【特別寄稿】造形家/映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード18:ギレルモ・デル・トロ監督の夢 – 映画『狂気山脈』

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード18:ギレルモ・デル・トロ監督の夢 - 映画『狂気山脈』

プロデューサーに ジェームズ・キャメロンを迎え入れ、主演を トム・クルーズ に打診して万全の体制でプレゼンに臨んだのでした。

ギレルモ・デル・トロ 監督が、日本でもずいぶんと話題になった映画『パシフィック・リム』をつくる前、彼が企画した『At the Mountains of Madness(狂気山脈)』という映画がありました。

H・P・ラブクラフトという有名なSFホラー作家が原作で、SFファンには伝説の映画『遊星からの物体X』も、この『At the Mountains of Madness』をもとにしています。そして、この映画は、デル・トロ監督の夢のプロジェクトでもありました。

この企画の前に、彼の趣味ではない映画『ホビット』の監督の仕事を受けたのも、大作映画で名を上げて、この『At the Mountain of Madness』を作るのに有利にしたいためだったのです。それほど、この映画に彼は情熱を持っていたのです。

そして3年、デル・トロ監督は『ホビット』に関わったけど、結局、映画の製作が始まらずに契約終了となってしまいました(※結局、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが監督)。『ホビット』は作れなかったけど、ようやく自由ができたので、デル・トロ監督のこの夢のプロジェクトが始まったのです。

大作映画の場合、企画をスタジオに売り込むのに「これはこういう映画なんだぞ」というのを見せるためのプレゼンテーションをします。私は Spectral Motion というFXスタジオで、そのプレゼン用のクリーチャーを作ることになりました。

この企画の難しいところは
-予算がかなりかかる超大作である事
-監督がR指定にこだわっている事
-女性キャラが一切でない事

などでありました。映画には、かなり不利な条件です。そこで、デル・トロ監督は、プロデューサーに ジェームズ・キャメロン を迎え入れ、主演を トム・クルーズ に打診して万全の体制でプレゼンに臨んだのでした。

私たちが作るのは全部で5体のクリーチャー。そのうちの2体を私は任されました。とにかく、全てオリジナルなクリーチャーで、技術的にも、とても難しくやりがいのあるものでした。「こんなの見たことないし、こんなのが映画に出てきたらさぞ面白いだろうなぁ」と思えるものですが、残念ながら詳細はお話できません。

余談ですが、トム・クルーズが一度プロジェクトを見にスタジオに来ましたが、なんと、彼は、スタジオにバイクで1人で現れました。ヘルメットをかぶってるから、移動中も彼だとは気付かれないからのようです。皆さんも LA に来る時は注意して、ライダーを見ていたら、もしかしたら、その中にトム・クルーズがいるかもしれませんよ。

さて、トム・クルーズ主演、ジェームズ・キャメロン プロデュース、ギレルモ・デル・トロ監督。そして、今まで見たことないようなビジュアルのコンセプトアートとクリーチャーの試作品。これらを並べてのプレゼンテーションがユニバーサルスタジオで行われました。

あとは、ただゴーサインを待つのみ。待つ間、仕事がそこではないので、私はちょうど話が来た『マン・オブ・スティール』の仕事を取ることになりました(※エピソード14:スーパーマンのパンツ 参照)。

そして2ヶ月。素人から見れば、ものすごいドリームプロジェクトであるにも関わらず、スタジオの判断は「No」。残念ながらこの企画は流れてしまいました。その後、FOX から「この映画を作りたい」と打診があったようですが、ユニバーサルは権利を手放さないそうです。いつか、日の目を見る日が来るといいのですが...。ちなみに、私たちが作ったクリーチャーは、ジェームズ・キャメロンも絶賛していたそうです。

さて、この企画は流れてしまいましたが、そのおかげで、デル・トロ監督は、この後に『パシフィック・リム』を作ることになったのであります。次週は、その『パシフィック・リム』の話にしようと思います。


★関連記事(COLLIDER / デル・トロ監督のインタビュー映像も)
Guillermo del Toro on 'At the Mountains of Madness' and a Hard Lesson Learned:http://collider.com/guillermo-del-toro-mountains-of-madness-artwork-video/


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http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

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http://chokokuseminar.com/

映画『ゲヘナ 死の生ける場所 (Gehenna Where Death Lives)』予告編 (2分8秒/ 監督:片桐裕司 / 日本語字幕)