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【特別寄稿】造形家/映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード17:はじめての特殊メイク2 -溶解人間-

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ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード17:はじめての特殊メイク2 -溶解人間-

最初はうまくいかないかもしれません。しかし、それでもいいのです。なぜ上手くいかなかったのか、考え、工夫し、行動すれば少しずつでも出来るようになっていくはずです

今回は高校生の頃の話、エピソード15:はじめての特殊メイク の続きです。

友人のライフキャスト(顔の型取り)はできた。次のプロセスは、この上に粘土でキャラクターの造形だ。ここで、マスクを作るプロセスを簡単に説明しよう。まずは、①ライフキャストの上に粘土でキャラクターを造形する。

※写真はすべてイメージ写真です。私の仕事ではありません

② 造形ができたら、その上から型を取る。

③ 型を外して粘土をとると、ライフキャストと型の間に粘土彫刻が入っていた空間ができる。

④ その空間の中にラテックスなどの素材を流し込んで固まらせば、ライフキャスト本人にぴったりのマスクができるという寸法である。

さて、人生はじめての特殊メイク。今回、私が選んだ題材は「溶解人間」というキャラクター。皮膚がドロドロに溶けた人間である。当時、特殊メイクのトップアーティストであった リック・ベイカー氏(Rick Baker)が、この映画のために作った造形の写真がライフキャストの取り方と同じ本にちっちゃく写っていたので、どうにか、それをもとに造形開始。

皮膚が解け、その下の筋肉がどうなっているかなんて、ましてや、さらに下の頭蓋骨の形なんて高校生の私には知るよしもなし。なんとか意気込みだけて造形は完成。しかし、造形力は、まるでうんこレベル。もし、この造形中に友人がのぞきにきたら、きっと、こう言ったであろう。

おーい。なーに粘土でうんこなんか作ってるん...
えっ? うそ! 人の顔!??

それほどひどい造形であった。何はともあれ、自分の中では造形終了。いよいよ、型取りである。もちろん、型取りも見た事なんかあるわけがない。ましてや、石膏なんか使った事もない。とにかく、やってみるしか知る方法はないのである。とりあえず、造形物を板の上に乗せ、石膏が流れてしまわないように周りに粘土で土手をつくる。そして、石膏を水に溶かし粘土の上に塗っていく。水の加減も、どれくらいの厚みで塗るかもさっぱりわからない。わけがわからずに石膏が固まるまであがく。表面はボコボコだ。なんとかカチカチに固まったので、型を外してみる事にした。自分のイメージでは、ふたを開けるように「パコっって」簡単に型が外れると思っていたが、現実はそう甘くはなかった。いくらがんばっても少しも動かない。仕方がないので、ライフキャストと型の間にドライバーを突っ込む。

ぐいぐい... パキッ! ああっ!
ぐ... ぐいぐい... パキッ! あああっっ!!
型が減っていく...

何度かの "ぐいぐいパキパキ" を経験し、型の4分の1を失った末に、ようやく型が外れる。素直に喜べない。そして次は、型の内側とライフキャストについた粘土をきれいにしたら、素材をその間に流し込むのである。使った素材はラテックス。液体のゴムみたいな素材だ。本には「フォームラテックス」と書いてあったのだが、その違いがわからずに安いラテックスを買ったわけだが、それが失敗のもとになったのである。型の中にラテックスを注ぎ込み、ライフキャストで塞いでガムテープで固定する。それを電熱器の前においてあっためる。

待つ事8時間ほど。いい加減固まっただろう。ゆっくりとあけてみる。ところが何と、型のすぐ内側は固まっているけど、中は全然ドロドロだ。ラテックスとはそういう素材だったのだ! しかし、生来、楽観主義の私。「溶解人間だからちょうどいいや!」と逆に得した気分になってしまった。おめでたい男である。

さて。どうにか顔の前面はできた。しかし、私が作りたかったのはマスクである。持っていた本には、顔前面のアプライエンスの作り方しかなかったので、あとは工夫でどうにかするしかない。そこで私は、まず、友人を呼び、彼に禿ヅラをかぶせ、それに顔前面の溶解人間のマスクを接着。しかし、ただの禿ヅラと前面のピースとの段差があまりにひどいので、なんと私は友人がかぶる禿ヅラの上に粘土を直接盛りつけ、その上にさらにラテックスを筆で塗ったのである。その間、友人はライフキャストをとったときよりも長い事そのままでいてもらった事になる。そして、垂れ下がった目玉として発泡スチロールの玉を接着して表現し、どうにかマスクは完成した。

次は、色塗りだ。人間の皮膚が解けたらどんな色になるか? そんな事考えもしなかった。

緑色

それが私の選んだ色だった。
筋肉が見えている部分は鮮やかな赤。
それ以外は緑を基調にした凄まじい色合い。

答えなんかありはしない。
そこには、塗る者と塗られる物が存在する。ただそれだけだ。

その時、人に「なぜそんな色で塗るのか?」と聞かれたら、きっと、こう答えたであろう。
「そこにマスクがあるからさ...」

なんやかんやでようやく完成。
色を塗ったら、緑のうんこかよというような出来である。

なぜ鳥の巣を頭につけたのかどうしても思い出せない。我ながらおぞましい出来である

思えば、私の今までの発想というのは「とりあえずやってみっか!」いつもそんな感じだったと思う。そして、失敗したら落ち込まずに「じゃあどうするか?」と考えてきた。大なり小なり、単純に、私の人生この繰り返しだとつくづく思います。

「やったことがないからできない」こういうセリフをよく聞きます。しかしやったことがないのならできないのは当たり前だし「だからこそ、できるようになるためにやるのである」と私は思います。この時のライフキャストからマスク作り、やり方を教えてくれる人はいませんでした。しかし、私の発想は「知らないからできない」ではありませんでした。「知らないからやってみよう!」というものでした。はっきり言って出来は最悪でした。失敗もいっぱいしました。しかし、出来なかったことを、考えて、工夫して、そして、少しずつでも出来るようになる。このプロセスが人間の成長のために非常に重要になってきます。 考える力。そして、生きる力に繋がっていきます。これを読んでいる皆さん。やりたいことがあれば是非ともチャレンジしてください。

最初はうまくいかないかもしれません。しかし、それでもいいのです。なぜ上手くいかなかったのか、考え、工夫し、行動すれば少しずつでも出来るようになっていくはずです。少しずつでも出来るようになっていくというプロセスが、あなたを強くし、自信を与えていくのです。私は今も、ただひたすらにそれを続けています。

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■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/


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