【特別寄稿】造形家/映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード18:ギレルモ・デル・トロ監督の夢 – 映画『狂気山脈』
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!

エピソード18:ギレルモ・デル・トロ監督の夢 - 映画『狂気山脈』
プロデューサーに ジェームズ・キャメロンを迎え入れ、主演を トム・クルーズ に打診して万全の体制でプレゼンに臨んだのでした。
ギレルモ・デル・トロ 監督が、日本でもずいぶんと話題になった映画『パシフィック・リム』をつくる前、彼が企画した『At the Mountains of Madness(狂気山脈)』という映画がありました。
H・P・ラブクラフトという有名なSFホラー作家が原作で、SFファンには伝説の映画『遊星からの物体X』も、この『At the Mountains of Madness』をもとにしています。そして、この映画は、デル・トロ監督の夢のプロジェクトでもありました。
この企画の前に、彼の趣味ではない映画『ホビット』の監督の仕事を受けたのも、大作映画で名を上げて、この『At the Mountain of Madness』を作るのに有利にしたいためだったのです。それほど、この映画に彼は情熱を持っていたのです。
そして3年、デル・トロ監督は『ホビット』に関わったけど、結局、映画の製作が始まらずに契約終了となってしまいました(※結局、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが監督)。『ホビット』は作れなかったけど、ようやく自由ができたので、デル・トロ監督のこの夢のプロジェクトが始まったのです。
大作映画の場合、企画をスタジオに売り込むのに「これはこういう映画なんだぞ」というのを見せるためのプレゼンテーションをします。私は Spectral Motion というFXスタジオで、そのプレゼン用のクリーチャーを作ることになりました。
この企画の難しいところは
-予算がかなりかかる超大作である事
-監督がR指定にこだわっている事
-女性キャラが一切でない事
などでありました。映画には、かなり不利な条件です。そこで、デル・トロ監督は、プロデューサーに ジェームズ・キャメロン を迎え入れ、主演を トム・クルーズ に打診して万全の体制でプレゼンに臨んだのでした。
私たちが作るのは全部で5体のクリーチャー。そのうちの2体を私は任されました。とにかく、全てオリジナルなクリーチャーで、技術的にも、とても難しくやりがいのあるものでした。「こんなの見たことないし、こんなのが映画に出てきたらさぞ面白いだろうなぁ」と思えるものですが、残念ながら詳細はお話できません。
余談ですが、トム・クルーズが一度プロジェクトを見にスタジオに来ましたが、なんと、彼は、スタジオにバイクで1人で現れました。ヘルメットをかぶってるから、移動中も彼だとは気付かれないからのようです。皆さんも LA に来る時は注意して、ライダーを見ていたら、もしかしたら、その中にトム・クルーズがいるかもしれませんよ。
さて、トム・クルーズ主演、ジェームズ・キャメロン プロデュース、ギレルモ・デル・トロ監督。そして、今まで見たことないようなビジュアルのコンセプトアートとクリーチャーの試作品。これらを並べてのプレゼンテーションがユニバーサルスタジオで行われました。
あとは、ただゴーサインを待つのみ。待つ間、仕事がそこではないので、私はちょうど話が来た『マン・オブ・スティール』の仕事を取ることになりました(※エピソード14:スーパーマンのパンツ 参照)。
そして2ヶ月。素人から見れば、ものすごいドリームプロジェクトであるにも関わらず、スタジオの判断は「No」。残念ながらこの企画は流れてしまいました。その後、FOX から「この映画を作りたい」と打診があったようですが、ユニバーサルは権利を手放さないそうです。いつか、日の目を見る日が来るといいのですが...。ちなみに、私たちが作ったクリーチャーは、ジェームズ・キャメロンも絶賛していたそうです。
さて、この企画は流れてしまいましたが、そのおかげで、デル・トロ監督は、この後に『パシフィック・リム』を作ることになったのであります。次週は、その『パシフィック・リム』の話にしようと思います。
★関連記事(COLLIDER / デル・トロ監督のインタビュー映像も)
Guillermo del Toro on 'At the Mountains of Madness' and a Hard Lesson Learned:http://collider.com/guillermo-del-toro-mountains-of-madness-artwork-video/
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