【インタビュー】カメラワークを楽しむ:プリビスアーティスト Jiamin Wu氏
「裏方として素晴らしい仕事をしているプリビス/ポストビス アーティストのことを、知ってもらえる機会が増えればいいなと思います」 プリビズアーティストの仕事を Jiamin Wu氏 が紹介します

Q. 自己紹介をお願いします
こんにちは。名前は Jiamin Wu で、友達からは Kino と呼ばれています。中国の寧波(ニンポー)出身です。フロリダ州サラソータにある リングリング・カレッジ・オブ・アート&デザイン(Ringling College of Art and Design)でコンピュータ アニメーションを専攻し、美術学士号を取得しました。現在は ロサンゼルスで、プリビス/ポストビスのアーティストとして活動しています。
「プリビス」は プリビジュアライゼーション の略で、カメラの動きやキャラクター/オブジェクト アニメーションのラフを制作する(振り付ける)仕事です。これは、撮影が始まる前に行われ、監督とそのチームがどのように撮影に臨むかを明確にするためのものです。私はこれまで、この仕事を本当に楽しんできました。
Q. これまで手掛けた作品の中で、特に苦労したこと、克服したこと、気に入っていることなどあれば、おしえてください
皆さんご存知のように、この数年は大変でした。私が手がけたプロジェクトやそのリリース日は、すべて新型コロナウィルス感染症のせいで遅れてしまい、非常に残念でした。映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』もその1つです(公開は延期され、2021年6月25日に米国で公開、8月6日に日本で公開)。
プリビスとポストビスの両面から取り組んできた私にとって、この作品はとてもエキサイティングなプロジェクトでした。何度か延期されましたが、最初に予告編が公開されたとき、私の手がけたショットがたくさん含まれていたのは明るい兆しでしたし、そのすべてがうまく再現されていたことに驚かされました。
通常、実際の最終映像は、プリビス アニメーションと若干異なるものになります。この作品のカーチェイスシーンは複雑でしたが、実際の撮影は、計画に近いものに仕上がっていました。私も同僚も、自分の仕事に誇りを持ち、監督や VFXスーパーバイザーから信頼されていると感じました。
・『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のプリビズリール
https://www.proof-inc.com/project/15898/fast-9
いつか、プリビスとファイナルムービーを並べ、私たちの仕事がどのように完成バージョンの基礎を築いたのかを示したいですね。そして、一日も早く、世界が新型コロナウィルス感染症を克服し、すべての映画人が安全な環境で制作できるようになることが、私の一番の願いです。
映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のスクリーンショット
Q. 制作ワークフローをおしえてください。アイデアはどこから得ましたか?
以下の映像はプリビズではなく、私の卒業制作「SUIT UP!」ですが、その制作にまつわる話を紹介します。これは、本当に面白くて笑えるストーリーで、「魔法少女アニメ」と「西洋のスーパーヒーロー」のポップカルチャーにインスパイアされた、こだわりのある作品です。この2つのスタイルに影響を受けて 私は育ったので、極端な女性的特徴と男性的特徴を一緒にしたら、とても面白くなりそうだと感じました。また、これら2つの世界が、他の文化からインスピレーションを受け始めているのを見ると、自分の作品にも関係してくることなので、わくわくします。
卒業制作「SUIT UP!」のポスター
Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあればおしえてください
できるだけポートフォリオを更新するように 私は努めていますが、前に述べたように、まだ制作スケジュールに遅れが出ています。また最近では、プリビスアーティストがポートフォリオに含めるため、作業ファイルを入手するのに時間がかかるようになりました(※会社の方針によって異なります)。そして、最終的にファイルを手に入れたとしても、それは数年前の作品なので、その後に成長した自分の現在地を表すものではないのです。
そのため、プリビスアーティストがポートフォリオを充実させたいなら、自分の興味に基づいて個人プロジェクトを作るのが近道でしょう。常に新しいソフトを習得しておくことも重要です。
業界全体がもっと発展し、裏方として素晴らしい仕事をしているプリビス/ポストビスアーティストのことを、知ってもらえる機会が増えればいいなと思います。
卒業制作「SUIT UP!」のスクリーンショット
Q. 芸術的な目標はありますか?
芸術としての映画が 私は大好きで、特にカメラワークを楽しんでいます。これからも、構図やライティング、動きなどを通してシネマトグラフィーを勉強していくつもりです。仮想世界は、現実世界に比べて制約がないため、カメラを探索するのがとても面白いです。
新しい技術やソフトは、アーティストのビジョンを上手く表現するのに役立つため、できるだけ触れていきたいと思っています。アートとテクノロジーの融合、そして、その先にあるものをぜひ見てみたいですね。
映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク9』のポスター
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください
ロジャー・ディーキンス は、シネマトグラフィーに関わる仕事をしている人なら誰でも知っているレジェンドです。彼は一貫して視覚的に素晴らしい作品を撮り続けており、非常に謙虚で、常に自身の経験を若い映像制作者に伝えています(※ロジャー・ディーキンス が撮影監督としてアカデミー賞を受賞した『1917 命をかけた伝令』のメイキング記事も合わせてご覧ください:【インスピレーション】アカデミー視覚効果賞を受賞したVFXスープが解説。映画『1917 命をかけた伝令』のVFX舞台裏)。
もう1人は、アジア人女性の撮影監督/映画監督 ジェン・ラヴェンナ・トラン を挙げたいと思います。彼女はゲーム業界出身で、素晴らしいコンセプトアートをたくさん手がけています。1つの場所にとどまらず、(素晴らしい仕事をしながら)別の新しい分野を開拓していくその姿に、とても刺激を受けています。彼女の作品は、息を呑むような感動を与えてくれます。将来、世界的な監督になるのは間違いないでしょう。
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