サイバーパンク風コンセプトアート「Camp site」のメイキング

ゲーム『ウィッチャー3 ワイルドハント』『メトロエクソダス』『Dying Light』などに制作参加した コンセプトアーティスト Andrzej Dybowski氏が、サイバーパンク風コンセプトアート「Camp site (野営地)」のメイキングを紹介します(Photoshop使用)


Andrzej Dybowski
コンセプトアーティスト


はじめに

このメイキングでは、コンセプトアート制作における技術面よりも、芸術面に焦点を当て、イメージ制作過程における 行わなければいけない選択について説明します。ストーリーテリング、デザイン、構図、アイデア、明度、色について述べるだけでなく、それらを組み合わせ、魅力的な作品を作る方法も合わせて紹介しましょう。

ステップ1:リファレンス

ブラシでペイントをする前に、私は必ず、題材について、多くのリサーチを行います。今回のイメージでは「アフリカの民族的な建築」「未来的なサーバーパンク要素」を組み合わせたいと思いました。さらに、アフリカの風景をアジアのジメジメした雨の多い地域に変化させ、このイメージを目にした人を少し困惑させたいと思いました。衛星アンテナを加えると、この野営地が 都市から遠く離れている雰囲気が出ます。

リファレンス写真を集め、アイデアを具体化します

ステップ2:クイックスケッチ

私はよく、たくさんのリファレンスイメージを思い浮かべながら、Photoshop でクイックスケッチを描きます。大抵 ごちゃごちゃしたスケッチなので、私自分にしか分かりません。このイメージは構図が非常に対称的で、はっきりした前景がないことを示しています。あらゆるものが奥まっているので、侵入者はこのキャンプに入れません。建物はリファレンスに似ていますが、パイプ、アンテナ、パラボラアンテナなどの機械構造を支える必要があるため、もっと大きくて頑丈です。建物は しっかりした赤い石の上に立ち、木製の支柱でつながっています。後景の深い森と高い山々が、さらに神秘的な雰囲気を醸し出しています。

このクイックスケッチでは、主要なアイデアをイメージします

ステップ3:色をつける

手早く簡単に色とカラーパレットを見つけるため、自分のニーズに合った写真を撮影し、[ぼかし(移動)]フィルターでぼかします。今回は、要素の大部分が縦方向にあるため、縦方向にぼかすのが最も理にかなっています。このステップで しっかりしたベースができ上がります。

気に入った写真をぼかし、適切なカラーパレットを見つけます

ステップ4:最初のひと塗り、大まかなブラシストローク

カラーパレットがあると、最初のひと塗りへの勇気が出ることでしょう。とても大きなブラシで、建物、桟橋、森、山など大きめの要素をペイントして、全体の構図を決めます。これで、連続した建物の色が、緑の森の後景と合っているかどうか 確認できます。

大きな形状をペイントし、構図を魅力的に見せます

ステップ5:フォトバッシング

フォトバッシングで 写真を取り入れ、色やテクスチャでイメージを強化しましょう。このステップで、これまでの判断が間違ってないと分かりました。前景の長い草の高彩度の緑や、森のグレーがかった緑がとても気に入りました。また、中央の白い建物は際立ち、作品のメインテーマとなっています。

フォトバッシングで写真を取り入れ、色やテクスチャでイメージを強化します

ステップ6:コントラストと雰囲気

家の土台となっている石にオレンジのアースカラーを塗り、さらに目立たせます。そして、小さな四角い金属の建物を追加して、大きな円柱型の建物のマテリアルや形状と対比させました。また、森に植物を加えて空気遠近法を適用、さらに、山の色温度を下げ、後景の空間を広げました。ボートが浮かんでいると、ストーリーテリングの要素が少し加わります。

形状を対比させて、植物を追加して、空気遠近法を取り入れます

ステップ7:サイバーパンク要素

パイプ、円柱、ケーブルなどのサイバーパンク要素を加えて、このイメージの主要なアイデアを表現しましょう。左にある2つの建物の屋根の下のラインが同じ高さだったので、中央の建物の屋根を少し上に移動させました。また、試しに、別の色(青み)を取り入れて、他の要素と建物をさらに区別しました。

重要な要素を加え、ストーリーテリングの側面に取り組みます

ステップ8:前景と雲

構図を考慮した結果、ボートを削除することにしました。また、木製の桟橋を垂直方向の板にすると、鑑賞者の視線はイメージのより奥深いところへ入ります。建物の後ろにある雲は建物を後景から際立たせ、神秘的な雰囲気を加えています。青色を加えるアイデアが気に入ったので、反対側にもペイントしました。

前景を調整して 鑑賞者をイメージに引き込み、雲を加えて、ストーリーテリングと分かりやすさを向上させます

ステップ9:アンテナ

建物の屋根で作業します。屋根のマテリアルをくっきりさせ、わらぶき屋根で、より民族的に見せました。最後に、ストーリーの主な要素である衛星アンテナとパラボラアンテナを追加。また、後景に少し霧を加え、建物の後ろにある草の明るさと彩度を上げて、建物の形状をさらに明確にしました。

ストーリーテリングの要素を追加し、イメージ全体に手を加えます

ステップ10:キャラクターとディテール

構造物には、まだスケール感がありません。スケール感を出す最も簡単な方法は、キャラクターの追加です。衣装やその他の要素によって、シーン全体の時代背景もよく分かります。サイバーパンク スタイルを強調するため、小さな偵察ロボットもペイントしました。窓をペイントすると、建物のスケール感が分かりやすくなるでしょう。さらに、パイプやケーブル、他の細かい要素を追加して、シーンを生き生きとさせました。

鑑賞者が見て、分かりやすいキャラクター、窓、他の細かい要素を加え、スケール感を出します

ステップ11:仕上げ

この最終ステップで必ず、カラーバランスを調整します。まだ 前景と後景がはっきり分離していなかったので、後景を寒色寄りに、前景を暖色寄りに変えました。建物の円柱構造の雰囲気も欠けていたため、[オーバーレイ]レイヤーに光と影をペイントし、さらに正確なパースで側面にも窓を描き足しました。特に、パラボラアンテナの上に光を追加しています。[アンシャープ]フィルターでイメージ全体をシャープにして、色収差を加え、より映画的な雰囲気を出しました。

カラーバランス、光と影、イメージのシャープネスなどを調整し、色収差を加えます

ステップ12:明度の確認

制作中はときどき、明度を確認します。無地のグレーレイヤーを作成して描画モードを[カラー]に変更すれば、明度を変更することなく 色情報を取り除けます。ペインティングにおいて、明度は 構図の次に重要な要素です。色もとても大事ですが、明度がマズイと、そのイメージを正しく解釈することができません。大切なのは、目と脳が絵に慣れてしまわないよう、常にイメージを反転させることです。そうすれば、間違いに気づけることでしょう。

イメージを何度も白黒に変換したり、反転させたりすることで、間違いを確認します


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翻訳:STUDIO LIZZ (Atsu)
編集:3dtotal.jp