映画のようなワンシーン:『Hello, this is the Zodiac speaking』のメイキング

ブラジルの 3Dアーティスト Vinicius Paciello氏が、映画『ゾディアック』にインスパイアされたイメージ作品『Hello, this is the Zodiac speaking』のメイキングを紹介します(3ds Max、V-Ray、Photoshop 使用)


Vinicius Paciello
3Dジェネラリスト|ブラジル

はじめに

私は、ブラジル サンパウロ出身の 3Dアーティスト Vinicius Paciello です。この記事のねらいは、制作ワークフローの紹介です(3ds MaxV-RayPhotoshop 等使用)。映画『ゾディアック』(2007年、監督:デヴィッド・フィンチャー) にインスパイアされて 制作した 個人プロジェクト作品『Hello, this is the Zodiac speaking』のメイキングについて解説します。この記事が お役に立てば幸いです!

 

01. リファレンス

取り組む題材が決まったので、次はリファレンス収集です。本作において、1960年代の雰囲気を出すために リファレンスは非常に重要であり、その収集は大変でした。最終的に、当時の雰囲気を出すのに十分な画像を準備できましたが、そこから 膨大なリサーチが必要でした。

1960年代のプロップや、事件に関するリファレンスを集めました

シーン全体を大まかに作成したら、構図でのライティングと霧を設定、モデルの代わりに仮配置したボックスを、ディテールと陰影のあるモデルに置き換えていきます。

 

シーン全体を大まかに作成する(ブロッキング)

最終イメージ構築のため、メッシュにディテールを加え、アセットを合成します

02. モデリング、テクスチャリング、合成

全体のモデリングは 難しくありませんでした。大規模なプロジェクトのワークフローでは、できるだけ軽さを保つことが大事です。そこで インスタンスを使用しました。ポリカウントの高い静的オブジェクトはすべて、ファイルサイズを小さく保つためにプロキシに変換しています。

一例を挙げると「木」の管理です。私は、3ds Max 用プラグイン GrowFX で作成しました。小さな木は単一メッシュ、後景の巨大な木は、1つの大きな樹幹に 手動で2種類の枝(インスタンス)を配置(スキャッタ)しています。これは、シーンを生い茂る木々で満たすのに良い方法です。もし、木を動かしたい場合は、それらの枝をアニメートさせ、vrayproxy にエクスポートします。

幹に沿って、枝を配置します(スキャッタ)

モデリングには 約40日を費やしました。最も難しかったのは「車」です。内装のモデリングは簡単ではありませんでしたが、古い車の外観モデリングは楽しめました。リファレンスが少なかったため、エンバイロメント(環境)全体よりも 時間がかかりました。

内装のモデリングは簡単ではありませんでしたが、古い車の外観モデリングは楽しめました

アセットは 別ファイルでモデリングやシェーディングをしています。私は、自動保存による作業の中断や 大きなファイルサイズでの作業が好きではありません。なので、それらのファイルをシーンファイルに[合成]します。シーンのアセットを簡単に管理できるように、常に適切なレイヤー構造に整理しておきましょう。

舗装(街灯、電柱、郵便ポスト。シーン全体にインスタンス化)

常に適切なレイヤー構造に整理しておきましょう

下図のシェーダは、車の横にある白いレンガ壁のものです。テクスチャを追加して、マテリアルを汚しレイヤーにブレンドしただけの シンプルなシェーディングです。このアプローチは、シーンのすべてのシェーダに使用した基本的なアプローチで、レンダリングも高速です。現時点では、マップを単一の[VrayMtl]に適用するよりも、現実味を生み出せる最良の方法だと言えるでしょう。テストした限りでは、あまりレンダリング時間もかかりませんでした。

[BlendMtl]を[VrayBumpMtl]に接続して、シェーダ全体のバンプをコントロールする場合もあります。この特定のシェーダに[VrayMultiSub]テクスチャを 合成ノード内の[乗算]と[オーバーレイ]モードで適用して、レンガにバリエーションを追加。さらにランダム化するために[要素別マテリアル]モディファイヤで ランダムID をメッシュ内の個々の要素(レンガ)に適用しました。もちろん、手作業でテクスチャを描いているアセットもありますが、シーンの 80%以上は この方法でシェーディングしています。

クリーンなレンガ壁のマテリアル(コート1:全体的な汚れ/ コート2:下部の汚れ/ マスク:[vrayDirt]

レンダリング前のシーン全体

03. ライティング、レンダリング、ポストプロダクション

ライティングは、あまり手を加えなかったパートです。シーンには 実在のライト数個しかありません。私は ライトの[強度]のみを調整しました(弱い夜空の光、街灯、部屋の明かり、車体のライトとヘッドライト)。[VRayEnvironmentFog]によって、構図に、希望どおりの深み、抑制、そして、コントラストが加わりました。基本的に、これらのライトは[plane]または[disc]モードの[vrayLights]で、方向オプションをカスタマイズしています。

とてもシンプルなライティング

レンダリングはワンクリックプロセスで、「Brute Force + Light Cache GI」設定を選択します。これは、ほぼ完全な Brute Force(ブルートフォース)ですが、私のコンピュータ(i7-3770)で 8K をレンダリングするのは簡単ではありません。そこで AAサブディビジョン(Subdivs)の最大を 16に制限しました。さもないと、バンプが重くなり、アスファルトの膨大なアーティファクトを 手作業で取り除くことになるでしょう。

もし 時間があれば、納得のいく完全な品質で再レンダリングするかもしれません。今回は、ポストプロダクションで、アスファルトのアーティファクトをレタッチして、色調補正を施しました。ここでの主な目標は、できるだけ シーンの彩度を下げて、(彩度の高い)車を目立たせることで。

アスファルトのレタッチや色調補正をする前のレンダリングイメージ

 

完成イメージ

 

★メイキングムービー:Hello, This is The Zodiac Speaking - Breakdown(2分10秒)

 


翻訳:STUDIO LIZZ (TK)
編集:3dtotal.jp