作品にストーリーを与える 5つの秘訣

鑑賞者を作品に引き込むのに苦労していませんか? 視線が定まらないことに悩んでいませんか? 作品にストーリーを与え、次のレベルへと導く 5つの秘訣を紹介します


Paul Hatton
3Dビジュアライザー|英国


はじめに

昨今、3Dレンダリングが飽和状態にある中で、確実にビジュアライゼーションを際立たせる方法の 1つが「シーンにストーリーを与えること」です。シーンを正確に表すレンダリングだけでは不十分で、もう一段上の作品に仕上げなければなりません。クライアントは、CAD図面を正確に表すビジュアルだけでは満足しなくなり、物語性のあるナラティブやストーリーによる感動も求めています。こうして見る人の心をつかめば、商品や家など、どんなビジュアルの商品でも売れることでしょう。ここでは、ストーリーを与え、ナラティブを主役にする 5つの方法を紹介します。

01 コンテクスト

まず 取り上げたいのは、ナラティブが展開される「コンテクスト (文脈、状況)」です。ここから、幅広いところから、細かいところに絞り込んでいきます。これは広範囲にわたる考察であり、さまざまな問いかけが必要です。

そのシーンやキャラクターが住んでいる場所は どんな世界なのか?
求めているのは 広大さ なのか、それとも 居心地の良さ なのか?
ここでは 外側 と 内側 の関係が重要なのか?

他にもいろいろな質問がありますが、その目的は、鑑賞者に入り込んでもらいたい世界の大まかな感覚をつかむことです。

もし、孤独なキャラクターが長く過酷な旅に出て、あらゆる困難に直面しているのであれば、カメラを後ろに引き、キャラクターをショットのごく一部に留めます。そうすれば、その世界とキャラクターのサイズ・能力との間に大きなコントラストを示せます。うまくいけば、大きなドラマが生まれることでしょう。

一方、ファミリー向けの物件を売りたいのであれば、家族がそこでくつろげることをコンテクストに取り入れます。屋外のショットでは、愛着を持って手入れされた庭のある近隣の物件をアピールします。近所の人が車から笑顔で降りてきたり、子供が前庭で遊んだりする様子を映し出しましょう。

このように、コンテクストは、鑑賞者をナラティブに引き込み、設定した世界に没頭させるものです。

暗い雰囲気と光の使い方で、人物に注目が集まります。「なぜそこにいるのか?」「何を見ているのか?」(© Nick Brunner)

02 雰囲気とムード

コンテクストが決まったら、次はシーンの「ムード」を考えてみましょう。この段階での質問は次のようなものです。

暗いムードにするか、明るいムードにするか?
陽気なのか、真面目なのか?
差し迫った危機があるのか?

当然ながら、伝えたいナラティブによって質問は変わってきます。そのため、まず、ストーリーをよく理解することが大事です。キャラクターが感じていることや、ビジュアルで見る人に喚起したいことを表す「キーワード」をリストアップしてください。

これらの質問を慎重に検討し、どうすればそれらを感じてもらえるかを考えます。長く過酷な旅をしているキャラクターに話を戻しましょう。このシーンでは、暗く陰気な雰囲気を醸し出せそうなので「暗い色」「雲」「雷」を使います。一方、人生を謳歌し、すべてが順調に進んでいるキャラクターには、「暖色系の色」「青い空」「白いふわふわとした雲」を使います。

出口と比較した男のスケール感や、大きな明るい光によって、見る人は疑問を抱きます。「なぜ そこにいるのか?」「どんな世界に住んでいるのか?」(© Mo)

03 光

「光」はムード作りと密接に関係していますが、ストーリーを伝えるのにも有効です。ホラー映画や演劇で、登場人物の顔に下から光を当てる演出を見たことがあるでしょう。そうすることで、威嚇的な表情になり、怖いことやゾッとすることが起こりそうな雰囲気になります。

また、光をうまく使って、シーンや人物の体の一部を強調することもできます。たとえば、光で観客を引きつけるとき、屋外に置いたカメラを家の方に向けることがあります。そうすると、屋外は青を基調とした暗い雰囲気になり、屋内は温かみのある居心地のよい空間になります。そして、光は見る人を引き込むので、家の中で起きていることが、とても輝き出します。そのシーンは 家族団らんですか? それとも友人同士で夕食を楽しんでいますか? 光は、ストーリーを語り、見る人を集中させます。

光と霧を使って、シーンに不気味に仕立てています(© David Spiers)

04 セットドレッシング

コンテクスト、ムード、光という大きな項目を見てきたので、次は、より細かい「セットドレッシング」について考えてみましょう。セットは、伝えたいストーリーに大きく貢献します。ベッドルームで、ベッドメイクがされておらず、床に服が散乱している場合、「登場人物は急いでいる、あるいは 怠けている」というストーリーが伝わります。食べかけの夕食や潰れたビール缶でシーンを飾れば、さらに 怠惰なストーリーになるでしょう。セットドレッシングによって、ナラティブのトーンが決まるのです。

長く苦しい旅をする男の話だと、目的地までに「乗り越えなければならない障害」がたくさんあるとよいかもしれません。建築ビジュアライゼーションを作成するのであれば、その物件の販売ターゲット層をクライアントに尋ねてください。その答えによって「プロ仕様の高級な家具」を揃えるのか、それとも「もう少し快適で親しみやすいもの」にするのかが決まります。

ノートパソコンからの部分的なライティングを巧みに使い、「ここにはどんな人が住んでいるのだろう」と思わせます (© Nuddle)

05 不完全性

「不完全であること」は、ビジュアルにストーリーをもたらす素晴らしい方法だと思います。これは、特に建築ビジュアライゼーションに当てはまりますが、もっと広範囲に応用できることでしょう。一般的に建築ビジュアライゼーションは、完璧すぎる傾向があります。誰も住んだ形跡のない部屋、左官職人が作ったとは思えない滑らかな漆喰の壁、あるいは、1度も座られていない椅子や、1度も歩いたことのない床など。

生活感のあるシーンを想像して、それぞれにどんな欠陥があるのか考えてみてください。それは、「フローリングの床の傷跡」「窓の指紋」かもしれません。このような不完全性を取り入れることで、より親しみやすくなり、語るストーリーに信憑性が生まれるのです。

寝具に生活感を与え、実際、人が住んでいるような部屋にします © Darren Ahmed Arceo

最後に:楽しむ

ビジュアルストーリーテリングで最も大切なのは、「心から楽しむこと」だと思います。技術的な正確さも大切ですが、そこから一歩引いて、「なぜこのようなシーンにしたのか?」を考えます。少し空想し、創造的に思考してください。アイデアを出し、友人や同僚に見せて、どう感じたか尋ねてみましょう。ビジュアルにストーリーを取り入れると、作品にもっと興味を持ってもらえるはずです。

 


編集部からのおすすめ: 描くだけでは何か足りない!? 絵に、感情、ムード、ストーリテリング を籠める方法を学ぶには、書籍『続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則』をおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp