広告キャンペーン用イメージ『抗えない魅力』のメイキング

ブラジルの デジタルアーティスト Fescher Neoilustracao氏 が、長年の経験をもとに制作した広告キャンペーン用イメージ『Fatal Attraction (抗えない魅力)』のメイキングを紹介します(Blender、ZBrush、3ds Max、V-Ray等使用)


Fescher Neoilustracao
デジタルアーティスト|ブラジル

はじめに

害虫駆除用の新しい製品を開発した化学メーカー BASF から、広告代理店の e21 を通じて、私たちのスタジオに広告制作の打診がありました。課題は「広告の中で攻撃性を一切見せず、ネズミの集団に同情的な反応をまったく引き起こさないようなイメージ」を作ることです。私たちの出した解決策は、それぞれのネズミの特徴を描きながら代理店の意見を取り入れ、クライアントの製品でネズミたちが魅了されている様子を表現して、おかしさと不快感の間のちょうどよいバランスを実現することでした。

このイラスト制作には 2ヶ月近く時間を要しました。日々取り組むすべての並行したワークフローを管理するには、合理的なチームワークが必須です。間違いがあれば 数日の遅れで済みますが、高品質を保ちつつ 期限を守ってきたこれまでの信用を落とすことだけは、絶対にしたくありませんでした。

コンセプト段階で生じた失敗は、後の工程で露呈するため、見過ごしてはいけません

01. イメージコンセプト

陳腐なイメージを避けるため、それぞれのネズミに独自の個性(体毛や目の色を含む)を与えたいと思いました。私たちのスタジオのカートゥン部門は、各キャラクターのジェスチャーや動きの開発において 重要な役割を果たしました。計画初期で生まれた説得力のないアイデアがモデリングやシェーディングで隠せないように、コンセプト段階で生じた失敗は、後の工程で露呈するため、見過ごしてはいけません。

リアルなエフェクトを再現するため、入念なリサーチを行いました。尻尾・皮膚・目・歯・爪を含む「げっ歯類」の生体構造の徹底的な調査に加え、説得力のある環境が必要でした。カメラ片手に街中を少し散歩すると、驚くような発見があります。そして、自分でテクスチャを作成すると、イメージの計画段階で徹底的に管理できます。常に更新を続けている確かなテクスチャライブラリが手元にあると、非常に重宝することでしょう。

2Dスケッチのイメージコンセプト

02. モデリング

ネズミと下水管は Blender でモデリング。手とまぶたのしわは ZBrush で修正しました。崩れ落ちた壁から見えるレンガは、前ステップで撮影した写真を基に作成。テクスチャを編集した後、3ds Max で平面マッピングからディスプレイスメントして 3D のレンガにしました。

このイメージに欲しかった強いパースを再現できるカメラはどこにも無かったため、まず、下水管全体を真っ直ぐな平面でモデリングしました。次に[Lattice (ラティス)]モディファイアで全体を1度に変形させました。これには、マッピングしたテクスチャがすべて同じように変形するという利点があり、わかりやすいイメージになります。

[Lattice (ラティス)]モディファイアと真っ直ぐな平面を使い、歪んだパースを作成します

03. ファーを作成する

あらゆるディテールに多大な労力を注ぎましたが、信ぴょう性を持たせるには体毛も不可欠だったので、特に注意を払いました。

3ds Max で生成されるハイトマップテクスチャに加え、毛の流れと方向性を決める小さい平面(後でスプラインに変換)をモデリングしました。このとき、スプラインの階層を念頭に置くことが大事です。後で生成されるヘアは、スプラインが作成された順序と、元の頂点から押し出された方向が考慮されます。胴体の頂点から生成された毛が均一になるよう、ネズミのモデリングでは均一なトポロジーを心がけました。

スプラインの階層を作成して 生成します

スプラインの順序が毛の流れを決めるため、できるだけイメージのコンセプトに近付けるように注意を払いました

04. ヘアの生成

この部分には 3ds Max の[ヘアーとファー (Hair And Fur)]を使用しました。エッジを抽出してスプラインに変換したジオメトリ(平面)を慎重に配置し、ヘアの方向を決めました。スプラインの順序が体毛の流れを決めるため、できるだけイメージのコンセプトに近付けるように注意を払いました。何回かのテストレンダーで、スプラインを通じてヘアの方向とサイズを修正し、さらに調整することができました。

個々のネズミを区別するため、それぞれの体毛に異なる設定を適用。さらに、頭・眉毛・頬などのボディパーツには異なるジオメトリを使用して、管理しやすくしました。具体的な調整が必要な場合は[スタイリング (Styling)]で調整しました。

それぞれのネズミに異なる体毛を設定

05. ライティング その1

ライティングは少し厄介です。「明るく照らされた外の通り」と 対照的な「暗くじめじめした環境」を作り、同時にネズミたちを下から絶妙に照らしました。まず、環境のライティング、次に、ネズミのライティングを行います。実際には V-Ray ライトを配置して、太陽と空からのライトをシミュレートすると同時に、イメージのディテールがわかりやすくなるように心掛けています。

暖かい太陽光を模倣しつつ、影を少しシャープにするために小さなライトを配置。空の青い光は屋外からのドームライトと 2つの V-Rayライト(Plane Light)で再現し、下水管の中の散乱(スキャッタ)を模倣しています。ネズミと前景のパイプを加えて全体を確認すると、暗過ぎて判別できない箇所があることがわかりました。そこで、ネズミに当たる空の光をもっと上手く再現し、ネズミのシルエットを背景から浮き上がらせるために、3つめの V-Rayライト(Plane Light)を作成しました。

ライトを配置して 適切な雰囲気を作ります

06. ライティング その2

カウンターライトを地面に上向きに配置して反射光を再現し、パイプのディテールがはっきりと見えるようにします。前景のパイプをもっとよく照らすため、2つのライトも作成。カウンターライト以外のライトにはすべて影があります。 ネズミを下から照らしているライトには、3つの小さな V-Rayライトプレーンを作成・配置し、左側/中央/右側の主要なネズミを目立たせるとともに、正確な鏡面反射が当たるようにしました。私たちが求めていた不思議な雰囲気を再現するため、これらのネズミにはキャストシャドウがありません。

上向きのカウンターライトと前景の2つのライトによって、パイプがよりはっきりと見えます

07. 背景のテクスチャリング

ライティングを設定すると、背景マテリアルのディテールが現れます。今回はジメジメした汚い背景を表現しようと思いました。とても暗い中でディテールをある程度表現したかったので、コンクリートやレンガを含めてあらゆるマテリアルにわずかな反射を与えました。制御しやすいように、反射の[Fresnel (フレネル)]をオン、大部分で[IOR]値を高くしました。

濡れた壁は所々で水が垂れています。この効果を示すため、マテリアルの反射率を高くし[Reflection Glossiness (反射光沢)]スロットに白黒のテクスチャを適用しました。また、あとで任意の領域を編集できるよう、前景のパイプは高反射でレンダリングしました。

濡れた壁は反射率を高くし、[Reflection Glossiness (反射光沢)]に白黒のテクスチャを適用しました