3DCG で作成した 幻想的な風景「Heritage」のメイキング
チェコの アーティスト Marek Denko 氏 が、3DCG で作成した 幻想的な風景「HERITAGE (遺産)」のメイキングを紹介します
はじめに
最初にあったのは、1つのアイデアです。それは映画『ストーカー』を見ているときに頭に浮かびました。『ストーカー』は、1979 年に公開された アンドレイ・タルコフスキー 監督による作品で、私は大いに気に入りました。とはいえ、かなり難解な部類の映画です。映画に登場する環境は、とにかく素晴らしいの一言に尽きます。映画の終わりには、原子力発電所を背景に家族全員が湖畔を歩いていく、印象的なシーンがあります。霧が薄く立ちこめ、岸辺には汚れた根雪が積もっているという風景で、ちょうどかつての東欧やロシアのように、全体が灰色がかって気の滅入る雰囲気です。
私がこの「Heritage (遺産)」という作品を作るときに、最初のヒント、モチーフとして使ったのはその場面でした。結果的に私の作品は映画『ストーカー』で描かれていた風景とはかけ離れた仕上がりになりましたが、制作中ずっと心の中にこの映画がありました。この作品には、もう1つの重要な要素として、送電線の鉄塔が含まれています。日没の時間にはとてもロマンティックに見えますし、私はこうした構造物がとても好きなのです。こうした理由から、『ストーカー』に出てきた原子力発電所、そして送電線の鉄塔が発想のベースになっています。
時折、旅行による中断はありましたが、仕事の合間におおよそ2カ月ほどで制作しました。夏の暑い夜、イタリアで仕事をしている時に少しずつ仕上げたイメージのすべての部分を、楽しんで描きました。ここからは「Heritage」の制作過程を説明していきましょう。リファレンスの収集から、モデリング、テクスチャリング、シェーディング、ライティング、レンダリング、最後のポストプロダクションまでを、順を追ってお話しします。
01 リファレンス
私にとってリファレンスは、イメージを創造する際に、最も重要なことの1つです。いつもインターネットや自分で収集した写真ライブラリの中から、何時間かかけて最高のリファレンスを探します。必要とあらば、外出して新しく写真を撮影することも少なくありません。この段階の作業を軽く見てはいけません。リファレンスからは、直接見なければなかなか表現できないような、面白い要素やディテールがたくさん見つかります。これはモデリングやテクスチャリング、シェーディングでとても役立ちます。
リファレンス
02 モデリング
モデリングは実にリラックスして取り組める作業です。このモデルには、かつてないほど多くのディテールを加え、それを楽しみながら行いました。「ここまでディテールをモデリングする必要はない」という意見には全面的に同意します。
確かにそうなのですが、個人制作の作品では締め切りのプレッシャーがないので、時間を気にせずディテールに凝ることができるのです。ジオメトリはすべて、3ds Max で編集可能ポリゴンとしてモデリングしました。ほとんどの場合、平面、ボックス、円柱、球、ラインなどの基本図形をベースとして使い、少し変形を加えてから、編集可能ポリゴンに変換します。それから3Dソフトウェア(この場合、3ds Max)で使用できる、押し出し、ベベル、面取り、カッターなどのさまざまなモデリングツールを利用します。私はたいてい、ジオメトリを変形したり変更したりするために数種類のモディファイヤを使います。よく使用するモディファイヤは、シンメトリ、ベンド、ツイスト、テーパ、FFD(フリーフォーム変形)、ノイズ、ディスプレイス、ターボスムーズ、波、リプル、パス変形などです。
3D処理の中でも簡単な方です。基本的に、接続、スライス、連結、カット、押し出し、面取りといった機能を使って編集可能ポリゴンを操作しています。こうした機能についても、ユーザマニュアルにすべて説明が書かれているはずです。作業が早くて精度の高いモデラーを目指すなら、自分が使うツールについてできるだけ詳しい知識を身につける必要があるので、時間をかけて勉強し、実際に操作してみましょう。自力で解決する努力を忘れてはいけません。自分の経験を通じて得た知識に勝るものはないからです。
03 UVマッピング、テクスチャリング、シェーディング
CG制作で、私にとって退屈な作業が何かと聞かれれば、それは間違いなくUVマップの作成です。この用途では、ほぼすべての場所で基本的な平面、ボックス、円柱マッピングを使いました。私はいつも、本当に必要な場所だけをアンラップしています。この作品の場合、前景にある送電塔のコンクリートの部分だけです。
これは主に、この部分が V-Ray のディスプレイスメントモディファイヤでディスプレイスされており、連続的なディスプレイスメントを得るためには、切れ目のない UV を形成する要があるからです。V-Ray を使用すればすばらしい仕上がりになるディスプレイスメントはたくさんありますが、使う場所については、慎重に決めました。この処理はメモリを大量に消費し、レンダリング時間も長くなりますが、最終的にはずっときれいな仕上がりになります。
テクスチャリング時には、私個人のライブラリの中から選んだテクスチャ、自分で撮影した写真、それに environment-textures.comで入手したテクスチャを使いました。
すべてのジオメトリで V-Ray のマテリアルを基本シェーダとして使いました。低強度の反射、フレネル反射、光沢反射を頻繁に使用します。一般的に、レイトレース反射もレンダリング時間が長くなりますが、より自然で本物らしいイメージを作成できます。発電所の煙には、あらかじめレンダリングしておいたイメージを使っています。これは ParticleFlow や After Burn で作成してから、平面に投影しています。
04 ライティング&レンダリング
ライティングでは、スカイライトに V-Rayドームライトを使用し、太陽光に指向性ライトを1つ使いましたが、今回はグローバルイルミネーションは使用していません。コントラストの高いイメージを目指していたので、ライトのバウンスはそれほど必要としなかったのです。このイメージを Mitchell-Netravali アンチエイリアスフィルタをかけ、幅2000ピクセルの解像度でレンダリングして、ややシャープに仕上げました。このレンダリング作業もかなりの悪夢で、ノートパソコンで60時間ほどかかりました。
もちろん、レンダリング時間を最適化するための方法はたくさんあります。このイメージの半分以上をマットペインティングにすることもできました。それでも、作品の制作と3D での仕上げには時間を賢く使ったと思っています。コンピュータグラフィックスは私の仕事ですが、同時に私が情熱を傾けている対象でもあります。自分の作品では、さまざまな方法でディテールを追求してみたいのです。
05 ポストプロダクション
ポストプロダクションの処理では、Fusion を使いました。これはすばらしい合成ソフトウェアで、図のように、ワークフローは簡潔です。図は使用したパスです。ハイライトの領域と霧の領域をマスキングするため、長方形のマスクを2つ用意しました。霧のパスでも水面に反射があることに注意してください。このパスでは、すべてのオブジェクトには黒のマテリアルを使い、水だけは例外としてレンダリングパスと同じマテリアルを使いました。また、色彩については、グリーン/イエローを使うことにしました。この色合いは通常、病んだ感じや憂鬱な感じを表現します。ちょうどこの場面のように。
ワークフロー
おわりに
ここまでの説明で、私の使うテクニックや仕事の進め方をいくらかお分かりいただけたと思います。この方法が唯一のやり方だと言うつもりはありません。ましてや正しい方法だというわけでもありません。私がここでご紹介した手法を、私からのみなさんへの贈り物、つまり「Heritage (遺産)」として受け取っていただければ幸いです。
完成イメージ
※このチュートリアルは、書籍『Digital Art Masters Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。
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