ZBrush 使用、『悪魔の胸像』のメイキング

スペイン出身、英ロンドン在住の 3Dアーティスト / モデラー Fran Alonso氏 が、「悪魔の胸像」のメイキングを紹介します(ZBrush、Maya、MARI 等使用)


Fran Alonso
3Dアーティスト / モデラー|スペイン


はじめに

私は新しい個人プロジェクトについて考えるとき、常に具体的な目標を設定します。こうして 新しいツールを探求しながら、特定分野のスキルセットを拡張できる刺激的な課題に向き合っています。

過去5年間、ゲーム業界で働いてきました。そこで、今回のアイデアは、リアルタイムパイプラインでなく、「プロダクションワークフロー(UDIM、Arnold など)で、リアルなクリーチャーの頭部を作る」というものです。さらに、ZBrush の[Geometry HD]ツールでディテールを追加することや、MARI で直接ペイントして その可能性を探り、これまでのやり方とこの機能の長所/短所を比較検討することにも興味がありました。

リファレンスの収集

今回は、Dongjun Lu氏 の素晴らしいコンセプトをベースに作っていきます。その完成イメージを際立たせる斬新でクールなアイデアをみつけるため、インターネットでリサーチしました。主に、悪魔・山羊・そして、角を持つ一般的なクリーチャーを集め、それらのさまざまなトポロジーと形状を理解しました。また、灼熱の地獄から蘇ったばかりの生焼けの皮膚感を出したかったので、火傷や傷跡の画像も探しました。

PureRef は、こうしたすべてのリファレンスを同じ場所で適切に整理するのに便利です(私が愛用するツールの中でも、欠かすことのできない使いやすいソフトウェアです)。

PureRef でリファレンスを収集・整理します

ブロックアウト (大まかにつくる)

大きなウォールをリファレンスでいっぱいにしたら、悪魔の頭部と肩の一般的な構造を ZBrush の ZSphere や ダイナメッシュで大まかに造形します。このステップでは ディテールに踏み込むことなく、全体のシルエットに集中、形状やボリュームの一般的なアイデアを模索しました。今回は、サンプルのローポリメッシュや球を使う代わりに、ZSphere で作成することにしました。このツールを選んだ理由は、単一のメッシュよりも手速く角のアーチを変更できるからです。

ZSphere で造形すれば、簡単に角を作成・調整できます

モデリング

ブロックアウトに満足できたら、次のディテールレベル、つまり、二次的な形を考えるため、実際にモデリングしていきます。胸部から肩をカットして、「角の見やすさ」を改善して「より良いシルエット」を作ることにしました。さらに、キャラクターの表情にもこだわりを見せています。特に、焦げた皮膚は、この胸部と角の主な課題でした。この段階で、クリーチャーに非対称的なタッチを加え、より自然な感じを表現しています。

肩をカットして二次的な形を加えた悪魔

顔のクローズアップ

リトポロジーと UV

クリーチャーのさまざまな部位を OBJ形式 で Topogun にエクスポートし、リトポロジーを始めます(※メッシュの複雑さで判断。Maya の[クワッド描画]ツールを使う場合もあります)。

リトポロジーを終えたら、Maya に戻して UV を作成します。今回は MARI と連携させるために UDIMレイアウトシステムを採用しました。当時使っていた Maya のバージョンに強力なリラックスツールがなかったため、最後に UVLayout で歪みを軽減させています。

Maya の UDIMレイアウト

再投影 - ディテールパス

UV が完成したら、モデルを ZBrush にインポートして戻します。続けて投影ツールを選択、ダイナメッシュモデルのディテールを新しい UVメッシュに転送します。投影が完了したら、より小さいディテールパスで作業を開始しますが、この段階ではバストに大きな変更を加えません。

[Standard]ブラシとさまざまなアルファで、毛穴やしわなど微細な皮膚のディテールを追加します。冒頭で述べたように、私は Geometry HD 機能をテストしたかったので、ここで利用しました。新しいディテールレベルは 約9,000万になり、よりリアルなルックを実現することができました。

Geometry HD でサブディバイドした顔のクローズアップ

胸像全体

ディスプレイスメントマップとキャビティマップ

ZBrush でディスプレイスメントマップをベイクするときは、[Zプラグイン]>[マルチマップエクスポーター]プラグインの EXR 32 ビット オプションを使用します(図の左)。これにより、あとで Maya の設定が簡単になります。ベイクすると、Geometry HD に含まれる追加のディテールがマップに表示されます。

さらに、ジオメトリを白でポリペイントしてキャビティマップを作成し、[キャビティによるマスク]で凹みを黒く塗りつぶします(図の右)。最後に[マルチマップエクスポーター]プラグインで、これらのマップをすべてエクスポートします。

ディスプレイスメントとキャビティのワークフロー

テクスチャリング

テクスチャリングプロセスはすべて MARI で行いました。私は作業を始める前に、皮膚と角にニュアンスを与えるため、タイルテクスチャを集めます(図の左)。スキンテクスチャをベースにしますが、コンクリートや金属なども使ってバリエーションを加えます。これらのテクスチャはほとんどの場合、プロシージャルの タイルノード(Nodes > Procedural > Pattern > Tiled Node)で、マスクと組み合わせて使っています。マスクは手描きしたり、タイルノードで操作したりできます。

MARI でさまざまなバリエーションを作成

ルックデヴとレンダリング

この『悪魔の胸像』のルックデヴ(lookdev)とレンダリングに使用したのは、Maya と Arnold です。ほとんどの要素に、SSS をオンにした[aiStandard]マテリアルを適用しました。これは驚異的な結果をもたらす高速シェーダです。ライトリグは古典的な3点照明(メインの太陽光・フィルライト・リムライト)と、HDRI を接続したスカイドームライト(環境光)です。

3点照明とスカイドームライト

HDRI の環境光

プロのヒント

01:[Arnold RenderView]はとても便利で時間の節約にもなるので、ルックデヴ プロセスでは Maya 内蔵のレンダープレビューの代わりに使用することをお勧めします。また[レンダー設定]で AOV を有効にして確認することもできます。

完成イメージ

02:クリーチャーのアルファマップを作るとき、私はカエルやワニのスキンパターン/スキャンを使わずに、別の方法を考えるようにしています。今回は人間のスキャンで素晴らしいパターンを見つけました。たとえば、悪魔の顔のディテールには、「手のひらのしわ」のスキャンを使っています。また、歯にディテールを加えるため、キュウリのスキャンからいくつかのテクスチャを取得しました。

側面、正面


編集部からのおすすめ:ZBrush による制作テクニックを学ぶには、書籍『ステップアップのための ZBrush ガイド』『ZBrush キャラクター&クリーチャー』をお勧めします。

 


翻訳:STUDIO LIZZ (TK)
編集:3dtotal.jp