【特別寄稿】造形家/映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード20:男のロマン – パシフィック・リム
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード20:男のロマン - パシフィック・リム
この時に私が作ったものが、世界で最初に生み出されたイェーガーとなったのです
映画『At the Mountains of Madness (狂気山脈)』(※ エピソード18:ギレルモ・デル・トロ監督の夢 - 映画『狂気山脈』参照)の結果を待っている最中、私は『マン・オブ・スティール』の仕事をしておりました(※ エピソード14:スーパーマンのパンツ 参照)。
しかし、この映画もデザインがなかなか決まらず、なかなか先に進めず、仕事もスローになってきた頃、『At the Mountains of Madness』の仕事をした FXスタジオ Spectral Motion(スペクトラル・モーション)のブライアンから連絡がありました。以下は、その会話です。
ブライアン:聞いてると思うけど『At the Mountains of Madness (狂気山脈)』がダメになったよ
片桐:うん。聞いたよ。残念だね。あんだけすごい企画なのに。
ブライアン:その代わり、ギレルモ(デル・トロ監督)の次の映画があって、戻ってきてほしいんだけど出来るかな?
片桐:う~ん... でもそれって今度はちゃんと始まるの?
ブライアン:『ホビット』もダメになって、『At the Mountains of Madness』もダメになって、監督も相当焦ってて、次こそは絶対に作れる映画にしてるみたいだよ。『パシフィック・リム』っていう映画なんだけど。
片桐:戻れないこともないけど... ところで、それってどんな映画なの?
ブライアン:でっかいロボットとでっかい怪獣が戦う映...
片桐:やるーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
それを聞いたら、男として断るやつはいないでしょう。もう即決です。というわけで、タイミングよく『マン・オブ・スティール』の仕事を抜けて、男のロマンの塊の映画『パシフィック・リム』の仕事をすることになったのです。
さて、仕事の内容はというと、前回の『At the Mountain of Madness (狂気山脈)』と同じく、映画が始まる前にするプレゼンテーション用に出すための造形。映画が作られるかどうかを決める重要なアートのひとつである。私が任されたのは巨大ロボットのマケット(デザイン検討用のミニチュア)大きさは普通に立ったら60cmくらい。そして、もう1人のアーティストが、それと戦う巨大怪獣のマケットを制作。この2つをあわせて、映画のワンシーンを立体で見せようというものです。この時に私が作ったものが、世界で最初に生み出されたイエーガーとなったのです。
この時に私が作ったものが、世界で最初に生み出されたイェーガーとなったのです
この時点では「とりあえず、ロボット作ったれ」という事で細かい設定も名前もありませんでした。デザイン画も大雑把だったので、自分でも、かなりデザイン要素を足しました。
2つをあわせて、映画のワンシーンを立体で見せようというものです
余談ですが、このイェーガーの造形をしている最中、デル・トロ監督は1日おきくらいに工房を訪ねてきていていました。その最中、近所で Monster Palooza(モンスターパルーザ)というモンスター好きにはたまらない、モンスターや造形物などのイベントがありました。様々なアーティストがブースを出して、自分の作品を飾って売っているのです。
その日、デル・トロ監督はニコニコしながら、手に大量の100ドル札を握りしめて(多分、何万ドル)「Hey I'm ready! (準備はできてるぜ!)」とうれしそうにやってきました。そこにいた皆はモンスターパルーザだって、すぐピンときたので大笑い。その札束を私たちの手に握らせ握手しながら「Hey how are you doing?(よう、どうだい?)」と、まるで、麻薬の取引現場のようなことをしておちゃらけていたりしました。その夜は、その金を持ち、モンスターパルーザで様々なモンスターアートを買い上げていったのです。監督の凄まじいオタクぶりが伺えるエピソードですね。なにより、特撮や怪獣に対する愛を持った、とてもありがたい監督です。
そんな感じでジオラマも無事に完成し、プレゼンテーションもすんなり通り、あっという間に本格的に映画『パシフィック・リム』の制作が始まったのです。(つづく)
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