「静穏」というテーマで:『Tranquility』のメイキング

07 スタイル

ここまで 独自の「スタイル」を築き上げてきましたが、まだ十分ではありません。このスタイルは、全体の形状やデザインの単純さに特徴がありますが、ここでは実際に表面の描画に着手します。目標は、3Dアニメ映画のような雰囲気なので、ライティングと表面をできるだけリアルにする必要があります。

そのため、「06 リサーチ」 で実際のオブジェクトの見え方を確かめました。ここで冷蔵庫に取りかかりますが、本来なら気の遠くなるような作業になったことでしょう。しかし、あらかじめリファレンス写真を用意しておいたので、それを参考に作業を進めることができます。

▶少し時間をかけて描画スタイルを考えます

08 冷蔵庫の最初のライティング

表現したい温度と静穏さを描くため、慎重にライティングを考える必要があります。Photoshop で冷蔵庫とその内部の線画に切り替え、下向きの面と側面を見分けられるようにします。上面はカメラアングルの上にあるので見えません。光源は明るく、離れるにつれて急激に弱まっていきます。

そのため、ライティングは一端では明るく、暖かい色になりますが、扉が光源から離れるにつれ、部屋の他の色のような青みがかった冷たい色に変化していきます。暖色と寒色の相互作用は、このアイデアを思いついたときから念頭にあったものです。2つの要素のバランスを取り、たとえ温度は冷たくとも、ペンギンに当たっている光は「暖かい」ものとして強調します。

▶まず、シンプルなライティングを作成します

09 冷蔵庫の中

インターネットでリファレンスを探します。冷蔵庫にあるオブジェクト(瓶や缶)は一般的なものなので、簡単に見つかることでしょう。小さなプラスチック製のバーの後ろにオブジェクトを配置し、影・反射光・表面の質感を追加。さらに描画スタイルを設定して、イメージに生命を吹き込みます。光沢のある表面について学んだことを思い出し、開いた扉のオレンジのグローが、オブジェクトに反射しているところを想像しましょう。また、反対側からも冷たい光を当てて、コントラストを作ります。こうして2つのライティングを反射オブジェクト上で組み合わせれば、立体的に見えるようになります。

▶オブジェクトを描いて、リアリティを生み出します

10 レタスを捨てる

冷蔵庫を仕上げたら、次は前景要素のレタスに取りかかります。レタスはディテールのある有機的なオブジェクトなので、私はいつも手こずっています。以前、頑張ってレタスを丸ごとペイントしたときは、上手く表現できていないことに気づきませんでした。しかし、そういった経験を積み重ねたことで、ほんの小さな領域をペイントしただけで、それが上手くいくかどうか分かるようになりました。

ここでも、慎重に判断を下さなければなりません。レタスはカメラにとても近いのに、リスクを取る必要があるでしょうか? レタスの葉の位置が1枚でもおかしいと、イラスト全体が台無しになります。そのため、プランを変更することにしました。

▶ときには引き際を知ることも肝心です

11 スイカの勝利

カクテルに小さな傘を加えた後、レタスからトロピカルな見た目のスイカに変更しました。まず、基本形状から取りかかり、その立体感を注意深く観察しながらマークを描きます。次に、影を少し加え、表面やエッジが完全に滑らかにならないように凹みを作り、ざらつきのあるテクスチャを少し加えます。最後は最も難しいプロセスです。「冷蔵庫の反射」「外側の冷たい光の反射」のハイライトを追加します。これで完璧です!

12 ペンギン以外のオブジェクト

スイカの次は、氷・ボウル・ミルクに取りかかりましょう。ペンギンはメインの焦点であり、最もタフなチャレンジになるので、最後に手を付けることにします。すでに述べたとおり、ボウルは実際に所有しているものに基づいているので、光の当たり方を直に観察できます。また、ナラティブを高めるため、ディテールを豊かにするのが効果的です。ミルクパックには架空のブランドを記し、ペンギンの浸かっているミルクにはシリアルを浮かべています。こういった小さなディテールを入れると、作品が生き生きとして、味わい深くなります。

▶典型的な要素を少しずつ作成していきます

13 ペンギンのファーストパス

真っ白と真っ黒の色にはっきり読み取れるフォームを作成するのは困難です。したがって、ペンギンの明るさの多くは、くちばしとサングラスで表現します。嬉しいことに、くちばしに陰影を入れるとペンギンが生き生きとしてきました。ペンギンのささやかな笑みも気に入っています。ここでも二次的な淡い青の光を使って、ペンギンのシルエットを描きます。厳密に言うと、この明かりにははっきりとした光源がありませんが、少しばかり脚色して、シーン全体から間接的に表しています。

▶周辺の要素がほぼ完全にでき上がりました

14 仕上げ

最後に、他のオブジェクトを仕上げます。ペンギンの邪魔にならないように、慎重に作業を進めましょう(ペンギンと重なり合っている部分があります)。

ペンギンもここで仕上げます。実物は羽毛ではなく毛皮をまとっているように見えるので、表面を本物の羽のように見せるのではなく、毛皮のような要素を作成します。サングラスには適切な反射光を加えて、冷蔵庫の内側が映っているように描きます。(強調するため、通常よりも明るい反射光を試したところ、これ自体が光源のようになり偽物の光に見えました)。最後に、冷たい青を左上に、暖かいオレンジを右下に追加すれば、静穏なるペンギンの完成です!

▶メインの焦点に取りかかります

 

完成イメージ

※本チュートリアルは、書籍『続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 -感情、ムード、ストーリーテリング-』からの抜粋です

 


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翻訳:STUDIO LIZZ
編集:3dtotal.jp