【インスピレーション】デジタルヒューマン / 3Dポートレートの歴史(2003 – 19年)

セルビアの 3Dアーティスト Marko Ivanovic 氏 が「デジタルヒューマン / 3Dポートレートの歴史 (2003 - 19年)」について、独自の視点で掘り下げます


Marko Ivanovic
3Dアーティスト|セルビア


はじめに

デジタルアートの時代が到来。「ある執着」が現代のアーティストにとって大きな共通の課題になりました。それは「人間が神を演じる」という根源的欲求から、デジタル制作の能力を試すベンチマーク(指標)へと発展しました。そして、偉大なアーティストの心も楽しませました。その「ある執着」とは「人の造ったデジタルヒューマンの目に 生命の瞬間はとらえられるのか?」ということです。

以下に紹介するのは、CG の可能性を押し広げた先駆者たちと その作品です。彼らは、シンプルなジオメトリの時代から、ほぼ実物そっくりに見える人間を生み出すまでに その技術を進化させました。

2003-04年:「Sandra」「Monica Bellucci」

制作:Mihai Anghelescu
2000年代初頭。正直に言うと、私はまだ、3Dアートの存在に気づいていませんでした。当時8歳くらいだったので、視界に入るすぐ近くのもの以外に興味を持てなかったのです。こうした理由から、ここでは、3Dポートレートの進化について主観的な視点というより、CG の世界に受け入れてもらった駆け出し愛好家の視点から マイナーな研究を行います(※これを本記事の客観的な正確さに対する免責事項とさせてください)。

超大作CGアニメーション映画『ファイナルファンタジー (FINAL FANTASY:The Spirits Within)』(2001年)は、私が最初に体験したデジタルヒューマンの例であり、これから起こることを垣間見せてくれました。ただし、本記事では、先駆者として アーティスト個人に焦点を当てるため、映画は含めません。代わりに Mihai Anghelescu氏 が 2003年と2004年に公開した 2つのポートレートに焦点を当てましょう。非常に繊細なイメージです。

「Sandra (サンドラ)」(制作:Mihai Anghelescu)

「Monica Bellucci (モニカ・ベルッチ)」(制作:Mihai Anghelescu)

2008年:「Russell Crowe」

制作:Mihai Anghelescu
私の視点では、まだ 先史時代ですが、それでも価値ある作品があります。Mihai Anghelescu氏 は 2008年に「Russell Crowe (ラッセル・クロウ)」と共に帰ってきました。本作は「不気味の谷」の呪いを破るための本当に大きな1歩と言えるでしょう。この年から 2005年までさかのぼると、注目すべき もう1つの素晴らしい映像作品に『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』があります。しかし、ここでも「アーティスト個人に焦点を当て、映画は含めない」というルールに従い、Mihai氏 に関する内容に留めておきましょう。

「Russell Crowe (ラッセル・クロウ)」(制作:Mihai Anghelescu)

2009年:「Johnny Depp」「Ingrid Bergman」

制作:Jelmer Boskma / Max Wahyudi
「CG が何であるか」を知る前に、私の人生を永遠に変える作品に出会いました(未知の力の恩恵を感じています)。私が偉大なアーティストになることを志すようになって、はじめて目にした 3Dアートが Jelmer Boskma氏 の「Johnny Depp (ジョニー・デップ)」です。少し好奇心の強い子供の視点で見た このポートレートは、クラフト(工芸)への関心を高めるきっかけ(基礎)になりました。そういうわけで、私のインスピレーションの柱となった この作品を推薦します(Jelmer、あなたの作品が私の人生を変えてくれたことに感謝します)。

「Johnny Depp (ジョニー・デップ)」(制作:Jelmer Boskma)

そして もちろん、ある学生の並外れた卒業制作を称賛せずして、2009年について言及するのはフェアではありません。私の初期のもう1つのインスピレーション、それが Max Wahyudi氏 の「Ingrid Bergman (イングリッド・バーグマン)」と その関連作品です。

「Ingrid Bergman (イングリッド・バーグマン)」(制作:Max Wahyudi)

2010年:「The Portrait」

制作:Luc Begin
3Dリアリズムの新時代の始まりであり、活気に満ちた ここ10年の序章とも言える作品です。すべての毛穴・肌のしわ・しみ(色素沈着)・カスタマイズやペイントまで、信じられないほどのディテールを含む画期的な作品「The Portrait (ポートレート)」です。当時、同レベルのリアリズムを達成した作品はないと思います。Luc Begin氏 が、この傑出したイメージをどのように達成したかについての解説は、次世代のポートレートへの試みの大部分に影響を与えたと確信しています。

「The Portrait (ポートレート)」(制作:Luc Begin)

★Luc Begin氏による「ダニエル・クレイグのポートレート」のメイキング:The making of "A Portrait of Daniel Craig"(19分7秒/ 2013年)

2011年:「Old Man」、SSSテクニカルデモ

制作:Jin Hee Lee / Jorge Jimenez
しわのディテールと全体的なレンダリング品質に独自の方法で取り組み、価値ある貢献をした作品が Jin Hee Lee氏 の「Old Man (老人)」です。このポートレートの描写には、インパクトあるナラティブも含まれています。

「Old Man (老人)」(制作:Jin Hee Lee)

同時期にデジタルヒューマン レンダリングの重要な1歩となる開発が、人間の肌のリアルタイムレンダリングの領域で行われました。グラフィックス研究者の Jorge Jimenez氏 は、コンシューマレベルのグラフィックスでリアルな肌をレンダリングするために開発した「SSSシェーダ」のデモを公開し、新たな境地を切り開きました 。

★SSSシェーダのデモ:Separable Subsurface Scattering (Real Time/ 制作:Jorge Jimenez/ 3分51秒)

2012年:「abuelaco」

制作:Alex Huguet
2012年の注目すべき作品は、Alex Huguet氏 による年老いた患者のポートレート「abuelaco」です。本作では「肌のしわ」を取り入れ、SSSシェーダの開発も行われています。とりわけ、目が素晴らしい品質ですが、肌は少しざらついて見えることを認めなければなりません。とはいえ、当時の素晴らしいポートレートであることに変わりありません。

ちょうど良い機会なので、この時期に多くのポートレートが生まれたことに注目ください。本記事では、その ごく一部を取り上げていますが、多くのアーティストが最高のリアリズムを求め、独自の方法でこの分野の追求に貢献しました。

「abuelaco」(制作:Alex Huguet)