「勇気」というテーマで:『Courage』のメイキング
ノルウェーのコンセプトアーティスト Orjan Ruttenborg Svendsen氏 が「勇気」というテーマの作品メイキングを紹介します
はじめに
これから「勇気」というテーマで、ファンタジーのイラストを制作します。描写方法は無数にありますが、私はノルウェー人なので、バイキングが屈強なモンスターと戦う壮大な戦闘シーンをすぐに連想しました。バイキングは「あらゆるものが運命づけられ、神々によって計画されている」と信じていたので、勝敗は始まる前からすでに決まっているのでしょう。また、「天国」を象徴する神々の大広間ヴァルハラへたどり着く唯一の方法は、死を恐れず、戦いで華々しく死ぬことであると信じられていました。
学生時代、私はペインティングを始める前に課される多くの作業が大嫌いでした。しかし、イラストレーターとして経験を積んできた今は、描くことよりも、その計画と初期段階に多くの制作時間を費やしています。ここでは、その理由を説明するとともに、本格的な絵を制作するときのあらゆるステップを紹介します。判断基準、直面する問題およびその解決法を示していくので、自分自身のプロセスと意思決定を改善する手助けとなるでしょう。私は Photoshop を使用しますが、従来の画材でもこのワークフローに従うことができます。
私は絵の計画を練るときに「何を」「誰が」「どこで」「なぜ」と自分に問い掛けます。もちろん、このプロセスはニーズに合わせて変更できますが、こうした基本的な質問のおかげで、開始前に必要な1 行の売り文句ができ上がります。「バイキングの戦士が村に戻ると、恐ろしいモンスターに攻撃されていました。彼は村を守るために立ち上がります!」
01 インスピレーションとリファレンス
ペイントするものは決まりました。しかし、何もないところから壮大なシーンを引き出すのは難しく、白いカンバスに圧倒されて、何度も先延ばしするかもしれません。アート制作の気分を高めるために、頭の中で何かがひらめくまで、選択したテーマに合う絵画や作品をインターネットで調べましょう。
映画や音楽、ゲームなども素晴らしいインスピレーションの源泉です。適切なものをバックグラウンドで流せば、気分を維持するのに最適です。歴史的なものを扱うときは、必ずリサーチが必要です。「衣装・建築・自然」が視覚的に最も重要ですが、ストーリーテリングに利用できる文化的な手掛かりも忘れてはいけません。リファレンスには、できるだけ歴史的事実に基づくものを探しましょう。他人の作品を見ることもインスピレーションにつながりますが、それをベースにデザインしたくはありません。ファンタジーアートを作る場合でも、必ず現実を見て、模倣を避けるために独創的な評価基準を見つけます。
図01:インスピレーションとリファレンス
02 10%の法則
最初のステップでは、現実の範囲内に制限することについて説明したので、次はその束縛を緩めていきます。結局のところ、ファンタジーアートを作ろうとしているので、現実世界のルールや歴史的事実に制限していても前には進みません。「存在しているもの」や「存在していたもの」を描いて満足する人もいるかもしれませんが、私は選択の余地があれば必ずひと工夫加えます。ただし、あまりに非現実的に作ってしまうと評価基準が失われるので、ファンタジーに最適な基本ルールとして、90%を現実に忠実に描き、10%に変更を加えます。
あらゆる架空の要素のデザインでは、ファンタジーを現実に基づかせるために事実の部分から始めます。今回はノルウェーの森でよく見られる動物のヘラジカをベースに、デザインを決定しました。ヘラジカは馬と同じくらいのサイズと形状で、大きい枝角と幅広い背中を持っています。最も明確な特徴は枝角なのでこれを強調し、分かりやすい最大の要素にしようと思います。頭はヘラジカに似せますが全体サイズを大きく拡大し、人間のような這い回る胴体を与えてみます。私の経験上、動物と人間の骨格を混ぜ合わせると、必ず不気味で不思議なものができ上がります。
図02:動物と人間の骨格を混ぜ合わせると、不気味な効果が生まれます
03 サムネイルと構図
サムネイル作りは、私のプロセスで最も重要なステップです。頭の中で特定の構図ができ上がっている場合もありますが、それでも時間をかけてサムネイルをいくつか作成することをお勧めします。思いがけないことが起こるかもしれません。少なくとも3つ作成しますが、2倍にして、信頼できるアート仲間に見せても良いでしょう。仲間の意見に同意する/しないは別にしても、最終的な構図を最大限に向上させる(あなたが考え付かなかった、あるいは気づかなかった)貴重なヒントや見識が得られるかもしれません。
図03:最初の3つのサムネイル(左)、最良のサムネイルからバリエーションをさらに3つ(右)
04 落書きとスケッチ
サムネイルを整えていく前に、重要になりそうなパーツを大まかにスケッチしたり、キャラクターや背景のアイデアを練ります。こういったスケッチは大まかに素早く描きましょう。後で長時間の描画を始めた際に、ラフスケッチが手元にあると便利です。通常、何かを細かく描けば描くほど、そのスケッチの活力や生命力を維持するのが難しくなります。そこで、作業しているときにコンセプトを近くの壁に貼っておくと、最初に目指していたものを思い出せます。
図04:楽しみながら構図の各パーツをスケッチします
05 サムネイルを整える
悪い構図が良い絵につながることは、ほとんどありません。サムネイルを選んでいくつかのスケッチを作成したので、プロセスの最も難しいパートは完了しました。戦士の背後に視点を配置すると、勇敢さや危険な感覚が高まります。また、鑑賞者がシーンの中に入り込み、共感を得られやすくなります。
次は構図とスケッチを組み合わせ、面白い形状や平面を作成しましょう。平面のトーンは明確にしてください。奥行きと距離感を作り出すには、はっきりした前景・中景・後景の領域が必要です。テクスチャを追加すると「デザイナー」的な発想ができるようになるので、私は(単色の塊を追加するよりも)早めにテクスチャを追加します。
図05:この時点でサムネイルを整え、平面を明度のレイヤーに分割します
06 最終スケッチ
すべての要素を上手く合わせたら、ステップ04 のラフスケッチを利用して、形状の上に簡単なスケッチを作成します。細かい線画を描くアーティストもいれば、すぐにペインティングに取り掛かるアーティストもいます。私は先に進める前に、最も重要なパーツの輪郭を描いていきます。少し余計に時間がかかりますが、経験上、その方が最終的に上手くいきます。このプロセスは、自分のワークフローに最も合う方法で進めてください。
図06:形状の中身を大まかに描きます