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【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード72:『エルム街の悪夢』の悪夢 – シロウトは印象で判断する

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ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード72:『エルム街の悪夢』の悪夢 - シロウトは印象で判断する

今回は、映画『エルム街の悪夢』(2010年)のお仕事の話です。言わずと知れた超有名ホラー映画 『エルム街の悪夢』(1984年) のリメイク版です。殺人鬼フレディのメイクの造形の仕上げを頼まれました。

 

映画『エルム街の悪夢』(原題:A Nightmare on Elm Street、2010年)

この仕事を取った特殊スタジオのオーナーには 思い入れがあったようで、そのオーナー本人がラフに造形し、それを仕上げる仕事を私が頼まれたのです。誰かの造形を仕上げるような仕事は滅多に頼まれることはないのですが、たまたま、手も空いていたので引き受けることにしました。

まず 行ってみると、そこにあったものは、新しいフレディのメイクの粘土造形。それを演じる役者の石膏のライフキャストの上に造形しています。私が持った第一印象は「丸っこいな」という事。

監督は、今やアイコンとなってしまった「オリジナルのフレディ」みたいにはしたくないようで、本当に火傷した状態のリアルなものにしたかったようです。大火傷をすると、目鼻立ちが崩れて、のっぺりしてしまったりするという事もありますからね。

 

オリジナル(1984年版)のメイクはこんな感じ。ちょっとスタイリッシュになって、本当の火傷には見えないですね。 まあ それが味でいいのだろうけど。

その現場で、大きな気づきを得るエピソードがありました。

特殊造形スタジオのオーナー、仮に彼の名前を「A氏」としましょう。私が呼ばれるなり、その A氏が言った事は「プロデューサーと監督が、ずっと、この造形をもっと細くしてくれって言ってきて、中に石膏のライフキャストが入っているから これ以上細くできないって言ってるのに、まだ要求してくる。しょうがないので、この造形物を抱えて、飛行機で、ロサンゼルスからプロダクションオフィスのあるシカゴまで行って、奴らの眼の前で彫刻を見せて、顔の横に針を刺して、これ以上細くできないという事を納得させてきたよ」ということでした。

私は、それを聞いて気づきました。問題点は、プロデューサーと監督が「細くしてくれ」と言った理由を A氏が考えなかった事なのです。つまり、おそらく、彼らは、私が持った第一印象と同じ印象を持ったのだと思います。それは「丸っこいな」という印象です。

当然、先方は「丸っこいから細くしてくれ」と言ってきます。しかし、現実問題として、粘土造形の中には、役者の石膏の型が入っているので、細く削るには限度があります。それで、A氏は「もう無理!」とキレてしまったわけですが、もし、プロデューサーと監督が「細くしてくれ」と言った理由を A氏 が理解できていれば、プロとして「細く見せる」というやり方はあったのです。

・頭頂部と顎を足して 少し縦長にする
・頬骨を少し出し、側面にできる影を強調する
・こめかみの角を狭めて 側面の影を強調する
・部分部分のパーツの影のつけ方で、細さを強調する

などなど、このように側面を削らずとも「細い印象」は作れるのです。プロデューサーや監督は、造形に関しては シロウトです。私たちにとって、クライアントは全て、基本シロウトなのです。

シロウトというのは印象で判断します。そして、その印象を素直に伝えてくれればいいのですが、今回の様に「もっと細くしてくれ」といった様な、具体的な指示をしてくる場合があります。そこで、私たちは、プロとして「なぜ、この様な指示をしたのか?」 その根本を考えなければいけません。その根本が理解できれば、指示どおりにする必要も、実は無くなってくるのです。要するに、彼らの欲しい印象を、自分のやり方で出せればいいのです。

これは、長年膨大な数のキャラクターを造ってきた経験から自信を持って言えます。これに関しては 以前にも説明しました(※エピソード62:『世界侵略: ロサンゼルス決戦』での悟り 参照)。そういえば、この仕事もほぼ同時期だったなぁ...。

しかしながら、今回の私の仕事は「もうオーケーの出てしまった造形の仕上げをする仕事」なので、上に書いた全てのことを飲み込んで、「丸いな〜」と思いながら、造形は変えずに、頼まれた仕事を黙々とこなしたのでした。それもプロなのです。

結果どうなったのでしょうか?? 残念ながら、テストメイクの後、造形はやり直しになったそうです。その頃には、私は他の仕事で忙しかったので、作り直しには関わっておりません。最終的に映画で使われたフレディのメイクは、私が携わったものではないことを、ここに正直に伝えます。まさに『エルム街の悪夢』の悪夢!
いや〜、映画って、本当に恐ろしいものなんですね。

 

★バックナンバーはこちらから

■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/

 


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