【インタビュー】現在は アメリカのスタジオ LAIKA で:コンセプトアーティスト 田村 鞠果 氏
現在 アメリカのスタジオ LAIKA で働きながら、フリーランスとしても活動中の コンセプトアーティスト 田村 鞠果 氏が、個人制作の短編CGアニメーション『Final Deathtination』、そして、制作の舞台裏について語ります
Q.自己紹介をお願いします
コンセプトアーティストの 田村鞠果です。アメリカのアニメーション業界で働くことを目標に高校からカナダの公立校に単身留学して英語と絵を勉強し、その後アメリカの Ringling College of Art & Design でアニメーションを学びました。今年卒業し、現在はスタジオ LAIKA でコンセプトアーティストとして働きながらフリーランスとしても活動しています。大学ではコンピューターアニメーション学科所属でしたので CG をメインに学んでいましたが、徐々に CG を作る前段階のコンセプトアートにも惹かれていき、今の仕事に至ります。
個人制作の短編CGアニメーション『Final Deathtination』の一場面
Q. 個人制作CGアニメーション「Final Deathtination」についておしえてください
Ringling 在学中に卒業制作として作った短編CGアニメーションです。1年半程かけてアイデア作りから絵コンテ、キャラクター/背景デザイン、CG、編集の全工程を1人で制作しました。プロの声優、作曲家、サウンドデザイナーの方々に依頼するための資金はクラウドファンディングで集めました。今でも、ご協力下さった方々に本当に感謝しています。
卒制を作るにあたり、一番の目標は「自分の伝えたいストーリーを形にする」ということでした。卒業後働き始めると、自分一人で好きなように CG短編を作るというチャンスはなかなか取れないので、この機会を大切にしたいと思っていました。お話のアイデアは全部で 8つ考えましたが、『Final Deathtination』が一番重いトピックを扱うアイデアでした。
自殺をテーマにするということの重みに、制作してよいものか悩みに悩みましたが、最終的に『Final Deathtination』を選んでよかったと思います。完成した作品を見た友達がエンディングを見て泣いてくれたり、オンラインでも作品のメッセージに対してポジティブなリアクションを頂けたりすると、頑張って作った甲斐があったなと感動します。
Q. 制作ワークフローと、使用しているソフト/ハードウェアについておしえてください
絵コンテとデザインを Photoshop で制作後、CG作業に取り掛かりました。使ったのは ZBrush、Maya、Nuke、Premiere Pro、Arnold です。
まずはキャラクターのモデリングとリギングです。主人公と死神どちらもシンプルでクリーンなシルエットを目指してデザインしたため、そのコンセプトアートを CG にするのは案外苦労しました。例えば、主人公は悲しげなシルエットにするためにしずく型の頭にしたかったため、極力あごから首のラインがなめらかに繋がって見えるようにしつつ、リップシンクのために必要最低限のあごの形は残しました。
死神は、リギングが一番のチャレンジでした。特に目はこだわって作った部分です。目玉とその周りの骨(アイソケット)は両方開いたり閉じたり、伸ばしたりできるようにすることで、より生き生きしたアニメーションができるようにしました。また、服のシミュレーションにかかる時間を短縮するために、フードや袖などは全部リグでコントロールできるようにしました。
キャラと背景が完成したら、レイアウトでカメラの動きを決め、その後いよいよアニメーションを開始しました。まずは 参考動画を撮るために自分でもそれぞれのキャラクターを演じてみましたが、死神のエネルギーがどうしても足りませんでした。また、主人公のラストシーンも感情表現が難しかったです。そこで映画やドラマの演技を研究しながら、キャラクターの性格に深みを出すということを心がけました。実は主人公の演技は、ドラマ『半沢直樹』の近藤さん(滝藤賢一さん)からヒントを得ているんです!
テクスチャとライティングでは、まず カラースクリプトを描いて完成イメージを決めた後、そこから Maya と Nuke を使って試行錯誤しました。限られた時間の中でたくさんのロケーションを見せるために、見えないところは手を抜いて効率良く進めることを意識しました。世界を回るシーンでは徐々に現実より派手な色使いにして緊張感の高まりを表現し、反対にアパートのシーンでは彩度をかなり抑えて主人公の気持ちを表しました。
『Final Deathtination』のショット制作工程 (レイアウトからコンポジットまで)
『Final Deathtination』のカラースクリプト
Q. どこからインスピレーションを得ていますか?
自分自身が経験してきたことや、その時に感じたことが一番のインスピレーションになっていると思います。オリジナルのストーリーを考える時や絵を描く時、家族や友達との思い出を振り返ってみることがよくあります。また、幸運なことに小さい頃から家族でよく旅行に出かけていたので、色々な国を見ることができました。その経験からか、色々な国の文化や衣装、建物などを調べるのが好きになりました。
コンセプトアーティストという職業に惹かれたのも、絵を描くというプロセスだけでなく、アイデアを考えたり調べたりする作業が好きだからというのが大いにあります。世界観をデザインするにおいて現実世界のリサーチは欠かせないので、世界の国々への興味はとても役立っています。
その他に、描く題材のために実際に行けそうな場所には行って、インスピレーションを得るのが好きです。例えばスチームパンクの世界をデザインしていた時に日本に帰国中だったため、川崎の工場夜景を見に行きました。資料写真を撮るためというよりは、その迫力や雰囲気を感じることや、面白いと思う要素を見つけることが目的でした。そんなプロセスも全部含めて、「絵を描くのは楽しいな」と改めて思います。
“When It Rains”: オリジナルストーリー「雨が降ったら」のコンセプトアート
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください
憧れのアーティストは トンコハウス の 堤大介 さんです。美しい作品はもちろんのこと、Pixar で働かれた後も独立し常に挑戦し続ける姿勢や、スケッチトラベルなどのチャリティー活動など、尊敬することばかりで本当に沢山のインスピレーションを頂いています。他にも、Robert Kondo、松本大洋さん、Sylvain Marc、Camilo Castro、Daniela Strijleva、など尊敬するアーティストの方は沢山います!
スチームパンク版 メリーポピンズ: 個人制作のコンセプトアート
Q. 芸術的な目標はありますか?
大学を卒業する時、友達と将来やってみたい夢のプロジェクトの話で盛り上がったりしていました。今はその友達もみんな別々の場所で働き始めましたが、私は「何か面白いプロジェクトをいつか本当に一緒にできたらな」と思っています。現在はコンセプトアーティストとしての仕事に集中していますが、そのような挑戦の幅を広げるために、学んだ CG の技術も忘れずにいたいです。仲間と自分が伝えたいストーリーをいつか発信できるように、今は色々な経験から学んで成長し続けたいなと思います。
スチームパンク版 メリーポピンズ: 個人制作のコンセプトアート
田村さん、お時間をいただきありがとうございました。(3dtotal.jp)
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