巨匠クラースに捧ぐ。CG の静物画「Homage to Master Claesz」のメイキング

巨匠クラースに敬意を表し、ハンガリーの Kornel Ravadits 氏 が CG の静物画「Homage to Master Claesz」のメイキングを紹介します


Kornel Ravadits
アートディレクター|ハンガリー

はじめに

この作品「Homage to Master Claesz」(巨匠クラースに捧げるオマージュ)は、オランダの静物画家、ピーテル・クラース(1596/97-1660)に敬意を表すために作りました。私にとって、クラース はオランダ史上最高の静物画家です。私の目標は、彼のどの作品からも伝わってくる特別な雰囲気を、現代の技術を使って再現することでした。

彼の作品は、小さな場所にある単純な物によって静けさと美しさを表現しています。見る人はそうした小世界を通して、目の力を抜くと同時に、そこに描かれた形状、ライティング、ディテールに思いを巡らせることができるのです。この概念は、芸術家の世界では過去4世紀にわたって変わることなく、一貫して理想像と考えられているのではないでしょうか。

単純な尊敬の気持ちから描いている作品とはいえ、クラースの描いた 「既存の絵を単に3Dで再現する」 ようなことはしたくありませんでした。その代わり、クラースの作品を構成する要素をリファレンスとして使い、新しい構図で静物画を作ることを目指しました。クラースの作品に描かれているお馴染みのモチーフは、この作品の大きな課題となり、刺激になりました。

01 モデリング

モデリング段階では、レイズツールとポリゴンを少し使用してシンプルな形状を作成する方法と、有機的な形状を最初にローポリモデルとして制作してから再分割して ZBrush でさらに細部を作り込む方法の2つを併用しました。仕上げには BodyPaint を使い、残りのテクスチャをペイントしました。この最後の段階は、自然な形状を作るうえでは最も手間がかかりますが、避けては通れない作業です(図01)。

図01

02 丸みのあるオブジェクトとシンプルなポリゴンモデル

はじめに、カップのカーブを形成するため、ベジエ曲線を使ってオブジェクトの輪郭を描き(図02)、[レイズ]モディファイヤを適用してカップのボリュームを作成しました。次に、完璧な曲線のモデルにあるような人工的な外観にならないように、[ノイズ]モディファイヤでランダムな凹凸を追加しました。より難しいディテールについては、編集可能ポリゴンで作成してから再分割し、なだらかなサーフェスを作り出しています。最終段階はUVマップの作成でした。

図02

03 有機的なモデル

作業は次のような手順で進めました。レモンのモデルを作成するため、サーフェス全体が同じようなサイズの四角形になるように、ローポリゴンのオブジェクトを作りました(図03)。

図03

次に、テクスチャリングの準備として、このローポリゴンモデルをアンラップしました。このように単純な状態だと作業がずっと簡単なうえに、再分割した場合にもUV座標が維持されます(図04)。

図04

次の段階では、ディスプレイスメントマップを生成するため、ローポリゴンモデルの再分割と ZBrush でのディテールのスカルプトを行いました。全体の形状から出発して徐々に細かいディテールへと進めていくことが、実際的な手順です(図05)。

図05

また、テクスチャリングの作業をしやすくするため、「Cavity」(キャビティ)マップも生成しています。これは最も詳細なディテールに関する情報を含んでいるので、テクスチャをペイントする出発点として役立ちます(図06)。

図06

次に BodyPaint でテクスチャリングを行うため、中間レベルのモデルを書き出します。このモデル定義には最終的なディテールは含まれていませんが、結果的には BodyPaint での処理が手早くスムーズに行えます。

次のステップは BodyPaint での拡散マップ、バンプマップ、鏡面反射マップの適用(図07)で、その後レンダリングのテストを数回行います(実のところ、多くの場合、テストは何度も行うことになります)。このテスト段階では、満足できる結果を得るため、モデルとテクスチャにいくらでも調整を加えることができます(図08)。

図07

図08

04 テクスチャとシェーダー

この作品では、さまざまなオブジェクトに対して2種類のシェーダしか使いませんでした。どちらも基本的な V-Ray マテリアルシェーダです。より単純な方のシェーダはガラスや金属のオブジェクト用に作成したもので、反射と屈折、カラー、不透明度の設定を除けば、汚れのレイヤーを1枚追加しただけでした。また金属には、鏡面とバンプのプロパティを調整するため、別のグレースケールマップをもう1枚使っています。より有機的なサーフェスには、拡散、バンプ、不透明度、鏡面、反射、SSSマスクなどのマップを手書きで作成しました。さらにいくつかの部分では、通常のオクルージョンマップを使っています(図09-10)。

図09

図10

05 ライティング

この作品では、キーライト1本とフィルライト2本という、型どおりの 三点照明のセッティングを使用しました。2本のフィルライトは、遠くの環境から反射する光線をシミュレートするためのものです。

うち1本は下から、もう1本は横から当てています(たとえば、床と壁からの反射)。またオブジェクト同士の微妙な反射を表現するため、計算を有効にしています。これと合わせて、オブジェクトの反射には HDRIマップも使用しました。グローバルイルミネーションのおかげで、今ではまるで本物の写真のような、すばらしいライティング効果を得ることができます。しかし、よい結果を望むのであれば、写真家が実際のライトを設置するのと同じような位置に、3D空間でバーチャルライトを配置できなければなりません。私は、V-Ray のターゲット付きスポットライトをエリアシャドウ付きで使用しました。影の広がりをうまくコントロールすることができました
(図11)。

図11

06 レンダリングと合成

最も難しい処理は、いつでもレンダリングです。大きなテクスチャを含む、詳細なオブジェクトの高精細画像をレンダリングしようとすれば、現状のコンピュータは非常に処理時間が長くかかります。

これはレンダリングのテストの障害となります。レンダリング時間を許容できる範囲に抑えるため、シーン分割のテクニックとプロキシモデルを使用しました。シーンを 3つのセクションに分割し、後で3つのレンダリングを1つの完成作品に合成するのです。もちろん、このテクニックを使う場合は、分割したシーンのパーツごとにライティングと反射に矛盾が起こらないように特に注意を払う必要がありました。

 

完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。

 


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編集:3dtotal.jp