【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード48:伝説のスタン・ウィンストン氏との思い出
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード48:伝説のスタン・ウィンストン氏との思い出
皆さんは スタン・ウィンストン という方をご存知でしょうか?
私が所属する Special Make up Effect(SFXメイクアップ)という業界では伝説の人です。(※スタン・ウィンストン氏は 2008年に永眠されました)
Special Make up Effect(SFXメイクアップ)業界、伝説の人、スタン・ウィンストン
彼が有名になったのは、映画『ターミネーター』(1984年/ 監督:ジェームズ・キャメロン)のロボットを、彼のスタジオ Stan Winston Studio(スタン・ウィンストン・スタジオ)で作ってからです。今でも、あのメタルのスケルトンのロボットの秀逸なデザインは傑作です。
映画『ターミネーター』のロボット
それを皮切りに、『エイリアン2』のエイリアン・クイーンを始めとする すべての作り物から『プレデター』(1987年)そして『ジュラシック・パーク』(1993年)の恐竜など、80年から90年代の大作映画の目立つクリーチャーは ほぼすべて、彼のスタジオから生み出されたと言っても過言じゃないくらいです。
エイリアン、プレデター、そして、ジュラシック・パークの恐竜など、スタン・ウィンストン・スタジオでは多数のクリーチャーを生み出しました
映画『ターミネーター2』(1991年)は、私も公開初日に見に行き、あまりの衝撃と面白さに、次の日もまた映画館に足を運び、結局、映画館で4回見るほど気に入った映画でした。
そして、この業界に入って間もない私が「スタン・ウィンストン・スタジオで実物大の恐竜を作っている」という話を聞き、めちゃめちゃ興奮したことを覚えています。当時、まだ就労ビザもなく、腕も全然なかった若造にとっては、もう雲の上の存在でした。
以前のエピソードで書きましたが、その後、スタン・ウィンストン・スタジオで仕事をするようになったのですが、スタンの生前ギリギリのプロジェクトとなった 映画『アバター』 の制作の開始直前にスタジオを辞めてしまったのが今でも心残りです。(※エピソード16:エイリアン vs プレデター vs アバター!? 参照)
2008年の話になりますが、スタンの葬儀並びにリセプションに参加しました。アメリカの葬儀は日本とだいぶ違って、故人との生前のエピソード、思い出話などを、ゲストがジョークを交えて語り、結構笑いも多いのです。全部が全部そうなのかはわかりませんが、少なくとも、私が今まで参加した葬儀には笑いがありました。
ゲストは、その当時カリフォルニア州知事であった アーノルド・シュワルツェネッガー氏や スティーヴン・スピルバーグ監督など超豪華な顔ぶれでした。
スピルバーグ監督の思い出話は、最初の『ジュラシック・パーク』の時の話でした。スタンは、実物大のティラノサウルスの造形の出来具合を確認しに来たスピルバーグ監督を目隠し、誘導して、ある所定の位置に立たせたそうです。そしてそこで「目隠しを外すと、ちょうど目の前に大口を開けた巨大なティラノサウルスがどどーんと立っている」という演出をしたそうです。スピルバーグ監督は感動で打ち震えたとのことでした。
スタンは、「人を楽しませてなんぼ」のエンターテイメントの世界を、人生で演じている様な人でした。その作風は「とにかく面白い物を作れ」という感じで、まじめな きちっとした作風が好きではありませんでした。彼の工房からは、デザインの面白さ、自然の柔らかさ、生き物の不完全さという事を学びました。葬儀で彼の息子が「Do what you love(心から好きなことをしなさい)」と育てられたと言っていましたが、その言葉が、まさに彼の生き様を象徴していました。本当に好きな事を一生懸命した結果が、あの数々の記憶に残るキャラクターです。今までいろいろな工房で仕事してきたけど、スタンの工房のディスプレーの部屋が、とにかく1番わくわくできる場所でした。スタンには「人を楽しませる事への誇り」をもらった気がします。その誇りを引き継いでいこうと思います。
さて、後半のリセプションは同窓会という感じで、久々に会う人たちがたくさんいて、皆で楽しいときを過ごしました。皆それぞれの人生があり、大変刺激をうけ、「自分ももっとがんばらねば」と改めて思いました。シュワ知事(当時)も葬儀で楽しいスピーチをしてくれ、リセプションにも参加して、気軽に皆と接していました。おもろい人でした。その日は、涙あり、笑いありの、いろんな思いを感じた1日でした。
次回 からしばらく、スタン・ウィンストン・スタジオ での思い出について書こうと思います。
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