクトに彩度がないことです。これは「悲しみ」の象徴にもなりますが、光のタッチを加えて他のムードを出し、多くのストーリーを伝えることができます。

図を見ると、ベンチの男の人生は終わりつつあるようです。追跡者の銃によって、人生最後の日没になることが示され、このひとときを男はできるだけ楽しもうとしています(タバコをふかし、夕日を見つめながら)。死にゆく男があまりにも落ち着いているため、紫色の光が、ストーリーをより神秘的にしています。もしかすると、すでに追跡者が来ることを予測していて、何か計画を立てているのかもしれません。

4. ナチュラル ライティング

名前からも想像できるように、映像に生命を吹き込むライティング手法です。通常、直射日光が当たっているため、いくつかの強いキーライトがあります。中間はほぼフラットなトーンになり、すべてが高彩度で普通に見えます。

図のように、黄と緑、および直接光の組み合わせは、生命力のある「快晴の日」を表します。歩く人、自転車に乗る人、子供と遊ぶ親子など、人々の幸せが生き生きとしたイメージで描かれています。直接光のため、色のほとんどが高彩度になります。

5. リヴェール ライティング

非常にミステリアスなスタイルです。その雰囲気から、たとえ希望はあっても何が起こるかわかりません。ときには、全貌を明らかにしないこともあります。

ご覧のとおり、さまざまな光の濃淡の組み合わせが、ストーリーに疑問を投げかけています。ロボットたちは橋の後ろに見える惑星から来たのでしょうか? いったい何が起こっているのでしょうか? 地球に定住する計画があるのでしょうか? 怖い存在でしょうか? これから戦争が始まるのでしょうか?

6. スポット ライティング

スポット ライトを使う目的は、オブジェクトや人間など特定の被写体をしっかりと見せることです。つまり、この方法では焦点を合わせ、何かに集中させることができます。

図には、ロマンチックなシーンで見られるものが、すべてあります:雨上がりのとても暖かい雰囲気、ロマンチックな2人の大学生、シーンにさらなる興奮と喜びをもたらす影とハイライト。ここでは、「信頼」「安全」の象徴として、黄橙色も見られます。

7. アンダー/アップサイド ライティング

暗い場所で「恐怖」「未知」の雰囲気を作り出します。たとえば、暗い場所で顔の下からスポットライトを当てると、恐ろしく照らされますが、この手法でも同じことが言えます。

8.『ブレードランナー 2049』のライティング

最後に、このワークフローがどのように機能するかを確認するために、インスピレーションとして映画のムードを作ってみます。図は、映画『ブレードランナー 2049』から奇妙な SFのムードを選び、同じようなライティングを再現してみました。

非常にドライなストーリーから離れ、少し遊び心を加えています。図を見ると、宇宙人でさえ、この惑星は居住に適した場所ではないと思っているのがわかります。彼らは人間との生活を経験した結果、地球環境が最悪であることに気づきました。それでもここで生きることに興味があるので、Mac を使い、人間についてもっと知ろうとしています。

 


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編集:3dtotal.jp