【インタビュー】デジタルヒューマンに情熱を:シニア 3Dアーティスト Johan Vikstrom氏

スウェーデンの シニア 3Dアーティスト Johan Vikstrom氏が、映画『ブレードランナー 2049』にインスパイアされ制作した デジタルヒューマンの制作ワークフローとその課題を共有。映画のライティングやムードの捉え方を概説します


Johan Vikstrom
3Dアーティスト|スウェーデン


Q.自己紹介をお願いします

Johan Vikstrom です。2人の可愛い娘の父親で、スウェーデンのストックホルムに住んでいます。現在は、主に CM・ショートフィルム・ミュージックビデオの VFXを手掛ける Swiss International で、シニア 3Dアーティストとして働いています。(*インタビュー収録時)

幼稚園から絵を描き始め、情熱を注ぎました。その後、90年代初頭に家庭用コンピュータが登場すると、その 2つのメディアを組み合わせるようになりました。90年代後半には 3Dに夢中になり、大学でコンピュータ グラフィックスを学びました。そして、2004年に Swiss International にジュニア 3Dジェネラリストとして就職しました。

FusionShakeNuke とコンポジット(合成)の仕事もたくさんしてきました。2011年には MPC『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』に参加し、3つのヒーローショットと 20以上の小ショットを担当しました。ここ 5~6年は、Swiss でライティング/ルックデヴ/コンポジットの仕事に特化しています。

「Voight-Kampff」 では、Voight-Kampff(フォークト=カンプフ検査)のライティングを再現しました。自由な発想でライティングを少し変え、人物があまり汗をかいてないように見せています

2度目の挑戦はスタジオ ポートレートでした

Q. 制作ワークフローをおしえてください。アイデアはどこから得ましたか?

「Digital Emily 2.2.049」では、2014年頃から仕事の合間を縫ってスキンシェーダを開発しました。それは数年間で、少しずつ見映え良くなっていきました。最も難しかったのは、リアルな肌のスペキュラ表現です。フォトリアルなアセットで実際に試したことはありませんでしたが、ルックデヴでフィルムフッテージからリアルなスキントーンや反射を模倣できると思いました。

空き時間に、職場にあるいくつかのスキャンアセットでシェーダを試してみたところ、非常にうまくいったので、最初のアセット(The Wikihuman Project の Emily)に戻ることにしました。私は、これまでに学んだ知識やシェーダを使い、どこまで彼女を作り込めるか試してみたかったのです。

ライティングは『ブレードランナー 2049』(2017年)の「ジョイ」の写真をリファレンスにしました。このショットでは、ライティングの調整にかなり時間をかけています。まず、アパート内のすべてのシーンを研究し、ライトと彼女の位置関係を把握しました。ある時点で、遠くの廊下に至るまですべてのライトを作成していました。しかし、そのいくつかはジョイにそれほど影響してないと気づいたため、最終ライティングで不要なライトを取り除き、レンダリング時間を大幅に短縮することができました。

最も難しかったのは、カメラのそばにあるライトを正しく調整することです。セットデータはないので、一致するまでライトを動かすしかありませんでした。彼女の目に映っているのも、このライトです。

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「Digital Emily 2.2.049」

Q. 制作で苦労したことはありますか? 新しい学びはありましたか?

ライティングやコンポジットに慣れていても、フォトリアルな人間の制作は大変です。そのため、このイメージは私にとって大きな挑戦となりました。まず、Mudbox でスキャンとディフューズ テクスチャのクリーンアップから始めました。スキンシェーダの調整には時間がかかりましたが(他のスキャンはシェーダにすぐに合わせることができたので、簡単な作業だと思っていました)、数日間の調整を重ね、彼女はどんどん良い感じになっていきました。

これまで Yeti はグルーミングのみで使用し、ガイド曲線を作ったことがなかったので、その点はとても勉強になりました。また、ヘアネットワークの作り方を学び直すため、YouTube でたくさんのチュートリアルを見て、Yetiネットワークを構築し、自然なヘアの作り方も理解しました。時間を節約するため、最終レンダリングで見えない側面と背面にはあまり手を入れていません。

さらに女性がどのように化粧をするのか、それが肌/まつげ/眉毛にどう影響するのかを学ぶのも、楽しい取り組みでした(ガールフレンドからもヒントをもらえたので、とても助かりました)。私のシェーダはすべて「通常」の肌に合わせて作られているので、メイクアップした肌に見えるように調整が必要でした。

Emily に行なったグルーミング

「Replicant」のライティング

「Voight-Kampff」のライティング

Q. 仕事や個人プロジェクトで他に使用しているソフトウェアはありますか?

3Dは主に MayaV-Ray、Mudbox、Yeti、コンポジットは Nuke です。私は仕事とプライベートの両方で同じソフトを使いますが、仕事のレンダリングでは、主に Redshift を使います。

毛のない状態のライティング ファーストパス(左)/最初のテストレンダリング(中央)/毛のある状態のファーストパス(右)

Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあればおしえてください

実は、何年も個人プロジェクトのポートフォリオに取り組んでいませんでした。20代の頃は、モンスターやスーパーヒーローをよく作っていたのですが、仕事の時間が長くなるにつれ、空いた時間に個人プロジェクトをやろうと思わなくなりました。しかし、「仕事で作ったアートだけでは創造性を満たせない」と感じていたので、数ヶ月前から、デジタルヒューマンへ情熱を傾け、挑戦することにしました。この分野は非常に面白いので、個人プロジェクトを再開する気になったのです。

Q. SNS を使っていますか? お気に入りのハッシュタグをチェックしていますか?

Instagram では、私と同じようにデジタルヒューマンへ興味を持つ、多くのデジタルアーティストをフォローし、ハッシュタグ #digitalhumans でみんなが何をしているかチェックしています。モデルやテクスチャのリアルな品質を、手作業で生み出している人には本当に驚かされます。そして、リアルタイムエンジンから生み出されるクオリティは、本当に素晴らしいです。

「Replicant」は、『ブレードランナー』(1982年)の有名なインタビューシーンを再現したものです。情報の少ない中でライティングを調整するのは容易ではありません

これまでのレンダリングよりもリファレンスに近づけるため、できるだけ正確な表現を心掛けています

Q. 芸術的な目標はありますか?

デジタルヒューマンの探求ですね。この分野はとても魅力的で、まだまだ学ぶべきことがたくさんあると感じています。

初めてデジタルヒューマンへ挑戦した作品

Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください

私の個人制作の多くは、1982年の映画『ブレードランナー』に影響を受けています。ジョーダン・クローネンウェス(撮影監督)と リドリー・スコット監督によるライティングは本当に格別です。この映画に夢中になったおかげで、暗闇や影の使い方に興味を持つようになりました。「It's not about what you light, but what you don't light (照らすものでなく、照らさないものを見極める)」は、私のお気に入りのモットーです。

Q. 近年の作品についてお聞かせください

私には、芸術的な挑戦への新しいアイデアがあります。そのため、今は新しいことに取り組めるように、いくつかのR&D(研究開発)を行なっています。技術的な困難を乗り越えて、このアイデアを映像化できると嬉しいですね。

 


編集部からのヒント:フォトリアルな CGキャラクターの制作テクニックを学習するには、書籍『3Dアーティストのための人体解剖学』『MAYA キャラクタークリエーション』をおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp