【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード74:アメリカ市民権と付属品
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード74:アメリカ市民権と付属品
最近は「日本は東村山在住疑惑」が濃厚な私ですが、実は、アメリカはロサンゼルス在住28年になります。アメリカには、日本より はるかに長く住んでいるわけですが、一応、国籍は日本であり、数年前までは、アメリカでは永住権(グリーンカード)を持って滞在しておりました。
永住権は永遠ではなく 10年ごとに更新があります。更新には別に審査があるわけではなく「そこそこな手数料を払って 指紋と写真を新たに撮り直す」という単に「アメリカ政府が莫大な数の移民からお金を集める」という仕組みのための更新です。
2年前、クラウドファンディング の Kickstarter で資金集めに成功した私の映画、『GEHENNA ゲヘナ - 死の生ける場所 -』で製作会社が必要になり、アメリカに自分の会社を作ることになりました。税金の関係で「永住権保持者よりもアメリカ市民になった方が有利」だと聞いていたので(※実際は関係なかったのですが)アメリカ生活26年目にして、ようやく アメリカ市民権を取得する決心をしました。
これだけ長くアメリカに住んでいながら、なぜ、ここまでアメリカの市民権を取得しなかったのには理由があります。それは、アメリカ市民になるともれなく付いてくるプレゼントがあり、それが とても嫌だったからなのです。それは何かというと.....。「陪審員制度」です。
ヘンリー・フォンダ主演の名作『十二人の怒れる男』(原題:12 Angry Men、1957年)は陪審員制度を題材にしています。自分が、もし、そこにいたら「こんな審査とっとと終わらせてしまえ! 俺は忙しいんだ!」という悪役になりそうです...
日本でも最近、陪審員制度が始まったようですが、訴訟大国アメリカでは、ものすごく頻繁に裁判があります。私の周りの人たちもほとんどが陪審員を経験しています。仕事を休んでまで参加しなくてはいけないので、国民の義務とはいえ、いろいろと面倒なのです。
実はそれまでも ちょくちょく「陪審員をやりに来なさい」という裁判所からの通知は来ていたのですが、その中の免除項目に「私はアメリカ市民じゃないよ~ん」という項目があるので、そこを「うりゃ!」ってチェックして、ずっと陪審員を免れていたのでした。ハッキリ言って、アメリカの市民権を取得したくなかった理由は、それだけなのでした。
しかし、もう そんなことも言ってられないので、長編映画初監督を機に「今後もハリウッドで映画を監督していくぞ~!」という決意の表れとして、意を決して、市民権を申請したのでした。
ネットでの申請から何ヶ月かして、アメリカ人になるためのテストがあります。それは、アメリカという国に関する簡単なテストです。大統領が誰だとか、政府の仕組みとか、南北戦争や独立戦争の歴史などです。私は、テスト前の週末1日だけで諸々暗記して、運転免許を取った 20数年ぶりにテストというものを経験したのでした。
そして、いざ当日。まずは、試験官より、英語の問題が出されます。アメリカで生活するために「ちゃんと英語を聞きとれて、書けるか」ということを見るためです。試験官から渡された英文が書かれた紙を声に出して読みます。私は、その文章に目をやると、アメリカ人としてアメリカで生活するのに必要な、とってもとっても重要な文章が書かれていました。
I will pay tax.
一瞬、唖然としましたが、どうやら、これを声に出して読まなければならないようです。アメリカ政府にとって、私たち国民の重要性は その1点にあるようです。
読みの試験は合格です! それから次に、英語の聞き取りと、その英文を書くテストがあります。これもまた、アメリカ人としてアメリカ生活で必要な英語を聞き取らなければならないようです。少し緊張しながら耳を傾けていると、試験官は言いました。
I must pay tax.
...わかったよ。オバマさん(当時)。私のアメリカ人としての価値はそれなんだよね! 心の中でツッコミつつも「I must pay tax.」と紙に書くと、書き取り試験は見事合格! 次の試験に続くのでした。やった~!!
次の試験は、試験官から直接質問されたことをその場で答えます。数日前に勉強した問題です。10問中 6問あっていればいいとのこと。質問が始まります。
アメリカ人の 3つの権利は何か?
アメリカの東海岸にある州の名前を 3つ答えよ。
大統領と副大統領は誰か?
アメリカの南に隣接する国は何か?
などなど、バカみたいな問題から、ちょっとだけ難しい問題まで立て続けに 6問正解すると、もうそこで「オッケー」と言われて合格となりました。せっかく勉強したのだから 10問全部出して欲しかったのですが、何か中途半端な気持ちで試験は終了。「おめでとう」と言われてアメリカ市民権が確定したのでした。そして、その試験の数ヶ月後に「セレモニー」というイベントがあります。それを済ませて、晴れて アメリカ国民となるのです。
セレモニーはダウンタウンの巨大なホールの中で行われます。その時の人数は 5000人くらい! そして何と、そのセレモニーは毎月開かれます。アメリカは、たったの1都市で毎月何千人がアメリカ人になるのです!!「なんという 移民に寛大な国なんだ」と本当に心から思った出来事でした。
数千人が100席くらい並んだ受付に列をなして、永住権の証であるグリーンカードを返還します。そして、整然と着席して、国歌演奏やお偉方たちのお話を聞き、2時間ほどのセレモニーを終えて、市民権の証明書をもらい、見事 アメリカ人となるのです。なんか知らんけど「アメリカってすげ~」って思いました。
今度は、大統領選挙経験と陪審員経験について書こうと思います。
・陪審員経験について:エピソード78:ついに、陪審員に!
★バックナンバーはこちらから
■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/
■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/