個性を失った 無言のオブジェ。「Birdhouse」のメイキング

仏の Sebastien Sonet 氏 が「Birdhouse (鳥カゴ)」のメイキングを紹介します


Sebastien Sonet
デジタルアーティスト|フランス

01 コンセプトと着想

この没個性的なキャラクターを頭で思い描いていたときには「いかにもホラーの博物館に並んでいそうなものを作ること」を意図していました。同時に「人間型のカゴの方が 中の鳥よりも生き生きとしている」という矛盾した形でメインテーマを強調するつもりでした。

こうした対立的な意味を好んで、私は作品に描いています。一見すると気味の悪い印象を受けますが、その印象はだんだんと薄れ、「何が描かれているのだろうか」と疑問に思う余地が生まれてきます。こうした疑問は作品制作に使われたテクニックや手法を越えたところにあります。

私は、形よりも内容を前面に置く方を好みます。この「Birdhouse (鳥カゴ)」に描かれているキャラクターは、もともと人間ですが、個性を完全に失っています。無言のオブジェ という地位に閉じこめられ、小鳥の守り役という不必要な仕事をこなすためだけに存在しています。このモデルは Clive Barker(クライヴ・バーカー)「Tortured Souls」が着想のヒントになっています。「Tortured Souls」には、10人ほどのキャラクターが登場し、みな極限の苦しい状況に置かれています。ただし私の作品には、クライヴ・バーカーのイラストやフィギュアのような血なまぐさい現実的な側面は入れたくはありませんでした。その代わり、肉体的な苦痛よりも 孤独感の方が 表に出ている作品を作りたかったのです。

02 モデリング

キャラクターのベースはこのうえなくシンプルで、ZBrushZSphere をいくつか使って構成しています。このテクニックは、最初のアイデアにできるだけ近い形状を素早く作り出すときに大変効果的です。このベースをさらに再分割し、意図したとおりの量感になるまでモデリングしました(図01)。

図01

図02

続いてこのモデルを元に、肌の色調を整え、引き伸ばし、押しつぶし、手荒に処理しながら、キャラクターに少しずつ「生命」を吹き込んでいきます(図02)。

図03

この作業には ZBrush のプロジェクションマスター を使いました。これにより、モデルの詳細部分まで処理することができます。私は、標準ブラシではなく、自作のアルファブラシを使ってディテールを描くことがよくあります。他の要素は 3ds Max に中解像度モデルを読み込んで、それを元にモデリングしました。鳥もやはり ZBrush で、とても基本的な形状から作り出しています。

03 テクスチャリング

スキンテクスチャは いつも手描きです。その方が より生命感と予想外の面白さが生まれるように感じています。何をするにせよ、何を試すにせよ、描いている間にはちょっとした出来事が起こる瞬間が必ずあります。何かの拍子に意識がそれ、それまでの作画のリズムが変わってしまうのです。こうした不完全さが連続すると、むしろ皮膚はより本物らしく自然になり、人工的な感じが薄れていきます。次に、不完全さという面をさらに強調するため、肌のむらと色相のバリエーションを加えます(図03)。

図04

バンプマップ(同じくらい重要な要素ですね)も、ZBrush を使って手書きで作成しています。「Bump」マテリアルを使うと、バンプの強度がリアルタイムでモデル上に表示されます。これは、2Dのツールでマップを手探りで描くような他の方法と比べると、ずっと調整がしやすく、大幅な時間の節約になります(図04)。

図05:バンプマップ

ノーマル(法線)マップは、ZMapper を使って高解像度モデル(200万ポリゴン前後)から生成しています(図05)。

図06:ノーマル(法線)マップ

これは、あとでレンダリングするときにモデルに適用します。スペキュラ(鏡面反射)マップもリアルなレンダリングには重要な要素であり、モデルの皮膚の特定の部分の光沢を調整できます(図06)。

図06:スペキュラ(鏡面反射)マップ

これはグレースケールのイメージで構成されており、黒が「乾いた部分」を、白が「湿った部分」を示しています。このマップが基本的にスキンサーフェス上のライトを受ける範囲を決定します。こうしたマップの存在と適切な設定は、完成作品の実在感とリアルさを左右する、不可欠なものです(図07-11)。

図07:テクスチャなしのレンダリング

図08:ディフューズのみのレンダリング

図09:ディフューズ、ノーマルマップを使ったレンダリング

図10:ディフューズ、ノーマルマップ、バンプを使ったレンダリング

図11:ディフューズ、ノーマルマップ、バンプ、スペキュラを使ったレンダリング

小鳥に関しては、マッピングした輪郭を基本形状の周囲にたくさん配置して、全体を羽で覆いました。そのあとで、こうしたさまざまな輪郭を位置に応じて曲げたり調整したりしました(胴体では小さく、尻尾では大きく、といった具合です)(図12)。

図12:小鳥も、キャラクターの装身具と同じく、同じFFDモディファイアで処理しています

04 ポーズ設定

構図を左右非対称にしてモデルの生命感を高めるため、頭部は少し傾けました。この作品はごくシンプルなポーズのため、時間を節約するために、モデルにスキンは被せませんでしたが、その代わりに FFD ボックスを使いました。この方法はメッシュを自在に調節することはできませんが、非常に手早く実行できるというメリットがあり、後からでも調整可能です。ポーズが失われたり再調整が必要になったりすることなく、あとでメッシュに変更を加えることができます。小鳥も、キャラクターの装身具と同じく、同じ FFD モディファイアで処理しています。

04 ライティング&レンダリング

モデルの見せ方もこのうえなくシンプルです。背景らしい背景がないため、最初に心に思い描いていたイメージをそのままに、このキャラクターの存在感をより強烈に表現できます。一方、ライトにはかなり慎重に手を加える必要がありました。ライティングは 3点照明で、右から当てるペールイエローの主光源、影を消すために左から当てる弱い光源青みがかったリアライト で構成しました(図13)。

図13

レンダリングもかなり基本的で、通常のパスオクルージョンのパス深度用のパスという 3つのパスをすべてかなりの高解像度でレンダリングしています。私は「中解像度」のモデルでノーマルマップを使うのが好きなので、レンダリング時間は非常に短くてすみました(約5000 × 4200 ピクセルのレンダリングで2時間弱)。こうした各種のパスを Photoshop を使って合成し、レンダリングの最後のアーティファクトを除去するため、完成作品のサイズを意図的に 15% 縮小しました。オクルージョンのパスはコンタクトシャドウをオブジェクトとオブジェクトの間に追加し、作品全体をまとめ上げています(図14)。最後の調整(基本的に色相に関する調整)で、作品中の重要な要素、特に鳥を目立たせました。

図14

おわりに

「Birdhouse (鳥カゴ)」は、モデリング と それが表現するコンセプトの両面で、最も満足できた作品の1つです。もちろん、技術的な弱点や、今ではやらないような構想段階での失敗もある程度含まれています。この作品に関しては、最初から自分がやりたいことについて明確な考えを持っていたので、制作は素早く進みました。完成まで 3、4日しかかかっていません。この作品は、Clive Barker(クライヴ・バーカー)「Tortured Souls」から着想を得た連作シリーズの一部です。このシリーズを作り始めたのは 2006年の初めでした。最終的な目標は、私のホラー博物館のガイドつきツアーのプログラムを作ることにあります。それに、このシリーズはまだ完成にはほど遠い状態です。

 

完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。

 


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編集:3dtotal.jp