【特別寄稿】造形家/映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード22:第二次日本防衛戦 – パシフィック・リム
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード22:第二次日本防衛戦 - パシフィック・リム
どう考えてもこれは、ギレルモ・デル・トロ監督が...
>> エピソード20:男のロマン - パシフィック・リムの続き
こうして、映画『パシフィック・リム』の制作が本格的に始まるわけなんですが、最初は、私が仕事していた FXスタジオ Spectral Motion(スペクトラル・モーション)で、①イェーガー(ロボット)のマケット ②怪獣のマケット ③パイロットのコスチューム(※この場合のマケットは CGスキャン用の原型)の3つすべてを制作する予定だったのが、まず、③のコスチュームを違う工房がやることになり、②の怪獣はカナダで制作することに。
結局、Spectral Motion で作るのは、イェーガーだけになってしまいました(※よくある話である)。ただ、最初にプレゼンでイェーガーを造形した私に「どのイェーガーを作りたいか」を選択させてくれました。
その時点でイェーガーは6体決まっており、そのうちの2体というので、私が選んだのは当然、主役の「ジプシー・デンジャー」。そして、もう1体は、日本のイェーガーである「タシット・ローニン」です。最初のデザインはたった1枚のラフな絵。「プロダクションデザイン」といって、ロボットそのもののデザインの絵というよりは、そのシーン全体の絵で、そのたった1枚の絵を元に造形を始めたのです。
監督は「ロボットもあまりカチッとしたものでなく手作り感を出したい」というので、CG原型ではなく、粘土原型にこだわっていました。そして、粘土原型で完成したものをスキャンして CG に取り入れる予定でありました。しかし、主役機であるジプシー・デンジャーの造形中に、プロダクションの方でも同時に ZBrush(デジタル造形ツール)を使って、CGアーティストが同じイェーガーのデザインを進めていて、ちょいと、この不可思議な状況に疑問を持ちつつも、自分の原型を進めていきました。
ZBrush を使えば、ロボットのようにカチッとした左右対称(シンメトリ)の形なんかは完璧に作れるし、かなうわけないので、自分が作っている手作りロボットの必要性を全く感じないでいたのですが、「どう考えてもこれは、ギレルモ・デル・トロ監督が自分の家に欲しいだけだ!」 という結論に達して非常に納得いったのでした。そして、最終的に出来上がったものは、CG用にスキャンされたのですが、果たして、どこまで映画で使われたかは非常に疑問である。そして、出来上がったものは、思った通り監督のもとに行ったのでした。
主役機 ジプシー・デンジャーのマケット
ジプシー・デンジャー造形中の片桐氏
主役機であるジプシー・デンジャーの造形も無事に終わり、いよいよ、次は日本のイェーガー、タシット・ローニンの造形です。しかし、2日ほど進めたところで予算カットになり、この造形は作られなくなってしまいました。「きっと、監督が欲しいだけだという事がばれたにちがいない」 そんなわけで、タシット・ローニンの造形はここでストップ。 残念ながら、私は日本を守る事ができなかったのである。
日本のイェーガーであるタシット・ローニンの造形はここでストップ
せっかく、映画『DRAGONBALL EVOLUTION (ドラゴンボール・エボリューション)』での「非国民」の汚名(※エピソード2 参照)を返上する素晴らしい機会だったのに残念である。代わりに、他のアーティストが少し始めていたロシアのイェーガー「チェルノ・アルファ」を仕上げる事になり、私は「日本を守る」代わりに「アメリカとロシアを守る」という、さらなる非国民となってしまったのである。(おわり)
チェルノ・アルファを仕上げる片桐氏
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