【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード84:『ゲヘナ~死の生ける場所~』への思い

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード84:『ゲヘナ~死の生ける場所~』への思い

「いつか ハリウッドで自分の映画を監督したい」

そのような夢を持って、ハリウッドでの Special Make up Effect(SFXメイクアップ)の仕事の傍ら、2003年あたりから、コツコツと準備をしてきました。ただ「監督になりたい」というだけでは、何も始まりません。長編映画を作るようなお金を持っているわけではないので、その時にできることといえば、「脚本を書くこと」「自力で短編を作ること」くらいでした。数年かけ、3本の短編を制作。そして、初監督長編映画である『ゲヘナ~死の生ける場所~』の脚本までは、トータルで 7年くらいかかったと思います。

 

 

いざ、脚本ができても、それをサポートしてくれる人はいません。長い間、たった1人で、孤独な戦いを続けておりました。何度も諦めかけたこともありました。そして、監督になる決心をして、実際に行動を起こしてから10年目のこと。1つの大きな転機が訪れました。

それは、Kickstarter(キックスターター)という クラウドファンディング を利用して、知り合いが、その自主製作映画のために 38万ドル(4000万円以上)の資金を集めたのを目の当たりにしたのです。その瞬間、私は「これだ!」と思いました。

それまでは「脚本とアートワークをプロデューサーなどに渡して返事を待つ」ということの繰り返しだったのですが「長編を作ったことのない私に任せよう」という「宝くじに当たる様なこと」はありませんでした。

「自分で資金を集められれば、自分で映画が作れる」 そう思った私は、早速 行動を開始しました。

知り合いの Doug Jonesダグ・ジョーンズ)氏 に連絡して、不気味な老人役として クラウドファンディング に協力して欲しい旨を伝え、彼に演じてもらう不気味な老人のメイクとパペットの制作を始めました。

 

★パペットのメイキング映像:Doug Jones puppet(2分8秒)

そして、クラウドファンディング用に撮影するビデオの準備とは別に「これは こんな映画になるぞ!」というハイクオリティのビデオの撮影もしました。

 

★「ゲヘナ」のオープニングシーケンス:Gehenna opening sequence(4分16秒)

当初 考えていたオープニングシーンです。「続きを見たかったら投資してね」という感じで、謎めいたラストにしました。

そして、クラウドファンディングの成功例を研究、どのようにプレゼンするかを勉強して、「やる」と決心してから、出すまでに 1年かかりました。

そして、いよいよ、発表したところ、開始した その日に 1万ドル以上(100万円)集まるなど好調なスタートを切ったのですが、何しろたった 1人で「問い合わせの返答」とか「定期的な宣伝」とかすべてのあらゆることをを行っていたので、膨大な量の反応に対応することができずに、失敗に終わってしまいました。

目標金額 25万ドル(3000万円くらい)に対して集まったお金は 5万3000ドル(600万円くらい)。Kickstarter は目標額に達しないと課金されない仕組みなので、このチャレンジは失敗となりました。その後、しばらく悶々としていましたが、このキャンペーン中に来た連絡の中から、いい感じのマーケティングの人と知り合うことができました。

たとえ失敗したとしても、行動を起こせば、そこから何かがつかめます。少なくとも、自分はそう信じて行動しています。そして、そのマーケティングの人とともに、6ヶ月後に再チャレンジをしたのです。

次に 失敗したら終わりです。この再チャレンジはとても勇気がいるものでした。背水の陣の覚悟で臨み、キャンペーン中は、考え得るあらゆることをしました。話題を作るために、数々の面白いビデオを制作したりもしました。

ホラー映画のための資金集めでしたが、作ったビデオの 9割はギャグ満載のコメディーです。私は、ホラーもコメディーも、お客さんを楽しませるということでは同じことと考えています。とても面白いので是非とも見てみてください。いくつかピックアップして、紹介したいと思います。

 

★すもうジョーンズ:Sumo Jones(53秒)

もしお金が集まらなかった時のために、監督は ダグ・ジョーンズ の代わりに、もっと安い すもうジョーンズをバックアップとして雇うことにしたのだが...

★侍:Samurai(1分22秒)

クラウドファンディングの成功のために 侍のような強さを見せる監督であるが...

★病気:Desease(39秒)

クラウドファンディングが大変すぎて、遊び呆けて、怪しい病気をもらってしまった監督の話

★私は出資者です:I'm backer(68秒)

「クラウドファンディングに投資するとこんなにお得!」と説明する中、監督の様子が何やらおかしい...

★最後:final(2分19秒)

クラウドファンディングが無事に成功した事実を知らなかった監督は、ある行動に出ることに

などなど、このようなエンタメビデオを作って、頑張って盛り上げていきました。そして、その甲斐もあってか、締め切りの5日ほど前に、どうにか目標を達成することができたのです。2回目は目標金額 22万ドルに対し、24万ドル(3000万円近く)集まりました。このような困難を越え、どうにか資金を集め、『ゲヘナ~死の生ける場所~』を制作することができたのです。


>>> 成功した クラウドファンディング Kickstarter のページ
https://www.kickstarter.com/projects/1327284950/gehenna-where-death-lives

 

完成後、数々のフェスティバルにノミネートされ、賞もいただくことができました

そして、今年の5月4日には「アメリカ10都市の映画館で上映される」という無名のインディー映画としては快挙を成し遂げることができました。そして、いよいよ、7月30日より、東京で公開されることとなりました。

この映画は、ただの映画ではなく、夢を実現させた 1人の男の軌跡でもあります。単に映画を楽しんでもらうだけでなく、その映画を公開するに至るまでの、1人の男の夢の結果として捉えてもらえると嬉しいです。

映画上映後に行うトークショーでは、私の知る「夢を持って生きている人たち」を厳選して集めました。我々、皆、まだまだ未熟ですが、今までの自分たちの生き方を振り返り、見に来てくれた人たちに、元気と希望を与えられたらと思っています。

是非とも、この夏、皆さんと渋谷ユーロライブでお会いできたらと思います! 知り合いの人たちにも知らせてもらえると嬉しいです!

 

▼詳細・申込は こちら >>> http://gehennafilm.jp/

次回から 6回にわたって、ダグ・ジョーンズ に代わり『ゲヘナ 2』で不気味な老人役を演じるために奮闘する すもうジョーンズ と ゲヘナ監督による、ショートコントシリーズ『頑張れ すもうジョーンズ』をお送りします。お楽しみに!!(※予定)

 

▼『ゲヘナ』メイキング&裏話(GEHENNA ~その軌跡)
https://3dtotal.jp/?s=GEHENNA+%EF%BD%9E%E3%81%9D%E3%81%AE%E8%BB%8C%E8%B7%A1

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