ブレードランナー風の 3Dライティングを再現:「Digital Emily 2.2.049」
スウェーデン の 3Dアーティスト Johan Vikstrom氏(Goodbye Kansas 所属)が、映画『ブレードランナー2049』からインスピレーションを得て、ポートレートのライティングを行います
はじめに
これから、映画『ブレードランナー2049』(2017年) のアパートのライティングを再現するのに使った方法を紹介します。いくつかはソフトウェア固有の内容ですが、別のソフトウェアでも実現可能です(ここでは Maya や V-Ray を使用)。
Digital Emily 2.2.049 完成イメージ
01 リファレンス画像
このプロジェクトでは、リファレンス画像を選ぶことから始めます。私が選んだものは、劇中にないカラーグレーディングが施されていましたが、なんとなく気に入ったので、リファレンスに使用しました。フレームをトリミングすると、よりポートレートらしくなりました。
トリミングしたリファレンス画像
02 ライティング リファレンス
まず、劇中のアパートのシーンをすべて見て、室内のどこにライトがあるかを把握します。実際のセットデータがないときに気をつけることは、撮影クルーがカメラアングルに合わせてライトを移動させている可能性です。
リファレンスフレーム(『ブレードランナー2049』より)
03 カメラ
『ブレードランナー2049』では Zeiss Master Prime レンズ が使われていますが、カメラには少し自由度を持たせました。私はオリジナルの『ブレードランナー』(1982年) で使われた Panavision C Series レンズ の方が好みなので、100mmレンズ、F値(F-number):2.8、絞りをアナモルフィックにしました。これは、『ブレードランナー』のクローズアップショットの典型的な設定です。Maya では vrayPhysicalCamera に円形の Aperture Map を接続し、[Bokeh anisotrophy]:-0.353 に設定して ボケをアナモルフィックにしています。
VrayPhysicalCamera の設定
04 アパートのシーンを構築
ライティング リファレンスを見ながら、彼女の後ろの壁・床・屋根を簡単に作ります。壁や屋根には、セットと同じ色になるようにグレーディングした HDR(球に投影されたもの)を使い、床には、映画のルックにグレーディングしたタイルテクスチャを使いました。また、床からのバウンス光を減らし、影を残すため[lambert]シェーダを適用しています。
今回は、部屋全体をモデリングする代わりに、壁や屋根と同じ HDR のドームライトを使って空いた空間を埋めています。部屋のライトがシーンの大半を占めるため、ドームライトの[intensity]は 0.1 と非常に低くしています。
Maya のシーン
05 シーンの組み立て
顔には、The Wikihuman Project で開発された Emily アセットを使います。また、レンダリング用のシェーダを自作し、ディスプレイスメントとテクスチャを修正して、スキャンの過程で発生するノイズやゴミを取り除いています。ヘアのグルームは Yeti で作りました。
身体に使ったのはフリーの低解像度スキャンですが、着ているシャツはピンボケしているので うまくマッチしました。たとえ顔だけのレンダリングでも、代用の身体を配置しておけば、その色を顔に反映させることができます。たとえば 白いシャツを着ていると、あごや目の下に明るい反射光が入り、ライティングによってルックも変わります。もし 暗めの服を着ているなら、逆の効果になるでしょう。
身体を加えた Emily
06 シーンライト
映画のリファレンスフレームにあるシーンライトをすべて配置したところ、そのいくつかは最終ライティングにほとんど影響しなかったので削除しました(キッチンや廊下のライト、キッチンの近くにある下向きのライト、女性を後ろから照らすライトなど)。これにより、レンダリング時間の大幅な短縮につながりました。HDR の間接照明でも、これらのライトの効果を十分補うことができます。
シーンライトの数を絞り、レンダリング時間を短縮しました
07 ショット専用のライト
このショットでは女性にハイライトを作るため、横に平面ライトを2つ配置し、これらの[intensity]と位置の調整に最も時間をかけました。最終的に[ランプ]を使い、ライトの 1つが そのエッジに向かって暗くなるように設定しました。これは、彼女の目に映るハイライトと一致しています。目を拡大してみると、1つのライトが減衰して消えていくのがわかります(※リファレンスの目をよく見ると、ライトの周りに大きなグローがあることに気づきましたが、これは合わせていません)。
ライティングシーンのレイアウト